おもしろいタイトルの本を見つけた。
『なぜ、お父さんはスーパー家電を買うのか?』
なぜ、お父さんはスーパー家電を買うのか?: ~現場起点のDX事業開発~ DX時代の歩き方
- 佐藤洋
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筆者の70代の義父は、よく新製品、いわゆるスーパー家電を買って来るそうだ。
いままではそれを「義父は新しいもの好きなんだなぁ」と思っていたが、実は義父がスーパー家電を買うのには、別の理由があったらしい。
さて、それはなにか?
みなさんはわかるだろうか。
父がケーキを買うのはケーキが好きだから……ではない!
さっそくネタバレすると、「娘と会いたいから」。
2人の娘は家を出て近所に住んでおり、「マッサージチェアを買った」といえば、娘たちは「使ってみたいから今度行くよ」と実家に帰って来る。
義父の狙いは、そこにあったのだ。
事実、購入した製品は、簡単に人には貸せない大きい設置型の家具ばかりだったという。
このくだりを読んで、わたしは実家の父を思い出した。
我が家には物心ついたときから、「21時半のお茶会」がある。
いつ、なぜ始まったかわからない。でも、20時ごろ夜ご飯を食べ終わってそれぞれの部屋で過ごしていても、なぜか21時半にみんなリビングに集まるのだ。
そこで、ケーキやらチョコレートやらを食べながらテレビを見て雑談し、22時すぎに歯を磨いて「おやすみ」とそれぞれの部屋に戻って就寝。
これが、我が家の習慣だ。
だからなのか、父はよく、「今日のお茶菓子」と言って甘いものを買ってくる。
ドライブ帰りにケーキ屋を見かければ「お茶会のためになにか買っていこう」と言うし、出張先でも「地元で有名らしいよ」と見慣れないパンなんかを持って帰ってくる。
父自身甘党だとはいえ、自分ひとりで食べるだけなら、そこまで「甘いものアンテナ」を張っていなかっただろう。
冒頭で紹介した本の「新しい物好きの義父」もきっと、娘がいなかったら、スーパー家電を買っていなかったと思う。
ふたりの父親は、スーパー家電やスイーツがほしいのではなく、どちらも「家族の時間」のために買い物しているのだ。
家族のために買い物するお父さんへの最適なプロモーション方法は?
ここでみなさんに、「この2人のお父さんにプロモーションをかけるならどうすべきか」という質問をぶつけたい。
もしこのコンセプトでマーケティングのプロモーションする場合は、多分、お父さんに対して「これなら娘がリビングに居座る!」みたいなCMなのかも知れません。
お父さんがターゲットですが、その製品内容は娘の欲求を満たすものです。現在は「個」マーケティングの時代といわれていますが、「年齢、性別、お父さん」という属性だけではこのような製品・サービス戦略は出てこないと思います。個マーケティングの落とし穴でもあるかも知れません。
出典:『なぜ、お父さんはスーパー家電を買うのか?』
これ、めちゃくちゃおもしろい着眼点じゃないですか?
うちの父を例にすれば、
「50代男性、スーツだからきっとサラリーマン。50代男性なら甘すぎないさっぱり系、モンブランやチーズケーキを勧めよう!」
というのは、マーケティングとしては大失敗である。
なぜなら父がケーキを買うのは、甘いもの大好きな娘のためだから。
そう、正解は「デロッデロに甘いチョコレートケーキ」、もしくは「写メを撮りたくなるカラフルなフルーツケーキ」だ。
なんなら、うちの父親へのプロモーションであれば、ケーキである必要すらない。
北海道で有名な濃厚ミルクアイスでもいいし、京都の老舗の味を再現した話題の和菓子でもいいし、健康にいい栄養たっぷりフレッシュ野菜ジュースでもいい。
そのうえで、「このミルクアイス、ナッツやフルーツを添えてもおいしいですよ。チョコレートソースやいちごソースも別売りでつけられますがどうします?」なんて聞けば、父は「じゃあトッピング一通りつけてください」と即答するはずだ。
わたしと母は好みがちがうし、いろんなトッピングがあれば、「どれにする?」とお茶会が盛り上がるから。
別に父は、ケーキやアイスを食べたいんじゃない。
家族と楽しくお茶会をしたいのだ。
サラダを食べたい顧客が、サラダメニューをまったく注文しなかった理由
ここでもう一つ、顧客のニーズを把握するのがむずかしい一例として、マクドナルドの話を引用したい。
マクドナルドでお客様アンケート調査したところ、「サラダを食べたい」の回答が圧倒的に多かったそうです。しかし、実際に市場投入した「サラダマック」は全く売れなかったそうです。
つまり、アンケートでは、「お客様はヘルシー思考」の回答はしたが、真実は、「お客様にとってマクドナルドは、背徳感を思いながら食べる場所」であったのです。ちなみにこの後、クオーターパウンダー(従来比2倍のバーガー)を発売するとバカ売れしたそうです。
出典:『なぜ、お父さんはスーパー家電を買うのか?』
この話もまた、おもしろい。
「健康的な食事をとるべきだと思うか」「野菜を食べたいと思うか」と聞かれたら、だれだってイエスと答えるだろう。そりゃ、食べたほうがいいからね。
でも、マックにそれを望むだろうか。
ヘルシーな食事を求めるなら、そもそもマックにはいかないはずだ。
この勘違いは、ドイツ人の夫と京都に行ったとき、わたしも経験したことがある。
夫は和食が好きだし、「せっかくならいいものを」と思って、部屋食付きの嵐山の高級旅館を予約した。
しかしいざ部屋で豪華な京料理を食べてみると、なぜか夫は始終眉根を寄せている。
「どうしたの?」と聞けば、「なにがなんだかわからない」と言う。
膳のうえには何種類もの料理が乗っており、それぞれに普段口にしない食材が使われている。
夫はそれがなんなのか、気になってしょうがないらしい。
「これはかぼちゃで、こっちは松茸。高級品だよ。これはタケノコ」
「どれも食べたことがない。なんかこれぶよぶよしてるし……」
「茶碗蒸しってそういうものだから」
「ふーん……」
どうやら、得体のしれないものがずらっと並び、気疲れして、食欲を失ってしまったらしい。
日本食食べたいって言ってたのに! 高級旅館を予約したのに!と内心むっとしたが、まぁ海外旅行中に毎日毎日知らないもの食べてたら疲れちゃうよね、うん。わたしの配慮が足りなかった。
ちなみに翌日、二条城のそばのカフェでカレー(1000円)を食べた夫は、上機嫌だった。
「日本食はおいしいなぁ!」と。
顧客のニーズを把握するのはビジネスの基本であり最難関
スーパー家電や仕事帰りにケーキを買う父親は、家電やケーキがほしいわけじゃなくて、家族団らんのきっかけを求めているだけ。
たとえ目の前の男性がマッサージチェアを買っても、ガトーショコラを買っても、だからといってマッサージチェアがほしくてしょうがない、ガトーショコラが大好きな人とはかぎらない。
マックのアンケートで「サラダを食べたい」という結果が出たからって、顧客がサラダを注文するとはかぎらない。
夫が「日本食を食べたい」と言ったからって、高級京料理で喜ぶわけではない。
マックの客が求めていたのは「サラダを食べるべきだとは思いつつもつい食べちゃうがっつりハンバーガー」だし、夫が求めていたのは「ドイツにもあるような親近感がわく和食を日本で食べること」だった。
そう考えると、相手のニーズを正確に把握するのは、本当にむずかしい。
顧客のニーズを見極めることがビジネスの第一歩であり最重要とは言われるけど、改めて考えるとめちゃくちゃむずかしいよね、それって。
最終的に大事になるのはアナログ接客かもしれない
どの企業も、「顧客のことをよく知るために」とさまざまなデータを集め、日々分析しているだろう。
わたしも個人ブログに力を入れていたときは、ユーザーの性別や年齢層、検索キーワード、滞在時間や記事途中の離脱箇所の分析などをしていた。
が、結局のところそれは「数字」であって、「人間」ではない。
毎日見に来る熱心なアンチもいれば、たまに読んでくれる固定読者もいる。
数字だけ見ればアンチのほうが「熱心なお客さん」なわけだが、わたしが大事にしたいのは後者のほうだ。
たとえ「40代男性」という属性の読者がいても、その人が「娘と同年代のライターだから応援しよう」と思ってくれているのか、「編集者としてちょっとチェックしておこう」と思ってくれているのか、まったくわからない。
そう、数字とにらめっこしていても、それは数字であって、それ以上ではないのだ。
もちろん、数字が無意味というわけではない。
顧客の傾向を俯瞰で見ることは大事だし、それによってマーケティングの指標を決めることもあるだろう。
ただ、それはあくまで「傾向の俯瞰」であって、「個への理解」にはならない。
んじゃその「個の理解」とやらはどうすればいいの?という話なのだが、それはもう、本人と話すしかない。
「さんざんいろいろ言っておいて最後それかよ!」と思うかたがいたら、申し訳ない。
でも本当に、それ以外に思いつかないのだ。
だって、「和食を食べたい」という外国人のなかには、お座敷で食べる懐石料理をイメージする人もいれば、牛丼屋やラーメン屋に憧れる人もいるし、なんなら中華街で肉まん食べたい人だっているのだから。
どこに本当のニーズがあるかなんて、本人としゃべらないと、わからないじゃないか。
インターネットの登場で趣味嗜好が多様化しているといわれる現在、顧客のニーズを正確に把握するのは、とてもむずかしい。
アルゴリズムの発達により、「ニーズを理解している」と勘違いしてしまうこともあるだろう。
だからこそ、客と1対1でじっくり話す「アナログ接客」の価値が、一周回って高まっていくんじゃないだろうか。
なんなら、今後も続く高齢化を踏まえ、訪問販売である「御用聞き」が復活する未来すら、ありえるかもしれない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
- 雨宮 紫苑
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
Photo by :naipo.de