ある会社で、後輩が先輩に

「この仕事をやる意味を教えて下さい。なぜ必要なのでしょう?」

と言っていた。

 

おそらく、単調でつまらない仕事をやれ、と言われたのだろう。「とりあえず意味がほしい」という様子だった。

ところが先輩は

「オマエになんでそんなことをいちいち説明する必要があるのだ。なぜ必要かだと?会社員で、給料をもらっているからだ。」

と言った。

後輩は諦めた様子で、仕事に取り掛かった。

 

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この話を他の方にすると、2通りの反応がある。

「酷い先輩だな。きちんと理由も説明しないと、後輩のモチベーションが下がるし、仕事の意味がわからなきゃ、工夫もできないじゃないか。」

という後輩に同情する方と、

「まあ、当たり前だな。会社員ならつべこべ言わずに、言われたことをまずやらなけりゃダメだ。大体仕事の意味なんて教えてもらうものじゃなく、自分で見出すものだ。」

という先輩派だ。

 

私は企業文化や2人の関係性が変われば、どうすべきかも変わると思うので、解答は持っていない。

 

だが本質的なこととして、人間は自分の行動に対して「意味付け」が必要な生き物であるということだ。

「つべこべ言わずにやれ」と言われることは、不快なのである。

逆につじつまさえ合っていれば、それなりに嫌な仕事であってもこなすことができる。

 

しかし、である。

今後「やる意味の分からない仕事」はじつは増える可能性がある。

「なぜこれをしなければならないのか」が全くわからない仕事が増えた時、私達はそれに耐えられるのだろうか。

 

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つい先日行われた、プロ棋士とAIの囲碁の対局においての話だ。

アルファ碁、最終局も制す 最強・李九段に4勝1敗(朝日新聞)

AIが世界最強とも言われるプロ棋士に圧勝した、というのは十分に衝撃的な事実であるが、それよりも驚きなのが、この対局を解説していたプロ棋士たちの多くが、「なぜここに」と、アルファ碁の手の意図がわからず、戸惑っていたことだ。

AIがどうしてこの結論に至ったのか、人間には全くわからないという現象が起きていることは、衝撃である。

 

仮にそれビジネスに適用されるとどうなるのか。

例えば小売店の出店や、仕入れの判断において、今日のニュース、SNSのタイムライン、人口動向、気温、天候、曜日など、膨大なデータを読みこませるだけで、ほぼ完璧に売上まで予測できるようになる。

さらに、どのタイミングで、どういった紙面で、どういった広告やチラシを打てばよいのか、かなりの精度で判定できるようになるかもしれない。

そんな状況では、労働者は「コンピュータのアウトプット通りに動いてください。理由?そんなの誰もわかりませんよ。」と言われるのだろう。

 

他にもある。例えば「採用」においてだ。

AIが幾つかの質問を応募者に投げ、応募者はそれに回答する。さらに候補者の職務経歴、筆記テスト結果などを入力するだけで、「うちの会社で出せそうなパフォーマンス」が計算され、それによって採用の可否が決まる。

もはや面接も、応募動機も不要である。

だが「なぜこの会社でパフォーマンスが出せそうだと判断されたのかは、AIにしかわからない。」という事は十分にありえる。

 

 

現在はある程度、予測や計画を必要とする知的能力を必要とする仕事が数多くある。マーケティング、企画、採用、診断などが代表的だ。

だが、20年後は全くビジネスは変わってしまっているかもしれない。多くの知的職業はAIに代替され、「データ屋」と「アルゴリズム屋」のみが生き残ることとなる。

 

そんな時代には、冒頭の先輩はどう答えるのだろう。

「なんでそんなことをいちいち説明する必要があるのだ。なぜ必要かだと?AIがそう言っているからだよ。」

とでも答えるのだろうか。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

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