寂しさからついつい、出会い系サイトに登録して、そこから電話で話せる男性を募集してみた。
なぜ男性なのかと問われれば、日常生活にて全く男性との関わりがないからだ。

図書館司書として図書館で働くも、同僚は女性ばかり。いつもいつも勤務先では、女性特有の人間関係の面倒臭さと煩わしさに頭を抱えて、悩まされている。

 

だから、ネット上の架空空間での話し相手くらい、普段は関われない男性が良いではないか。

別に声だけの付き合いだから、イケメンが良いとか高収入のエリートが良いだとかは、こだわらない。

ただ、楽しく癒されるような会話ができて、その声がほんのちょっとでも、普段はアニメの声優の声に入り浸りな私をトキめかせてくれるようなイケボであるなら、それ以上の事を求めはしない。

 

 

ドキドキしながらサイトに「美月」というニックネームと自分のプロフィールを登録すると、ものの五分も経たないうちに大勢の男性からのレスポンスがあった。

受信したメールを開封し、相手を見定めていくが、メールの文面からして頭のおかしそうな物は無視。

 

「女装家です。貴女のパンティを譲って頂けませんか」

「スワップ仲間募集しています。まずはお話しましょう」

 

などなど。
そんなメッセージばかりが続き頭が痛くなってきて、思わず頭を抱えて呻き声をあげた。どうして出会い系には、こんな変な男しかいないのだろうか。

いや、ネット上の世界だけでなく、そもそも世の中にはメールの送り主たちみたいに、気が狂った男しかいないのかもしれない。それならば、齢二十四歳の私に恋人がいないのも頷けるというものだ。

 

悪いのは恋人いない歴一年半の私でなく、世の男性陣たちなのだ。

きっと見た目は普通に見える、お隣に住むご亭主も、紺のスーツの下にはワコールの高級ランジェリーを身に着けているに違いない。

なんて妄想を前に絶望を味わっていると、ようやくまともそうな人物と繋がる事が出来た。

所在地は長野のお隣、山梨県で年齢は三十六。学歴は某有名国立大学。私とちょうど一回り上で、趣味は読書と株との事。

 

「良かったら電話しましょう。電話番号を教えるから、非通知でかけて貰っていいですよ。知らない男に電話番号を知られるって、恐怖だろうから」

ああ。きちんと女性の事を考えられる人なのだな、と感心しながら私もメールを送る。

「メールありがとうございます。お誘いは嬉しいのですが、かけ放題プランに入っていない為に、電話だとお金がかかります。良かったら、ラインでお話しませんか?」

するとすぐさま返信がやって来た。

「良いよ。じゃあラインにしよう。これが俺のIDね。○○○○。かけ終わったら、ブロックして貰っても良いよ。しつこくしたりしないから」

 

早速、教えて貰ったラインのIDを検索する。

「ハジメ」という名前の男性ユーザーが検索結果に表示されて、ドキドキしながら友人に追加した。

その時のドキドキは、多少の不安が入り混じったものであったが、決して嫌な物ではなかった。

まるで冒険小説を読んでいて、未知の物に触れるような、ゾクゾクさせてくれる興奮があった。

ただずっと、家と職場の往復を繰り返していただけの自分にとって、それは久々に胸の高鳴りと血の流れを感じさせてくれる、とても魅力的な物に思えたのだ。

 

「こんばんは。ラインを教えてくれてありがとう、サイトから来た美月です。これから宜しくお願いします!」

震えながら、頬を赤くしながらラインを送る。

だって、男性にラインを送るだなんて、久しぶりだったから。

 

と、初々しいかつ甘酸っぱいドキドキに包まれてる中で、早速ラインの通話着信がピロピロと鳴るではないか。

慌てふためき、冷静を努めようと必死になりながら電話を取り「はい」と裏返った声を出した。

ああ。こんな時に限って、可愛い女の子の声が出ない。

 

「どーも。こんばんは。ハジメです」

受話器の向こうから、落ち着いた低めの良い声が聞こえてくる。個人的には好きな声質で、思わず胸中でガッツポーズを取った。

 

「あ・・・、ど、どうも・・・。こんばんは・・・。この度はラインを教えて頂いて・・・ありがとうございました・・・」

「何、そんなに、かしこまっちゃって」

私の話し方がおかしかったようで、電話の向こうの「ハジメ」という人物は、クスッと笑っていた。脳内で勝手に、高身長の美丈夫が、バーボン片手に笑っている光景が浮かんできた。

いやいや、全てが全て、私の妄想なのだけれども。

 

「あはは・・・。年上さんだから、どうしても、かしこまっちゃって・・・」

「だってまだ、美月さん二十四歳だもんね。若いねー」

「うーん。自分的には、来年は二十五歳だから、もう来年からはアラサーかぁ。って感じなんだけれどもね」

 

これは本当だった。私は来年、四捨五入して三十になろうとしている。それなのに結婚を前提に考えられる男性はいないし、仕事だって不満ばかり。

安定した収入も、貯蓄もない。不安いっぱい。自身ゼロのアラサー手前。

それが今の自分だった

 

しかし、ハジメからすると私はあくまで「二十代初めの若い女の子」らしく、私はその事実にホッと安堵したし、電話上とはいえ女性扱いされて非常に嬉しく感じた。

ハジメは面白い人で、もしネットで女性に会うとしても、女性に顔写真を要求しようとは思わないという。

今の時代、写真加工アプリは沢山あって信用ならないから、実際に会う方が手っ取り早いとの事。

 

「なんだかんだあのサイトは、暇つぶしで始めたんだけどさ。まだ誰とも会った事がないんだよ。俺も、つい最近までは恋人がいたし、そんなにネットで探す程には女性に飢えていないしさ」

「じゃあ、なんでまた今夜はサイトで話し相手を探そうと思ったの?」

ワイングラスを揺らしながら、彼に問いかけた。最初よりも、声に媚びがふんだんに含まれている。

無意識に自分を女に見せようとしているのだ。そして私はその事実を、ハジメに察して貰いたくて、堪らないのである。

 

「んー。今日はさ、午前中に友達と河原でバーベキューしてたんだよ。それで散々飲んで、気持ちよくさっきまでソファで爆睡してたんだけど、夕方になったらフッと目が覚めてさ。暇つぶしに何かないかなって、携帯を開いたら、ブックマークにこのサイトが残っていて、半年ぶりにログインしてみたんだよ。そしたら美月が話相手を募集していたから、話してみようかなと思って」

 

そうか。この男は、常に女性に出会おう出会おうとして、出会い系サイトに網をかけて獲物となる女性が来るのを待っているのでなく、「偶然」にサイトにログインしていたんだ。

と、私は勝手に自分の中で都合の良いドラマを作り始めた。この場合「偶然」は響きの良い「運命」という言葉に変換されるのだから困ったものだ。

私とハジメが出会ったのは、偶然などではないのだ。

私たちは、同じ時に話し相手を欲し、同じ時間帯に同じサイトにて相手を探していた。

これが奇跡でなくて何であろう。私たちが出会ったのは運命の名の元であり、この声から始まる出会いは、とてつもなくロマンチックなのだ。

 

私は赤ワインの酔いもあって、ポーッとなりながら、再び口を開く。

「じゃあ、私たちが出会えたのも、きっと何かの縁ね。私、ハジメさんと話していて、とても楽しいもの」

またまた声に媚びとあざとさが表れている。

でも、ハジメもそれが嫌ではないらしく、電話ごしのこの私を、百キロは離れた場所にいる、顔も知らないこの女を、愛おしむようにこう言った。

 

「ありがとう。俺も楽しいよ」

この言葉を聞いた途端に、心がフワッと舞い上がるようで、私は甘美なトキメキに身を浸しながら、ハジメとの会話を心から楽しんだ。

 

仕事の話に好みの異性のタイプ、趣味に人生観・・・などなど、気が付けば二時間近く話しており、ハジメの方から通話終了の言葉が来た。

「今夜はありがとう。また電話するよ」

私は熱冷めやまぬ状態で、潤んだ声で返答する。

「うん。待ってる」

電話を切り終えると、ポフンと布団に倒れ込み、胸をとろかす会話の余韻にひたすらウットリした。

ああ、わたし、きっと今、恋をしている。私とハジメさんは実際に会うんだわ。そしてお付き合いをスタートさせるの。そして色んな場所に出かけて、思い出を沢山作るんだわ。

 

楽しい期待に胸躍らせ、最高に幸せな気持ちで眠りに就いたのだが、その期待は全て泡になると、痛いほどに思い知らされる事となった。

 

 

「え・・・?」

一週間経っても、ハジメからライン通話どころかラインも来ないもので、痺れを切らしてこちらからラインを送ってみたが、既読マークがつかない。

ネットで検索してみると、どうやら私はブロックされてしまったらしい。

 

ガーンと頭を鈍器で殴られるようなショックで、目の前がクラクラしてくる。

なんで?なんで?あんなに楽しく会話していたのに・・・。たった一回の通話でブロックされてしまうだなんて・・・。会話していて、向こうの印象も感触も、決して悪いものではなかったのに・・・

 

「好意を寄せていた人にブロックされた」という事実に呆然とする中で、きっとこれは、電話のワンナイト・ラブなのだなとボンヤリ考えた。

長々と付き合うつもりはサラサラ無いけれど、暇だから話し相手は欲しい。

それも、相手が若くてピチピチした女性ならばもっと良い。ただ一晩だけ。

それ以降はやり取りも面倒臭いからブロック。

また話し相手が欲しくなったら、新鮮味を求めて、また違う相手を探す。だって、ネットの世界なら、相手なんかいくらでもいるから。

 

もちろん、私だって、最初から付き合うだとか結婚だとかを想定して、出会い系にて通話相手の募集をかけたのではない。

でも、だからって一回きりでサヨナラなんて、いくらなんでも寂し過ぎる気がする。

ほんの一瞬でも、ほんの少しでも、心を通わせる事の出来た異性ならば尚更。

 

体のワンナイトは、「快楽」を求めての行為だけれども、「電話」の場合は体じゃない。

声だけの関わりだから、自然に自分の心の内をさらけ出して、己を切り刻んで提供している。

だからこそ悲しいではないか。「自分」の身体でなく、心を捧げているんだから。

 

やりきれない思いで、サイトから退会し、澄んだ秋の空を見上げて溜息をつく。

私の曇り切った心と異なり、秋空は残酷な程に綺麗だ。

 

やはり、安易に出会いを求めてネットの大海原に出かけるのは、裏切られるのがオチなのかもしれない。

それでも、秋の風があんまり冷たくて、人肌寂しいから、心の隙間を埋める方法を求めてしまう。

 

浅はかだなぁと思いつつどうにもならず、私は澄み切った空の下で、一人大きくため息をついた。

 

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(2019/2/24更新)

 

【著者】

六条京子(ろくじょう/きょうこ)

信濃の国に在住。

短期大学在籍中は、三味線を弾いたり、映画を見て暮らしていた。

聖闘士星矢とヘタリアが心のバイブル。

就活でことごとく挫折し、ニートを経て現在に至る。

コミュ障なお喋りで、派手好きなエキセントリック・ウーマン。

彼氏とオーラが欲しくてたまらない今日この頃。

六条京子twitter

 

(Photo:sinkdd)