先日読んでいた鈴木大介さんの「老人喰い」という本に出てきたあるフレーズに妙に感心してしまった。

現在、建築や土木の業界では高齢化が進んでおり、若いなり手が激減しているのだという。

 

筆者はこの業界の親方衆に、なんで若者が建築や土木にやってこないのかを聞いたところ、こう答えられたという。

「結局、俺ら親方がカッコよくないから、若い衆が入んねぇんですよ」

「昔は、土方職人というとデッカイ車を転がして、大きなオッパイのお姉ちゃんを助手席に乗っけて、若い衆にもバンバン呑ませてあげるような、そういう夢がある存在だったんですよね」

「けど今は、土方職人は全然稼げてないから、車はミニバンだし、助手席は嫁さんで後ろにはガキが乗ってて、家族で集まって週末にバーベキューなんてやってたりする」

「そんな大人をみても、若い衆はカッコいいとは全然思わない。だから誰も若手がこの業界に入ってこないんじゃないですかね」

この言葉には妙にリアリティがある。若者が草食化したと昨今言われているけど、当然というかガッツある人もたくさんいる。

そういう人達に「この仕事をやれば、この人みたいにお金持ちになれて、カッコよくなれる」という身近な成功者像が、現代では確かに凄く少ない。

かつて日本の景気が良かった頃は、この手の夢と希望に満ち溢れた大人たちがたくさんいた。

公共事業も活発で、ヤンキーをやってたような人間も、一念発起して土方職人になれば、それなりのお金とモテを手にする事ができた。

 

だが現代はそういう時代ではない。中高生の頃からガリガリ机に座って、大企業に務めている人だって、上に書いたかつての親方衆のような生活をする事は困難だ。いわんやヤンキーおや、である。

現代社会は、なんていうか夢とか希望が妙に薄いのである。

 

オレオレ詐欺には夢がある

さて、かつて建築や土木の業界の親方衆に、夢や希望をみたガッツある人達が現代ではどこに行ったのだろうか?

それがなんと、オレオレ詐欺なのだという。

 

「老人喰い」にかかれている、オレオレ詐欺の人達の話は驚愕する事がとても多いが、その中でも僕が一番驚いたのは、その年収である。

末端の社員ですら最低保証で月に50万円は固く、トッププレイヤーともなれば年収3000万円は目指せるのだという。

 

もちろん、誰でもこの恩恵に預かれるわけではない。オレオレ詐欺は末端の構成員になる為には、人格が崩壊するようなウルトラ・ブラックな選別を耐え切らなければならず、多くの人はそれを通過する事はできない。

ただ、それさえ通過すれば、手取りで年600万~3000万円である。こんな高待遇、高学歴層だって、そうそうたどり着けられない領域である。やる気とガッツある若者にとって、夢がある話なのはいうまでもない。

 

もちろん、オレオレ詐欺は犯罪だ。それが推奨される行いではないのは間違いない。

ただこの話を聞いた時、僕はこう思ってしまったのだ。

最近の大人って、こういうわかりやすい夢を若者にみせてあげられてないし、それ以上に説教くさいだけで全然格好良くないよな、と。

 

高知の山奥でお金の話ばかりするブロガーに需要がある理由

みなさんはイケダハヤトさんをご存知だろうか?(まだ東京で消耗してるの?

高知の山奥に住むブロガーなのだけど、とにかくアフィリエイトやら、ネットを利用してお金が儲かった話を延々とする、まあなんていうか凄いカネ臭いネット人である。

はっきりいって僕は彼のことをあまり好ましく思っていないのだけど、彼のツイッターのフォロワー数はなんと19万人である。

つまり、結構な数のファンが彼にはいるのだ。

 

僕は正直、彼に憧れる若者の気持ちがさっぱりわからなかった。

それこそ先日書いた記事に書いた「大学辞める」宣言をした女子大生もそうだけど、なんでそういう普通に考えたらヤバイとしか思えない道に憧れたり突き進んでしまうのだろうか?とずっと考えていた。

けど今になって思うのだが、たぶん、僕のような大人が、こういう人達にカッコイイと思わせられるような一面がない事も悪いのだ。

それこそ冒頭に書いた「結局、俺ら親方がカッコよくないから、若い衆が入んねぇんですよ」という話と同じで、インターネットに限らず、もっと多くの若者に「あなたのようなカッコイイ大人になりたい」と思わせる事ができなければいけないんじゃないか、と思うのである。

若者が悪い大人に騙されてしまうのは、私達がカッコよくない事にも、原因があるのだ。

 

優秀だけど潰れてしまう若者

「なんという人材と才能の無駄使いなのだろうか」

これがオレオレ詐欺に関わる人達を取材して「老人喰い」の著者が最終的に得た感想だという。

 

オレオレ詐欺の末端の構成員というのは、つまるところ電話営業部隊である。

考えてもみて欲しい。いくら詐欺とは言え、人格が崩壊するようなウルトラ・ブラックな選別を耐え切って、何件もの数百万円もの契約を勝ち取れるような人間は、一般社会ならトップクラスの成績を出してる営業マンみたいなものである。

どんなにいい商品を作ろうが、買ってもらえなければ売上は成立しない。

優秀なマーケティングと営業は、会社からすれば喉から手が出るほど欲しい人材だろう。

その優秀な若者が、オレオレ詐欺の現場に取られてしまっているのだから、こんなに勿体無い事はない。

しかしこんな優秀な彼らだけど、結局半数以上の人達は潰れてしまうのだという。

詐欺師として活躍している最中にクスリや賭け事、異性などでトラブルを起こすというお決まりのコースで身を持ち崩す人もいるけど、それ以上に多いのが詐欺を辞めて一般人になってから潰れるパターンだという。

さっきも書いたけど、オレオレ詐欺の労働単価は物凄く高い(手取りで月50~300万円)。

でも、なんの職歴もない若者が普通の会社に入ったとしたら、せいぜい良くて手取りで月20万円程度が関の山だ。

 

詐欺師として働いていた頃と比較すると、あまりにも安すぎる労働単価に多くの元詐欺師達は耐えきれず、務め人にはまず戻れない。

結局、多くの人は飲食業を開業してみたりと独立の道を選ぶらしいのだけど、これが見事に失敗するそうなのだ。

 

結局、オレオレ詐欺のプレイヤーの多くは務め人には馬鹿らしくて戻れないし、かといって事業主にもなれず、結局ダラダラと人生を摩耗させてしまい、結果として退屈さに勝てずにアル中やヤク中、博打狂、ネットゲーム廃人となり、惨憺たるその後を送るのだという。

 

この現実をみた上での鈴木さんの感想が「なんという人材と才能の無駄使いなのだろうか」という言葉に集約されていると考えると、なかなか感慨深いものがある。

 

現実を見ろというのではなく、背中で語れるぐらいの漢になろう

結局、若者が悪い大人に騙されてしまうのは、私達が彼・彼女等に夢を見させてあげられてない部分に原因があるのだろう。

実社会でもインターネット上でも、みんなが「現実を見ろ」という。僕もちょっと前までは、そういう風な物言いをする事が多かった。

 

しかし本書を読んだ今となっては、この社会で生きる大人の1人として、背中で語れるぐらいの漢になり、若者に夢と希望を見せてあげられるぐらい立派な大人にならなくてはいけなかったのだな、と強く反省している。

 

優秀な若者を、本当の意味で優秀な人と仕立て上げられるか否かは、私達大人の手腕にかかっている。

彼等の未来のためにも、ロールモデルとして恥ずかしくない存在となれるよう、頑張っていこうではありませんか。

 

若者に夢を魅せてあげましょう。

それこそが、若者が悪い大人に騙されないにも、必要な事なのですから。

 

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(2024/3/13更新)

 

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高須賀

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(Photo:Jacques Lebleu