少し前に、大学を辞めてフリーランスとして生きていくという事を宣言し、てんやわんやな事となった方がいた。

これをみた多くの良識ある人は、彼女に「考え直したほうがいい」とアドバイスを送っていた。

けれど結局、彼女は大学を辞め、フリーランスとして生きる道へと人生の舵をきったようである。

 

もちろん彼女がフリーランスとして成功する可能性はゼロではない。

ただ、大学を卒業して普通に就活する生き方と比較して、人生がハードモードになる可能性は高いだろう。

 

恐らくだけど、こんな事は他人から言われるまでもなく、本人もたぶん理解している。

じゃあ、それがわかった上で何で彼女は分の悪い賭けにでてしまったのだろうか?この背景にある仕組みを理解すると、人間というものの本質を理解する上で非常に役立つ。

 

今回は、人はなぜ合理的ではない選択肢を選んでしまうのかについて書いていくことにしよう。

 

親の言うことをきかない子供

作家の橘玲さんが子育てをしていた時

「どうして子供は親の言うことをきかないのか」という事について疑問を持ったのだという。

 

いうまでもなく、子供よりも大人の方が人生経験は豊富だ。

親は、楽に進める道と、ヒドい目にあうことがわかっている道があって、親が懇切丁寧に楽な道を教えてあげている。

にもかかわらず、子供が親の意見を全く聞かずに、わざわざ困難な道を選ぶ姿を見るたびに、こいつはバカなんじゃないのか、と思ったのだという。

 

しかし、彼は改めて自分の子供時代を振り返ってた時

「そういえば自分も子供の頃は親の言うことなんて全く聞かなかった」という事を思い出し、これは因果応報なのだと諦めたのだという。

 

しかし何故、子供は親の意見を頑なに聞かないのだろうか?

それについて彼に明快な解を与えてくれたのが、ジュディス・リッチ・ハリスの子育ての大誤解という本だ。

ハリスはこの本の中で、子供は、親よりも友だち関係を優先し、親のいうことをきかないように

「進化論的にプログラムされている」

と多くの実証をあげて説明し、親がいくら熱心に子供を家庭で教育しても、子供の成長過程には何ら影響も及ぼせないという事を懇切丁寧に解説している。

 

ハリスいわく、子供は

①仲間と付き合う事で同族としての振る舞いをまず獲得し

②その仲間の中で、自分が得意な事をして、自分の居場所を作る

事で人間性を発達させるのかというとという。

 

これはドラえもんを例にして考えればわかりやすい。

①ドラえもんとその仲間たちは、小学校という場所で一緒に遊ぶことで、まず同じ文化を共有する。

②次に、各々の得意な事を伸ばし、自分のキャラクターを確立させていく。

 

例えば、出来杉君は頭がいいというキャラを際立たせる事で、あの集団の中で認められる事を通して自己肯定感を高めていく。

ジャイアンは大きな体とガキ大将というリーダーシップをもって集団の中でキャラを確立させ、自己肯定感を高めていく。

 

こうして、最初はほんの少ししか差がなかった事も、各々が得意な事に熱中することでその差がどんどん開いていく。

出来杉君とジャイアンの成績は小学校1年生の頃はほとんど差がなかったとしても、小学校6年生にもなると比較にならないぐらい開いてしまう。

 

ここで仮にジャイアンの母親がジャイアンに

「勉強しろ。良い大学を出た方が、よいところに就職できて人生が圧倒的に楽になる」と口を酸っぱくしていった所で、ジャイアンはまず間違いなく勉強には熱中しない。

 

何故か?ジャイアンからすれば、将来の職なんかよりも、今の友人の輪の中で、キャラを確立させる方がよっぽど差し迫った問題だからだ。

 

つまり、子供の発達は親が何をいうかよりも、どういう所属集団に属するかで、その後の伸びる方向の大部分が決定づけられてしまうのである。

 

仮にだけど、ドラえもんファミリーにIQ160の大天才がいたり、あるいはジャイアン以上の筋骨隆々のマッチョがいたら、出来杉君もジャイアンも、ああいう風には発達しなかったかもしれない。

 

褒められないと肯定感を感じられない

このジュディス・リッチ・ハリスの理論は実は子供だけには限らない。実は大人についても非常に強力に作用する。

 

先ほど例にあげた女子大生はTwitterのプロフィールをみるに、どうも色々と生きにくさを抱えられているようだ。

ストレスで朝起きれなかったり、ニートをやっていた事もあったようで、なんというか非常に人生が大変だっただろう事は想像に難くない。

 

こういう状態に陥ると、自己肯定感が著しく下がる。

先ほど、ドラえもんのキャラを例に子供の発達過程を説明したけれど、なんで子供が得意な事を主体にキャラを演じるかというと、それによって自分の居場所が出来て、なおかつそれで他人から褒められ、自己肯定感が高まるからだ。

 

冒頭に引用したツィートの闇が深いのは、あのポストに対してイケダハヤトさんを始めとする多数の方々から

「応援しています!!!」

という賞賛の嵐が雨あられのごとく降り注いでいるところにある。

 

ネガティブな反応も勿論複数あるだろうが、多分そんなものは彼女の目には届かない。

まさにジャイアンの母親がジャイアンに向かって「勉強しろ」なんて言っても、ジャイアンが勉強に全く熱中しないのと同じ事である。

 

人はみたいものしか見ないようにできている。

そして彼女のような、今生きくさを抱えている人間にとって、イケダハヤトさんを始めとする界隈の方からの賞賛は、何にも代え難い、とても心地よい暖かなメッセージなのだろう。

結局、いくつになっても人は、褒められる事の気持ちよさからは脱却できないのだ。

 

多くの人はネガティブな意見を人格批判と捉えてしまう

人は間違いを指摘される事を非常に嫌がる。

前に「日本人は議論ができない、何故なら反対意見を言うと、それを意見への反論ではなく、人格否定発言としてとらえるからだ」

という言葉をきいた事があったけど、僕の経験上、意見どころか様々なものに対してミスを指摘するだけで、人というのは物凄く不快になる生き物だ。

 

かつて、職場で非常に強烈な上司のもとで働いていた事があった。

彼は人を鬱にする事で有名だった。

この上司は言動も結構キツイのだけど、何よりも凄いのが人のミスを見つける事が非常に上手く、また絶対に人を褒めないという筋金入りの厳しい人だった。

 

彼のもとで働くと、淡々とミスを指摘され続ける憂き目にあうのだけど、これをやられると人間はすざまじいスピードで鬱になる。

本来ならミスをした人は悪いわけではないのだから、ミスはミスとして淡々と受け入れ改善すればよいのだけど、これができる人間はまずいない。

体感的には9割の人間は、ミスを指摘される事をそのまま人格否定と感じる傾向が強い。

 

この逆を考えると、この原理はもっと簡単に理解できる。

人は、褒められる事が何よりも好きだ。お世辞だって、どこからどうみてもわかるようなことですら、人は褒められると嬉しくなる。

 

さてここで質問だ。あなたはミスを淡々と指摘され続けるだけの場所と、お世辞だろうが褒めてもらえる場所、どっちかしか所属できないとしたら、どちらにいくだろうか?

 

件の女子大生の選んだ先が、どちらなのかを比較して考えた時、この問題の真の闇が垣間見えてくるんじゃないだろうか。

 

不安を感じるからこそ、人は成長できる。

人間の性格の一部は、遺伝子で決定づけられている事がわかっている。

遺伝要素として、人間の感情に影響を及ぼすのは「セロトニン・トランスポーター」という遺伝子だ。

セロトニンが十分に満たされている時、人は安心感を覚え、セロトニンが欠乏すると、人はうつ病になりやすいのだという。

 

セロトニン・トランスポーター遺伝子は長いもの(以下:L型)と短いもの(以下:S型)の二種類ある。

L型はS型よりセロトニンを多く運ぶことができる。

 

人はこの遺伝子を2本持っており

LL型:L型2本の組み合わせ

SL型:S型とL型の組み合わせ

SS型:S型2本の組み合わせ

の3パターンに分けられるのだそうだが、白人や黒人はLL型の割合が高いのに対して、日本人を始めとするアジア人はSS型の割合が高いのだという。

 

つまり、アジア人は人種レベルでセロトニンを貯め込む事が苦手で、その結果、悲観的になりやすいのだ。

日本や韓国で、こんなにも社会が発達したにもかかわらず自殺率が高いのは、この遺伝子の影響が非常に強く作用しているからだろう。

 

こう聞くと、アジア人が劣っているように聞こえるかもしれないけど、実は不安を感じるという事は悪いことではない。

人は不安を感じるからこそ、目の前の現状に甘んじることなく修練するのである。

 

実は大規模調査により、アジア人のIQは白人や黒人と比較して高い傾向がある事がわかっている。

これはアジア人が不安を感じやすいが故に、他人種と比較して物事に勤勉になるからではないか、と言われている。

 

不安を感じやすい事は、決して悪いことではないのだ。

不安だからこそ、人はそこから抜け出そうと必死にもがき、成長する事ができるのである。

 

人生はリラックスと不安の間を行ったり来たりする

これを読んでいる多くの人も、きっとたくさんの不安があるだろう。

そういう時、安易な自己肯定感を得られる手段に逃げたくなってしまう気持ちは痛いほどよくわかる。

 

人生は様々な不安に満ち溢れている。それらの多くは、一朝一夕では解決できない、とても困難なものだ。

そういう時、つい耳に心地よい言葉に身体が流れてしまうのは、ある程度はしかたがない事なのかもしれない。

 

だけどその不安は永遠には続かない。

僕も数多の不安を経験してきたけれど、いつだって目の前のやるべき事を淡々とこなしてさえいれば、その不安はいつしか消え去り、新しい自信となって自分を強くしてきてくれた。

 

だからこれを読んでいる皆様も、不安を耐えきり、易きに流れず、困難な人生のプロジェクトを達成して欲しいなと思う。

 

人生はリラックスと不安の間を行き来するものなのだ。今ある不安は、あなたを強くしてくれる為の、燃料なのである。

眼の前の事を淡々とこなそう。そうする事で、いつしかあなたも、山の頂上に登りつめ、澄んだ空気と美しい絶景を目にする事ができる。

 

ともにこの困難な世の中で、がんばりましょう。

 

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高須賀

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(Photo:Roberto Trombetta