一昨年あたりからGrit(グリット)という単語を時々聞くようになった。

日本語になおすと「やり抜く力」と訳すのが正しいだろうか。

 

この単語はアメリカの心理学者であるアンジェラ・リー・ダックワース氏が提唱された概念だ。

彼女は成功者に共通する条件がなんなのかを探っているうちに、頭の善し悪しなんかより『時間をかけて物事に取り組む』能力の有無の方が重要であるという事に気がついたのだという。

 

確かに物事の成功において、タフさは重要だ。

マルコム・グラッドウェルがかつて一万時間の法則というものを提唱していたけど、どんな天才であったとしても一瞬で偉業を成し遂げるのは不可能だ。成功には一定量の時間がどうしても必要となる。ローマは1日にしてならずである。

物事の遂行にはタフさは重要だ。就活でもラグビー部や野球部などは重宝される傾向にあるけど、それは彼等の耐久力の高さを見込んでの事だろう。

やり抜く力は、あるならあるに越したことはない。

 

「嫌なことに耐える力」と「やり抜く力」はちがう

けど僕はこのGritの話を聞いたとき、同時にこう思ったのだ。

「確かにタフさは重要だ。それはまあわかる。けど体育会的な意味でのタフさと、数学の難問をずっと考え続けて答えを出せるような意味での頭脳的な意味でのタフさは、ちょっと違うのではないだろうか?」

 

実は僕はかつて体育会系の部活でしこたましごかれた事がある。確かにあの経験は、精神的な意味でのタフさの修練には一定の役に立ったとは思う。

わけのわからない説教を喰らったりして精神的に追い詰められたりした経験は、どんな苦境であれ時間が過ぎ去ればいつかどうでもよくなるという事を僕に教えてくれた。

 

けどその体験が、こうして文章を作る糧になっているかというと全くそういった事はない。

文章を書くのは数学の難問を考えるがごとく、ずーっと頭のなかで思考を巡らせる必要があるのだけど、そういう思考を回転させる継続力のようなものの習得には、体育会系でのシゴキは全く役にたっていない。

 

つまるところ、体育会系の部活での体験は、嫌なことを耐えきって物事をなんとか成し遂げるという精神的なタフさという意味でのグリットは鍛えてくれたけど、好きなものを徹底的に考えていったり追求していくという意味でのグリットは全く鍛えてくれなかったといえるだろう。

だから僕は、同じタフさでもメンタル的なタフさと活動に対する執着力とでは随分と違うもののような気がするのである。

 

グリットについて言及された記事を読む時、この2つの違いについて言及される事が少ない事が僕はずっと奇異に感じていた。

精神的な意味でのタフさなら、体育会系なり軍隊なりに入りさえすれば鍛えられるかもしれない。

けど、後者の好きなことを徹底的にやり抜くためのグリットは、そういう方法じゃ絶対に習得できない。

 

「未来の記憶を持って産まれてきた」人たち

今後、AIが発展してゆき、嫌なことを機械がどんどんやってくれるようになるかもしれない。

そんな中、僕は前者のようなメンタル的な意味でのタフさでの意味のグリットより、後者の意味での好きな事を徹底的にやり抜くためのグリットの方が需要が高くなっていくと考えている。

 

だけど、いったい後者はどうやって習得すればよいのだろうか?

 

そのことについてずっと考えていたのだけど、つい先日読んだ本にこれについての1つの回答になりそうな事が記述されていてかなり腑に落ちたので紹介しようかと思う。

 

スーパーコンピューター「京」の開発責任者である井上愛一郎氏はコンピューターの”未来”が見えるのだという。

彼は新入社員として富士通に入った時点で、周りにそう吹聴しつづけていたようで、実際、周りからは「大きな事をいってるけど、ホンマかいな?」と言われることもあったようだけど、実際に京を作り上げる事でそれを実証してしまった。

 

井上愛一郎氏には他人には全くみえない、”こうあるべきはず”のコンピューターの姿がなんとなく捉えられているようで、彼からいわせれば今の「京」ですら彼が本当に作りたい美しいコンピューターからは程遠いのだという。

その美しいコンピューター像が自分の中にあるを称し、彼は「自分は未来の記憶を持って産まれてきた」と表現しているようだ

 

「自分は未来の記憶を持って産まれてきた」ってそんな馬鹿なと思うだろか?けど実際、井上愛一郎氏のようなエピソードは天才と呼ばれるたぐいの人からよく聞かれる事が多い。

 

例えば世界一の投資家として名高いウォーレン・バフェット氏は、一流のバリュー投資家として名高い。

彼は資料を分析し、割安な株を見つけそれに投資し、長期間保有し成長した株を手にする事で巨額の資金を手に入れる事により、米国でも指折りの資産家となった事で有名となった。

 

こう書くと実に誰にでもできそうな投資法に聞こえてしまうけど、実のところバリュー投資家でバフェットほどの実績をあげられる人はほとんどいない。

僕はこれが何でなのか長年ずっと謎で仕方がなかったのだけど、先のエピソードを聞いてようやく疑問が氷解した。

恐らくだけど、バフェットにはなんとなくだろうが「成長する企業の未来」がみえるのだ。

 

もちろん彼自信がやっている分析の手法自体は正しいし、実際のところファンダメンタル的な市場分析自体は行っているのは事実だろう。

けど、そもそもなんでそこに興味を持ったのか、というようなレベルの話になると、たぶんだけど理論とかそういうものを越えて「なんとなくピンと来た」というレベルの話がたぶんかなりの部分であるはずだ。

 

アインシュタインの相対性理論もそれに似たようなエピソードを随分と見聞きする。

恐らくアインシュタインも、スイスの特許事務所で働いていた時に、何となく光と時間に関連があるであろう未来図がピンときたのだ。

だからそれについて、ひたすらがむしゃらに取り組むことができたのであり、その結果として結実したものが相対性理論なのであろう。

 

誰にでも「ピンとくるもの」がある

これらの具体例についてはさすがに特殊すぎるエピソードではあるとは思う。

だけど、これを読んでいる人達の中にも、スポーツや何らかの活動を始める際に「自分はたぶんこれができる」「自分の本当に好きなものはこれだ」と、まるでひとめぼれのように、なんとなくピンときた事がある経験を持った事のある人はいるんじゃないだろうか?

 

恐らくそれが自分の遺伝子の中に埋まっている才能であり、自分が本当に掘り下げるべきものなのだ。

好きな事を徹底的にやり抜くためのグリットの源泉はまさにそこにあり、それは人それぞれ遺伝子のプログラムにより微細に異なっていると考えるのが妥当だろう。

 

僕は前回の記事を書いた時

「人生は自分の思うようになる。1年後、こうなってるといいなぁと毎日のように思ってたら大体そうなる。馬鹿げていると思うかもしれないけど、本当にそうなのだ」

「多くの人は自分が本当に何がしたいのかや何が欲しいのかが全くわかっておらず、ただふわっと雰囲気に流されて生きている。そういう人の人生は、本当にふわっとしっぱなしで、いつまでたっても何も成し遂げられずに終わっていく」

 

という趣旨の事を書いたのだけど、この話と統合すると凄くスッキリこないだろうか?

あなたの中にも必ず1つぐらい「こうなるに違いない」と他人よりも少し先の未来を見通す事ができるものが1つぐらいあるはずだ。

 

それがあなたの才能であり、天職であり、頭脳的な意味でのグリットの元なのだ。

そこに面白さを見いだし続けられる事が頭脳的な意味でのグリットの習得方法であり、それを丹念に丹念に時間をかけて掘り下げることで、きっとあなたの中で才能という遺伝子が、いつかきっと花開くに違いない。

 

人はそれを成功と呼ぶ。そこにはあなたが産まれてきた意味が、きっとあるはずだ。

 

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高須賀

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(Photo:Cody Lods)