自分の話ではなく知人の話なんですが、本人の許可をとったので記事にしてみます。

 

もう去年の話なんですが、とある飲み会の席で、知人に真顔で「自分に本を、出来れば小説をお勧めして欲しい」と言われたんです。

 

ん、最近の面白い本を知りたいってこと?と思ったんですが、よくよく聞いてみるともうちょっと複雑な話でして。

その知人、一言でいうと「「好きな本のジャンル」が欲しい」ということだったんですね。

 

知人の名前を、仮にAさんとします。

音楽関係の以前からの知り合いでして、年に一回、とある決まったステージで一緒に演奏をする仲です。

Aさんは、今まで「本当に全く読書の習慣がなかった」という人です。

 

文章に触れていないというとそういう訳ではなく、仕事が法曹に近いので堅い文章に触れる機会は人より多いくらいなんですが、「本を読む」というと全然その習慣がない。

物語文に触れた経験なんて、学生時代にやった国語の教科書の読解くらい。

 

子どもの頃に絵本を読んだ経験もほぼなく、漫画にもラノベにも触れる機会がなく、「読書」という趣味とほぼ無縁にそれまでの人生を過ごしてきた、ということらしいんです。

 

どうも家庭環境がやや特殊だったようで、むしろそのルーツで比較的文章寄りの仕事についているのが凄いと思ったんですが、まあそれについてはプライベートな話なので省略します。

 

そんなAさんが何故「小説を読みたい」と志すに至ったかというと、まあ当然のことながら周囲に読書家が多く、みんな

「こういうジャンルが好き」とか「こういう話が面白い」というような話が出来ているのが羨ましいと思った、と。

 

もっとぶっちゃけてしまうと、「このジャンルの本好き」とか「趣味は読書」と言えるのがかっこいい!羨ましい!と思ったらしいんです。

そもそも小説自体をよく知らないので、どのジャンル、というこだわりは全くない。

 

私、「それすごくいい動機だなー」と思いまして。

 

もしかすると、「ジャンルから入る」という動機を不純だ、と考える人、いるかも知れません。

「かっこいいから」という動機を邪道だと思う人、いるかも知れません。

 

読書家の間には、「スタイルから入る」ということを忌避する人が一定数存在します。

つまり、面白いか面白くないか、楽しめるか楽しめないかこそが重要であって

「その本を読むこと、そのジャンルを好むことがかっこいいから」というのは邪道だ、という向きがあるんですね。

 

その考え方は考え方で納得できないこともないんですが、私、「入口」が何かなんて別にどうでもいいじゃん、と思う方なんですよ。

大事なのが「楽しめるか楽しめないか」なのであれば、動機が「かっこいいから」なんて全然上等じゃん、と。

 

入り口は広ければ広い程いいし、ハードルは低ければ低い程いい。

そういう意味で、結果的に「好き」にたどり着けるのであれば、「本好きって言えるのかっこいい」なんて実によろしい動機なのではないかと。全く引け目を感じる必要ないんじゃないかと。

 

何はともあれ、「小説を読む、という経験がほぼない人に、小説を勧めて欲しいと言われた」為、それに協力することにした、とご理解頂けると幸いです。

 

***

 

誰かに本をお勧めする機会はそこそこあります。

 

全く文章に触れていない人であれば、難しい難しくない以前にそもそも一冊読みきる精神力(私はこれを読書体力と呼んでいるのですが)が続かなかったりするので、最初から小説に行くのではなく、むしろ漫画やら絵本から入った方がいいと考えるところです。

 

ところがAさんの特殊なところは、「読解力自体にはなんら不足がない」ということです。

文章の難易度的には、むしろ普段触れている文章の方が小説よりよほど難しいくらいなので

「文章構造が複雑かどうか・用語が難しいかどうか」は多分あまり考慮する必要がないし、読書体力についても恐らくあまり気にする必要がない。

 

これはちょっと、場合によっては面白いことになるかも知れないな、と思ったので、

「お勧めした本が気に入ったら自分が継続的に当該ジャンルのキュレーションをする」という条件で、その内お勧めした結果を記事にしていい?と許可を取りました。

 

で、大体1年くらい経ちまして、ある程度中間結果も出たような気がするので、この記事にまとめたいと思った次第です。

 

***

 

当初Aさんにヒアリングをして、得られた情報は以下のようなものです。

上で書いてある部分もあるのですが、改めて書き起こしてみます。

 

・年齢は30台前半

・小説や漫画は全く読まない

・テレビはちょくちょく観る。観るジャンルは大体ニュース、クイズ番組、旅行もの、刑事ものなど。記憶している限りでは、アニメはほぼ観たことがない

・映画も滅多に観ないけれど、スターウォーズ(聞いた限りでは4から6)は割と好きで何度か観た

・ゲームもあまりやったことがないけれど、友達の家でやっているところを観るのは好きだった。覚えているのはドラクエ、マリオなど

・親と同居で、自宅では猫を2匹飼っている

 

で、「読んだ先」のことを考えると、そのジャンル自体、ある程度広がりがあるジャンルがいい。

一冊読んだ後、じゃあ次はこれどう?とスムーズにお勧め出来るジャンル、本がいいなあと。そう考えたわけです。

 

こんな条件で、皆さんなら何をお勧めするでしょうか?

 

私の場合、上の条件から考えたジャンル候補が、

「SF」

「推理小説・ミステリー」

「児童小説(猫が登場するやつ)」の三つでした。

 

小説や物語を楽しめるかどうかを分かつ最大の要素が、「その世界に入り込めるか」「その世界へのフックがあるか」ということであるのは間違いありません。

物語の世界に入り込めないということは、感情移入出来ないということであって、その物語世界の中で起きたことを自分の経験として楽しむことが出来ません。

 

そこから考えると、ある程度触れたことがあるコンテンツ、普段の生活に関係する要素がある小説の方がいいのではないかと考えた訳です。

 

SFについては、単にスターウォーズに触れた経験があるからという話よりも、ワープやら宇宙船やら光線銃やら、「SF的な世界観・用語」に対して親和性があるかどうかが加点要素。

刑事ものをよく見るなら、サスペンス・推理ものにも馴染みがありそうです。

 

また、あまり物語に触れたことがない人に勧める一つの鉄板が児童小説なので、更に猫と関連付けられれば強力なフックになるのではないか、というのも一つ。

 

で、各ジャンルごと、次のような本を提案してみました。多分に自分の趣味が含まれています。

 

SF:「エンダーのゲーム」(オースン・スコット・カード)

推理小説:「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティ)

児童小説:「ルドルフとイッパイアッテナ」(斎藤洋)

 

 

それぞれの作品は有名作中の有名作なので、補足説明もそれ程必要ないかとは思うのですが、「エンダーのゲーム」は「バガー」という異星人の侵略に備える為にゲーム形式の訓練を受ける少年「エンダー」の活躍譚。

「そして誰もいなくなった」は、ミステリーの古典中の古典、とある島に招待された8人の男女をめぐる物語。

「ルドルフとイッパイアッテナ」は、トラックに乗って故郷から東京まで運ばれてしまった黒猫「ルドルフ」と、トラ猫のイッパイアッテナの物語です。

 

どれもどちらかというと古典寄りですが、超面白いので未読の方は読んでみてください。

 

結論から先に言うと、この中で一番Aさんに刺さったのは「ルドルフとイッパイアッテナ」でした。

 

Aさんの非常に偉いところは、全ての本をちゃんと読破して、かつ私にそのフィードバックをくれたところなんですが、それぞれの作品に対する感想・フィードバックは下記のような感じでした。

実際の感想にはネタバレも当然含まれているのですが、その辺はかなり四捨五入しています。ご容赦ください。

 

【「エンダーのゲーム」についての感想】

筋書は分かりやすかった。読後感が良いこと、戦闘の時の読みあいの面白さ、ストーリーの目的がはっきりしているのもわかりやすくてよかった。

ただ、「登場キャラが子供」という理解から入ったので、物語の中で出てくる子供たちの会話があまりにも頭良すぎて、その辺であまり感情移入出来なかった。

結構精神的に追い込まれるシーンもあってちょっと辛かった。

 

【「そして誰もいなくなった」】

「誰が犯人なのか?」を読みながら考えるのが多分面白さの中心だと思うんだけど、あまりそこには乗れなかった。

刑事ものドラマでもそうなんだけど、どちらかというと被害者の方に感情移入してしまうので、ロジックパズルみたいな部分にはついていけていないかも知れない。

仕掛けが凄いことはわかるんだけど、もうちょっと楽しめる筈なのにちょっとおいていかれている、みたいな感覚だった。

 

【「ルドルフとイッパイアッテナ」】

一番面白かった。完全に猫の視点、というのが凄い。

猫のしぐさというか行動も実際の猫みたいで、「ああこういうのあるある!」「自分の猫ももしかしてこういう風に考えているのかも!!」って物凄くわくわくしながら読めた。続きが読みたい。

 

ということで、「多少のフックは猫の前に無力」という結果でした。

ねこつよい。

 

エンダーは割と面白さも感じてもらえたっぽいんですけどね。

猫ものであることも含めて「夏への扉」の方が良かったかなー。

けどあれ主人公が実際やってることは結構好みが分かれるからなー。

 

「ルドルフとイッパイアッテナ」については、皆さんご存知の通り猫もの児童小説の傑作でして、かつ「飼い猫だったルドルフが飼い主から離れて野良猫としての生活を送ることになる」という筋書きの関係上、ルドルフ視点と飼い主視点、両方に感情移入出来ることがAさん的には大きなポイントだったようです。

 

イッパイアッテナに出会ったルドルフが野良猫の日常生活を送りつつたくましく生きていくというのもAさん的にはとてもカタルシスがあったようで、その点も大きかった模様。

 

「人に本を勧める時は、フックの多さと強力さを一番に考慮する」というのがお勧めする際の最重要ポイントである、という認識を新たにしました。

 

で、その後、児童書を中心にお勧め本を選定するようになりまして、「ルドルフとイッパイアッテナ」の続編である「ルドルフともだちひとりだち」「ルドルフといくねこくるねこ」「ルドルフとスノーホワイト」などを経て、「モモちゃんとアカネちゃん」「空飛び猫」から「ゲド戦記」「はてしない物語」くらいまで行きつきまして、順調に児童小説好きとしての道を歩んで頂いているような状況です。

 

今では自分で児童小説を探すこともあるようで、「好きな本」「好きなジャンル」を見つけ出すお手伝いが出来たのは良かったなーと考える次第なのです。

 

ということで、今回は「本を読まない人に、実際に本を薦めてみた結果」という話を書いてみました。

ルドルフとイッパイアッテナは続編も含めて非常に面白いのでみんな読むといいと思います。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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(2019/7/14更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:I am R.