コスパの話ばかりしていると嫌われるらしい。

「最もコスパが良いのは死ぬことだ。死ねばお金はかからない」という言葉をTwitterで何度か見たことがある。

あまりコスパコスパばかり言うのは印象が良くないようだ。たしかにコスパの良さばかりを追求する人生は面白みに欠け、つまらないだろうと思う。

 

ただ、一方で「自分はこれをコスパが良いと思うか悪いと思うか」を考えることは、自分が何に重きを置いているのかがわかって、自分の価値観を認識するのに役に立つような気がしている。

 

ただし、その時に着目するのは、お金ではなく時間だ。

お金を払う際にコストパフォーマンスを意識しない人はあまりいないのではないかと思う。

そしてお金はどうなればコスパが良いのか、という点について、価値観のズレがない。安ければコスパが良くて、高ければコスパが悪い。

この点は共通認識としてあるからだ。これが前提としてあった上で、値段に見合った価値が提供されているかどうかが判断される。

 

では時間についてはどうだろう。

先日、飲み会でディズニー好きの人がその魅力を語っていた。曰く「ディズニーは全てがそろっている」とのこと。

乗り物、パレード、食事、お土産……全てがあの中にそろってたったの7,400円。世の中には、たとえばディズニーより高い値段で3時間程度のコンサート、というものもたくさん存在する。でもディズニーはコンサートより安い値段で1日中楽しめる。

 

はっきりと覚えているわけではないが、だいたいこんなような内容だった。

なるほど、と思いつつ、私はこう言った。

「ディズニーに行く時間とお金があったら他に何ができるだろう、と考えてしまう」

 

☆★☆

 

ディズニーが嫌いなわけじゃない。ディズニーには何度か行ったことがあって、行ったら行ったで楽しい場所だと認識している。

だから、1日中楽しめるという感覚は理解できるし、私もどうせ行くなら思い切り楽しみたいので朝から晩までいたいと思う。

 

でも、一方で「1日中楽しめる」ではなく「1日つぶれる」と思ってしまっている自分もいることに気づく。

楽しいことをしているのに「つぶれる」なんて言い方をするのも変だけど、長くいたいのに、長くいてはいけないような、そんな矛盾した感覚がある。

 

入場料を高いと感じるか安いかと感じるかは人によるだろうが、1日中楽しめてお得だと感じる人にとってディズニーはコスパが良いということになるのだろう。これはシンプルだ。

だが1日つぶれると感じる人にとって、(大袈裟な言い方になるが)この問題は少し複雑である。楽しい時間だから、長くいた方がコスパは良い。でも1日つぶれるのはコスパが悪い。どっちを取っても最適解にはつながらない、そんな状態に陥るのだ。

 

この感覚の差は、その楽しい時間こそが手に入れたいものなのか、楽しんだという結果だけを手に入れたいのか、という違いによって生まれるものだと思う。

ディズニーを1日中楽しめてお得だと思う人は、ディズニーで過ごす時間こそが手に入れたいものであって、だからその時間は長ければ長いほど幸せを感じることができるのだろう。

 

一方、「1日つぶれる」という感覚は、楽しい気持ちだけ手に入れられればよくて、結果だけしか見ていないことで生じる。

楽しいことはしたいけれど、そのために1日も使うのはもったいない、というような感覚だ。

 

実はディズニーの話を聞く前に、コスパについて考えさせられた個人的プチ事件があった。

 

きっかけは森博嗣さんの著書『読書の価値』に書かれていた「漫画については、小説よりは早く読めてしまうから、コストパフォーマンスが悪い」という言葉だ。

これは森博嗣さんが月数百円のお小遣いでやりくりしていた小学生時代、同じお金をかけるなら早く読めてしまう漫画より、時間をかけて読む=長い時間楽しめる小説の方がコスパが良いと思っていた、ということを意味している。

 

私はこの一文を読んだ時、大袈裟ではなく本当に、心の底から驚いた。

なぜなら、これを読むまでずっと「漫画は早く読めてコスパが良い」としか思ったことがなかったからだ。

 

コスパというものは、「どの程度重視するか」で意見が割れることはあっても、その方向性で意見が割れることはないと思っていた。

つまり、「漫画は早く読めてコスパが良い」というのは一般的な感覚で、違いがあるとすれば「物語を味わうのにコスパはあまり気にしていない」だとか「小説にはコスパだけでは測れない良さがあるのだ」とか、そういう点だと思っていた。

だから自分とは全く逆の感覚で捉えていることに、衝撃を受けたのだ。

 

他の人の感覚も知りたくなり、Twitterでアンケートを取ったところ、291票が集まった。

漫画は本より早く読めるから、
コスパが良い…33%
コスパが悪い…34%
閲覧用   …33%

なんと1%差という接戦だが、「コスパが悪い」の勝利という結果に。そもそも小説や漫画をコスパが良いとか悪いとか、そういう観点で捉えたことがない人もいると思う。

でも、「早く読める」ことを「コスパが悪い」と捉えている人がこんなにもいるなんて。早く読める=時間の節約、ではないのか!

 

それが一般的な認識だと思い込んでいた。ところが、そうではない人も結構な人数いる。

時間の節約、ではなくて、楽しい時間なのだから、長ければ長いほど良いのだ。そういう感覚を漫画に対して持っていなかったことに気づかされた。

 

こうやって書くと何もかも時間を節約したがっている人間だと思われてしまうかもしれないが、決してそんなことはない。

旅行している時や、気心の知れた人たちと一緒に過ごしている時など、私にとっての尊い時間はちゃんと存在している。それは上で述べたディズニー好きの人がディズニーで過ごす時間と同様、長ければ長いほど幸せな時間である。

 

ただ、私は旅行時間は長い方が幸せだけど、短時間にいかに多くの場所を訪れるか、という旅行の仕方が好ましい人も中にはいると思う。

本当に手に入れたいものが時間なのか結果なのか、人によって違うということだ。

 

☆★☆

 

お金は、安ければコスパが良く、高ければ悪い。

でも時間については、人によって違いが出てくる。それが面白い。

 

コスパを考えることは、自分は何を手に入れたいのか、結果だけ手に入れられればいいのか、何かをする時間こそが尊いのか、そういうことを考えるきっかけになってくれる。

 

自分の価値観をしっかりと見つめる上でコスパについて考えるのは役に立つのではないかと思う。皆さんも「コスパ厨」などと言われない程度に、自身のコスパ感について考えてみてはいかがだろうか。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
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(2025/6/2更新)

 

【著者プロフィール】

名前: きゅうり(矢野 友理)

2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。

【著書】

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(Photo:Daniel Héctor Stolfi Rosso