少し前にろくでなし子さんが怒りについて言及されており、大変に感服したので下に引用させて頂く。

実際、怒りはとても扱うのが難しい感情だ。

なぜ怒りは人を狂わせるのだろうか?この構図をキッチリ認知する事は、あなたの人生にきっととても役に立つだろう。

 

というわけで今日は怒りが人を狂わせるシステムについて書いていこうかと思う。

 

自分は被害者だと思ってしまうと、どんな事でも自分に正義が見いだせてしまう

人は様々な事で怒る。失礼な扱いを受けたり、他人と比較して不平等を押し付けられたり、不快な気分にさせられたというような事が代表例としてあげられるだろう。

 

怒りというのは、原因が割と簡単に見つけ出せる事ができる感情だ。その事もあって、多くの怒っている人は怒っている原因を口に出している事が非常に多い。

 

このように、怒っている人は大抵の場合

「相手が悪いのだから自分が怒るのは当然であり、むしろ自分は被害者である」

というロジックにとらわれている事が多く、そこから

 

「被害者である自分は、相手の不手際のせいでこんなにも不快な感情に晒されている」

「だから、相手が謝るのは当然のことであり、自分の怒りは正しいことなのである」

というような態度をとりがちである。

 

けど、これはそもそも間違っている事に、あなたはまず気が付かなくてはいけない。

 

あなたの怒りは本物でも、相手にも相手の正義がある。

ちょっと考えてみて欲しい。確かにあなたの世界においては、あなたの正義は絶対かもしれない。

けれど相手の側に立ってみれば、当然だけどあなたの正義は絶対でもなんでもない。

 

人には人の数だけ正義がある。あなたに正義があるという事は、当然だけど他人には他人の正義があるという事を指し示している。

だから、あなたの側からみれば相手が悪いが本当だとしても、相手側からみても相手が悪いという事になるなんて事はまずない。

 

確かに、あなたの怒りという感情は本物だろうし、あなたが不快な気分にさせられたのは本当の事だろう。

けどそこで「自分の怒りは100%正しい。だから相手の行いこそが悪であり、自分の怒りは正義である」という風に、自分の怒りに正義を見出してしまった人は、簡単に怒りの狂信者となり、宗教の原理主義者も真っ青な勢いて狂いを加速させていく事となる。

 

このように、怒りと正義に飲まれ、狂ってしまわないために私達が成すべき事は一つだけだ。それは、怒りと正義という感情をセットにしないという事を徹底する事である。

 

相手を無理に変えようとせず、自分からそっと距離を置けばいい

繰り返すけど、あなたの頭の中に生じた怒りという感情は本物だ。

けど怒ったからといって、かならずしも相手を糾弾したり正義感を発揮する必要なんて万に一つもない。

 

じゃあどうすればいいかといえば、そっと怒りの原因から距離を取ればいいのである。

 

嫌なものは見ない・関わらない。

それで全てが簡単に解決する。

 

怒りを他責にせず、基本的には自責に持ち込めば、すべてが自分の力でコントロール可能となる。

こうすれば、変な正義感に囚われて怒りの狂信者となる事はまずない。

 

相手にも相手の正義がある事を認め、自分の正義を大切にするためにも、ほんのちょっと相手と距離を置けばいいのである。

 

あなただって、相手の正義に従いたくないのと同様、相手だってあなたの正義なんかに従いたくない。

インターネット上には怒りと正義をセットにして、自分原理主義に殉教している人が山程いるけれど、あれこそまさに反面教師その人である。絶対に、ああなってはいけない。

 

怒りは容易に人を狂わせる。怒ったときこそ、深呼吸でもして落ち着こう。

自分の怒りに正義を見出し、相手にそれを追従するよう求めるようになってしまったら、まさに人としてオシマイである。

 

他人を変えるよりも自分を変えるほうが遥かに楽である。

クレーマーの事を好きな人などいない。

だから、100%嫌われる悪質なる存在である、クレーマーになる事は、どう考えても人生で最悪の選択だろう。

 

とはいえ自分を変えるというのは、やった事がない人は少々難しいかもしれない。

というわけで参考になりそうな本を一冊紹介しよう。督促OL修行日記である。

本書は新卒でクレジットカード会社に入社し、カードの未払い客に支払いを求める督促という、考えるだけでもストレスで胃に穴が空きそうな行為を行う部署に配属された方の修行記録である。

 

本書に出てくる督促の具体例は実に生々しい。電話していきなり怒鳴られる事など日常茶飯事であるようで、コールセンターの感情労働の辛辣さに読んでいて心が苦しくなる事うけあいである。

 

著者である榎本まみさんも、入社当初はこの業務にまったく馴れず、ストレスで相当に体調を崩されたそうだ。

こんな壮絶な体験をしたら、冒頭に書いたように怒りで義憤にかられ、狂ったとしても全くおかしくなさそうである。

 

けど、榎本まみさんが凄いのは、そこで世を儚む事なく、色々な本を読んで勉強をしたり、うまく行っている先輩の行動を真摯に観察し、督促OLとしてキチンと仕事に適応していくのである。

この過程が実に凄い。

 

不平不満を嘆いても世の中は変わらないけど、適応すれば世界は変わる

例えば、かつて榎本さんはお客様から電話口で突然怒鳴られると、頭がフリーズしてしまい固まってしまいがちであったのだという。

普通に考えれば、そこで「もう嫌だ」と思考停止してしまいそうなのだけど、榎本さんは「そもそもなんで固まってしまうのだろうか?」と疑問を深め、なんとその原因を探しに図書館へ出かけるのである。

 

そこでとある本に

「そもそも私達が怒鳴られると固まるのは、動物としての本能らしい。」

「動物の世界では、ほとんどの捕食者が動くものを標的に狙ってくる。」

「だから人間も動物として危機を感じると固まるようにできている」

 

という文章が書かれているのを見つけ出し

「本能には勝てんわ~」

と図書館で落胆したのだという。

 

こんなことを図書館で調べてる時点で僕から見れば凄いとしかいいようがないのだけど、ここから榎本さんはこの本能に打ち勝つために

「怒鳴られてビクッと身体が固まったら、その瞬間思いっきり足をつねって痛みを身体に感じさせる事で金縛りが解ける」

という手法を見つけ出す事に成功する。

 

こう、文章で書くと、なんか全く凄くなさそうにみえるけど、これを自分で試行錯誤して見つけ出すのはハッキリ言って並大抵のことではない。

ここまで読んでくれた読者の皆様の中で「怒鳴られたら足をつねればいい」だなんて事を知ってた人は数人もいないだろうし、それを自力で見つけ出せる人なんてもっと少ないだろう。

 

客に怒鳴られるのがひどいと嘆くことは誰にでもできる。けど、それでは世の中は全く変わらない。

その代りに、怒鳴られたら足をつねって金縛りを解いて反撃すれば、怒鳴った側がしてやられる事は多々あるだろう。

 

どんな不条理な事でも、自分が変われば世界は変えられるのだ。

 

他にも本書には奇想天外な発想が物凄くたくさん出てくる。

例えば、とあるオペレーターは顧客からひどい罵詈雑言を受けたら、それを全てエクセルに項目別で蓄積していたのだという。

 

こうする事で、今まで怖くて仕方がなかった客のひどいクレームも、意外と種類があまりない事に気が付き、「あ、またこのお約束の型ね。」と軽く受け流せるようになったのだという。

それどころかグラフ化する事で、特定のクレームの件数が伸びるのを見るのが面白くすらなったのだともいうから驚きである。

 

恐怖とは、未知なるものに感じるから怖いのである。

まんじゅうこわいじゃないけれど、それこそ全て既知のパターンに集約させてしまえば、クレームもネタバレありのホラー映画程度のものになるというのである。

これもまさに生きた環境で生まれた、驚異の発想であるといえよう。

 

このように、いくら督促OLという感情労働の極地といえるような仕事でも、適応できる人は存在するのである。

もちろん、向き不向きはあるだろうし、全員が全員ここまでのプロフェッショナルになれるとは思わない。

 

ただ、榎本さんが仮に「こんな社会はクソだ!」と怒りに飲まれたとしたら、彼女が職場に適応できた可能性は0%だっただろうし、この督促OL修行日記という名著が世に出された可能性も0%だっただろう。

本書を読むことで、読者の皆様にも是非とも「他人を変えるより、自分を変えるほうがはるかに生産的である」という事の意味を噛み締めて欲しい。

 

もちろん、改善できない時もあるだろう。もしそうなったら、今度は自分の力でスタコラサッサと逃げればいいのである。

怒りに飲まれ、正義の感情の名のもとに内情を告発するなどして相手と戦っても、多くの場合においていいことなんて一つもない。

 

くれぐれも怒りに我を忘れて、狂信者にだけはなってはならない。人生は有限なのだ。

あなたが生きやすい場所で、楽しく生きるのが一番である。本書がその手助けになれば幸いだ。

 

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高須賀

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