ギター・ヒーロー
『ぼっち・ざ・ろっく』というアニメが話題になった。世間を揺さぶるムーブメントというわけでもないが、ちょっとは一般のニュースに取り上げられたりした。あるいは、音楽方面のメディアが反応した。世界でもわりと売れたりした。
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話はこうだ。後藤ひとりという「ぼっち」の子が一人エレキギター技術を磨いていて、高校生になってひょんなことからバンドを組むことになって……。まあ、そんなの適当に調べてくれ。
でもって、主役担当役の声優さんがエレキギター(以下、だいたいギターと表記)に挑戦するような企画もあって、ああ、やっぱりギターなんだなあとか思った。ヒーローはギターが似合う。
そして、世界はギターの音に飢えていたのかもしれない。ある一時期の、日本の音楽シーンのその音に。
おれとギター
で、おれとギター。ギターとおれ。おれはギターを弾けない。触ったこともない。でも、おれはギターの音色は好きだ。
おれは中学生になると、昼夜逆転の生活をおくるようになっていた。
正確にいえば、学校から帰宅するとすぐに寝て、夜遅く夕飯を食べ、そのまま明け方まで起きているような生活だ。
そのなかで見つけた深夜テレビの楽しみの一つが『BEAT UK』だった。洋楽のヒットチャート番組だ。UKの、ロックだ。
そして、その最初のころに聴いたのがSuedeだった。だれも知るまい。
「ブリット・ポップ」と呼ばれるムーブメントの、その最初のころのバンドだ。Blur 対 Oasisとかじゃないぜ。最初はSuedeだったんだ。え、でもまあ2023年の今もSuedeは生き残っていますが。
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まあともかく、そのSuedeのギターにおれは参った。すげえかっこいいと思った。ボーカルのブレット・アンダーソンの「アハーン」言うところも好きだったが、そこに絡んでいくギターがすげえかっこよくて、もうすげえいいなってなった。
おれが生まれて初めて買ったCDのアルバムはSuedeの『Suede』だ。デビューアルバムだ。1994年くらいのことだと思う。
そして、おれは『Rockin’ on』を読むようになった。Japanじゃない。洋楽雑誌の方だ。
毎月、Suedeの話は載っていないか楽しみにしていた。ギタリストがバーナード・バトラーという名前だと知った。すげえ、バーナード・バトラー。歌うギターと称されていた。
そうだ、ギターが歌っている。むちゃくちゃかっこいいじゃねえか!
それから20年経っても、初期Suedeの曲を脳内で再生すると、ほとんど正確にギターの旋律を思い浮かべることができる。それだけ、おれにとって、バーナード・バトラーのギターは特別だった。
喧嘩別れしてSuedeを去ったあと、新たなるギタリストになったリチャード・オークスも悪くなかったし、名曲もたくさんあるが、バーニーのギターにまさるものではなかった。
おれにとって、バーナード・バトラーの歌うギターは特別なものだったし、おれの若き日を彩る音だった。
その後、バーナード・バトラーは紆余曲折あって、ブレット・アンダーソンとthe tearsなるバンドを結成したりするが、まあいい。あと、ダフィーというアーティストのプロデュースをして成功したりする。アニメの『ジョジョ』のエンディング曲のDistant Dreamerだぜ。あれはすげえバーナード・バトラー感のある曲だと思ったな。
その後の、ギター
さて、その後のおれのギター愛好はどうなったのか。
どうにもバーナード・バトラーが最高だ、というのが揺るがなかった。そして、妙な洋楽趣味。そのなかでは、「レッチリのジョン・フルシアンテはすげえな」とかごくごく標準的な衝撃を受けたりもした。
でも、邦楽ロックも聴くようになった。それも入り口はロックバンドらしいロックミュージックじゃなかった。くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」という曲だった。
おれはくるりの「東京」も知らなかった。ただ、この曲が好きになった。好きになって買ってみたアルバムが『図鑑』であって、「あれ、ぜんぜんワールズエンド感ねえな」とか思った。思ったけれど、聴き続けて、おれはくるりが大好きになった。
そして、岸田繁のギターがかっこいいなって思うようになった。ライブなんてものに行くようにもなった。
くるりのメンバーの出入りは激しいが、ボーカル&ギターの岸田繁とベースの佐藤征史が基本構成だ。最近じゃ、サポートメンバーとしてギターの松本大樹が定番となって、ライブじゃ岸田とギター対決(?)とかするんだけど、そんなん見てると、「ギターはかっこいいなあ」となるのである。自分じゃぜんぜんできんけど。
というか、なんで右手と左手をべつべつの動きして、あんなに指を複雑に動かして、どうして、そんなに豪快で、繊細な、そんな音を出せるんだ? わけがわかんねえ。
しかし、なぜギターが
しかし、なんでギターなんだろうな? ヒーローはギターを弾くんだろうな? というか、ギターの音って、そんなに素敵だろうか。
なんか、こう、いびつで、心地いい音じゃないよな。たとえば、そうだ、ハープの音なんてどうだろうか。なんで、ロックバンドの構成がボーカル、ハープ、木琴、ドラムではないのか? そんなことをたまに考える。
だって、そうじゃないか、ギターの音ってそんなに澄んでないし、ノイジーでギャンギャンいってるぜ。
どうして、ロックンロールにはギターなんだ? わからん。
わからんので、ChatGPTに聞いてみたりしてみた。曰く、ギタリストがエモーショナルに弾くので、エモい気分になります。あるいは、大音量を出すので聴衆にアピールできます。
うむ、そうか。そうかもしれない。でも、なんかマイクとか使えばハープでもいいじゃないか。え、ギターは自由な奏法があるって?
このあたり、小学生のころ、楽譜の読み方を最初に習う授業を風邪で休んでから、まったく音楽のわからないおれにはわからないところだ。音楽がわからない、音痴として生きてきたので、ギターを触ってみるとかいう経験もない。ギターは自由なのか?
自由なのかもしれない。歯で弾いてもいいし、日本酒のワンカップでボトルネック奏法してもいい。
歌に絡んでいってもいいし、ソロでやってみせてもいい。それがある。ハープにそれがあるのか、それもわからない。
ハープの音色
そもそも、ハープの音色の方が人にとって心地よいって思った理由ってなんなんだ? そこをまず疑ってみるべきじゃないのか。なんかわからん。
そもそもおれはハープをちゃんと聴いたことがあるのか。ないのに勝手に印象で語っていないか。昭和のはじめの世の父や母がロックなんて不良よ、と決めつけた、その単なる反転じゃないのか。
でも、なんとなくハープの音色というと、心地よいって前提があるよな。
でもな、なんだろうな、そこがまず間違ってんのかな。エレキギターの淀んだ、濁った、ノイジーな、力感のある音のほうが、本来人間にとって心地いいのかもしれないぜ。そこだよな。そこがわかんねえ。
そもそも人間にとって音楽ってなんだ?
人類史の黎明から澄んだ音なんてあったのか。ひょっとしたら、エレキギターみたいなノイジーな音を最初に出していたかもしれないぜ。あるいは、言葉より先に。
まあしかし、おれがハープに夢中になったことはないんだ。いつだってギターの方がおれを夢中にさせてきた。それが証拠だ。というか、おれには音楽史もわからんし、音楽についての心理学もしらない。
ただ、なぜかロックンロールにギターだ。いつだってSo Youngだ(ところでTHE YELLOW MONKEYがチャートの頂点を上り詰めるための一曲として「SO YOUNG」を出したら、同じときに「だんご3兄弟」が出てきてしまったというエピソードが好きなんだが、「SO YOUNG」だったっけな)。
それでもロックバンドの構成は謎だぜ
そんでも、やっぱり、なんかこう、ロックの基本がボーカル、ギター、ベース、ドラムで構成されているのは不思議なんだぜ。
いや、もちろん、もちろん、そうじゃないバンドが、ロックが存在しているのも知ってるよ。
そもそも、おれが夢中になってるくるりなんて、ボーカル&ギターとベースの二人が基本構成で、ちょっと前までトランペットが正メンバーだったんだぜ。
トランペットが入らない曲じゃ、タンバリンをバンバン鳴らしてたんだぜ。でも、サポートにギターとドラムスは必ず入っていた。あと、キーボード。
それにあれだ、ほかにおれが大好きなバンドであるnever young beachなんて、ボーカル&ギター、ギター、ギター、ベース、ドラムスってわけのわからん構成だったんだぜ。トリプルだ。
でも、なんだ、ボーカル、ギター、ベース、ドラムは基本なんだ。なんでなんだ。
いや、そうじゃないバンドもある。でも、なんか『ぼっち・ざ・ろっく』だって、『けいおん!』だって、基本じゃないか。
そこにおれはなんか、へんな話だが、物足りなさを感じる。だから、ノー・ギターのバンド(ボーカル、キーボード、ベース、ドラム)とかのライブを聴いてみたりもする。
でも、やっぱなんかな、ギターがねえとな。ギャーンときてザクザクとやってくれねえと物足りないのがあんのな。
どんなバンドにも定番の名曲みたいなのがあって、イントロが流れるだけで盛り上がる、みたいなのがあると思う。
たとえばくるりにはその手の曲がいくつもあってすげえと思うんだけど、おれが一番好きな曲かどうかは別として、「ロックンロール」のギターがはじまると、そんときのテンションの上がり方は別格なんだよ。だから、フェスとかでも、アンコール曲で一発やって帰っていったりするんだぜ。必殺技だ。たまらんよ。
そういう意味では『ぼっち・ざ・ろっく』の「星座になれたら」の最初とかもグッとくるよな。
Oasisの「Don’t Look Back In Anger」で「ロックンロールバンドに娘はやれぬ、ダンチョネ」ってところでギャーンと鳴らすところもいいよな。なに、ダンチョネ節を知らない?
21世紀のこのときの音
クラシックでも、当時の楽譜は今もある。でも、当時の楽器の音はまた別だったって話もあるらしいじゃねえか。当時の作曲家が当時の楽器を想定してつくったものを、現代の楽器で演奏してどこまで正確なのか。
しかし、その正確さを超えても人の心に響くものがあるから、クラシックは現代でも多くの人に聴かれているのだろう。
同じように、あれだ、今のなぜだかわからない構成によってなるロックバンドの、ギターの音色も、よくわからないが、後の世に伝わるのかもしれないぜ
。録音技術はクラシックの時代より今だ。そのまま残る。後の世、というか、今の世の君はロックなんか聴かない子らにとっては不思議な、意味のわからない音が、教科書(教科データベース?)に載ることになるかもしれないんだぜ。でも、まあ、それはそれでいい。どうでもいい。おれが今、まだギターの奏でる音に夢中になっているなら、それはそれでいい。それだけだ。
あんたはどうだろう。ヘルシェイク矢野のことでも考えているのか? それならそれで悪くない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

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<2025年7月14日実施予定>
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・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者名:黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :Shunichi kouroki