こんにちは。株式会社キュービックの渡部です。
私は薬剤師専門の転職サイト「ココファーマ」というメディアの運営を行っています。
(左:古井 右:渡部)
そのサイトを運営する中で、一つ、変わったことに気づきました。
それは「薬剤師さんの給与は、東京よりも地方のほうが高い」という事実です。
意外な結果なのですが、原因を調べると面白いことに、
現代の「格差拡大」の一端が垣間見えるのです。
最も給料が良くなる選択は?
仮に自分が「薬剤師資格」を持っていると仮定します。
その他に特に目立つスキルはないけれども、少しでも給与の良い会社に就職したい、と考えていたとします。
さて、果たしてその時どのように就職活動をすべきでしょうか?
例えば通常の就活であれば
「とりあえず大手」
「東京で就職する」
といった選択肢が思いつきます。
もちろん、いずれも間違いではありません。
しかし、私がデータを見て思う正解は「福岡県に引っ越す」です。
理由は簡単、薬剤師の平均給与が最も高いのが福岡県であり、それだけ高収入の職を得られる可能性が高くなるからです。
(出典:ココファーマ 薬剤師の年収で低いのは病院?薬局?7種の平均ランキングで紐解いた)
私はこれを見て、とても意外に感じました。
同じ仕事なのに、地域によって給与が200万円以上も違うのです。
例えば、1位の福岡県の薬剤師の平均年収はなんと、658万円です。逆に東京の平均年収は522万円と、福岡に比べて150万円近くマイナス。
最下位の宮崎に至っては更に100万円下がって、418万円です。
「そんなはずはない。企業規模が大きいところが福岡には多いのでは?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。
しかし、別のデータを見ると薬剤師の業界ではあまり企業規模が給与の高さと相関しません。
ではなぜ「大手が高い」「東京が高い」という、一般的な会社員の給与の傾向が異なるのでしょう。
それは、薬剤師の給与が純粋に、人材マーケットの需給関係で決まる傾向にあるからです。
福岡県のように、薬剤師が必要とされる数に比べて応募が少なければ給与は高騰し、逆であれば宮城県のように低く抑えられる。
他の職業であれば、多少はニーズと供給がずれていても、「未経験でも社内で教育すれば大丈夫だろう」という補正ができます。
また、「うちのカルチャーに合う人ならスキルは問わない」や「明るい人なら大丈夫」と、募集する人を広く構えることができる。
しかし、薬剤師などの資格は他のスキルで代替できません。
「薬剤師」は、その資格を持つ人が辞めてしまうと、会社は必ず補充しなければならないのです。
つまり、
「属人的なスキル」
「ポータブル(持ち運び可能な)スキル」
であるため、供給が簡単に増やせない。
すると、その給与はマーケットの需給関係で決まる、というわけです。
ポータブルスキルが重要な世界では、給与はマーケットが決める。
現代社会は、AIエンジニアや各種コンサルタント、検査技師、データサイエンティスト、カウンセラー、webマーケターなど、高度に専門化した人々が活躍する時代です。
彼らは皆「ポータブルスキル」を持つので雇用の流動性が高い。
ピーター・ドラッカーもこう指摘しています。
従業員社会において、従業員は組織を必要とする。
組織なくしては、彼らは生産することも仕事をすることもできない。しかし、彼らには移動の自由がある。
しかも、彼らは、彼らの生産手段すなわち知識を身につけたまま移動する。
このような世界では、会社より「マーケット」に給与決定の主導権があります。
したがって、終身雇用と年功序列が無くなった世界では、希少なスキル、知識を持つことが給与をあげる唯一の道となるのです。
しかしこの事実は我々に過酷な現実の姿を見せます。
なぜなら、全員がマーケットのニーズにあったポータブルスキルを持てるとは限らないからです。
薬剤師を始め、上のように「ポータブルスキル」を所持する能力の高い個人は、ますます給与が高くなる。
逆に、ニーズの少ないスキルしか持たない個人は低く抑えられる、という状況になりやすいでしょう。
例えば「マニュアルを暗記している」「顔が利く」とか「根回しがうまい」、あるいは「社内業務に詳しい」といった個社ごとの知識やスキルの価値は低い。
これが、格差を生み出す大きな要因の一つです。
つまり、現在はますます全体として「マーケットが給与を決める」という世界になりつつある。
大企業にいれば良い、都市にいれば良い、という時代は過ぎ去りました。
我々は常にマーケットニーズを見て、スキルの更新をしなければならない時代に生きているのです。
今後は「資格持ち」ですら二極化する
もちろん、強力なスキルである「薬剤師資格」を持っていても、安穏とはしていられないようです。
先日、我々はベテランの薬剤師の方にヒアリングを行い、今後の業界の動向と、ニーズのあるスキルを調査しました。
すると、現在薬剤師が行っている業務の中に、付加価値が低い仕事、または「機械」などで代替できる仕事が散見されました。
これについては、他メディアなどでも報じられています。
薬局が病院の周りにやたらと溢れかえる事情(東洋経済オンライン)
「門前薬局をビジネスとして考えると、これほど楽な商売はない」。あるチェーン薬局の幹部は実情を語る。病院の前に店さえ出せば、自動的に患者が入ってきてくれるため、「顧客開拓なんて必要ない。その病院に合わせた薬に限ってそろえればいいので、在庫リスクも小さい。保険収入なので、取りはぐれがないのも大きい」。
薬局の経営者に話をお聞きすると、薬剤師の業務である「調剤」は誰がやっても同じ、「服薬指導」は高度な専門知識が必要であるとの見解を頂いています。
東洋経済「調剤は誰がやっても同じ」薬剤師は機械?専門家に聞いた!
極端なことを言えば、調剤は機械に任せてもよいのです。現に、自動調剤機(ロボット)が薬剤師不足の深刻な地方の薬局を中心に導入が進んでいると聞きます。
軟膏や散剤の混合には人間の技術が必要な場合もありますが、これも慣れと熟練によって克服できます。以上の意味から調剤は「誰がやっても同じ作業」であり、逆に誰がやっても同じ結果にならないといけない作業と言えます。
ただ服薬指導は、相互作用(飲み合わせ)のチェックや、アレルギーの有無など、患者さんと相対して確認しなければなりませんので、ロボットに任せるわけにはいきません。
このまま医療費が高騰すれば将来的には「誰でもできる仕事は機械化し、薬剤師にかけるコストを圧縮せよ」という議論も持ち上がるでしょう。
いや、すでにそういった議論はすでに持ち上がりつつあります。
先日、我々がお話を聞いた薬剤師の方は、次のような話をされていました。
薬剤師:「単純労働しかこなせない薬剤師は、今後厳しいと思います。薬局で図々しく患者さんが来るのをただ待っているなんて、普通の仕事ではありえないでしょう。」
渡部:「では、薬剤師が高収入を目指すにはどうしたら良いですか?」
薬剤師:「まずは薬の勉強をし続けること。薬剤師さんの中には、資格を取った当時の知識があまり更新されていない人も数多くいます。」
渡部:「他には何かありますか?」
薬剤師:「「あの人に薬の相談をしたい」と言われるような、一種のカウンセラー的役割を果たせない薬剤師はダメですね。私はいつも「歌って、踊れて、喋れる薬剤師になれ」と指導しています。」
渡部:「なるほど」
薬剤師:「今、かかりつけ薬剤師という制度が推進されています。困ったときに相談できる薬剤師を育成していこう、というわけです。ただ、今の薬剤師の中で何人こういった仕事をきちんとできる人がいるか。役割を果たせなければ批判は免れません。」
参考:かかりつけ薬剤師の効果に疑問、薬剤費削減額の2.7倍のコスト発生(ダイヤモンド・オンライン)
薬の専門家としての立場から、一人ひとりの患者に合った医師に処方内容を提案したり、問題のある多剤投与を減らして、患者の健康に寄与することが「かかりつけ薬剤師」の役割のはずだ。
「かかりつけ薬剤師」による服薬指導には、健康保険料や税金から、通常よりも高い報酬が支払われている。
残薬調整にとどまらない、本来の意味での「かかりつけ薬剤師」の役割を果たしてもらいたい。
結局のところ「資格持ち」となっても、スキルをつけ、勉強し続けない限りは「格差拡大」の波に飲まれてしまいます。
どんな職業であっても「一生安泰」は無い、と考える人が増えています。
我々は「転職サイト」を通じて、そのようなキャリアの不安を取り除くべく、活動しています。
*今回使用したデータの詳細が掲載されているページです
薬剤師転職の「知らないと損する」秘訣|
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(Photo:Wouter van Doorn)