結婚していると、いろいろと男と女のものの考え方の違いを痛感する。
夫婦喧嘩は犬も食わぬというけれど、つい先日あったヒト幕が自分の中で随分と衝撃的だったので紹介させて頂きたい。
お願いは断ってはいけないもの?
キッカケは些細な事だった。
妻がAmazonで買いものをしたのだけど、運悪く配送時に不在で受け取りができなかった。
本当にたまたまなのだが、妻はそのまま里帰りをする予定だった事もあり、僕にLINEで
「ヤマトから不在着信が来たから、荷物受け取っといて」
と連絡をよこした。
ちょうどその頃、僕は勉強会続きだったり仕事を大量抱えてたりでハチャメチャに忙しく、いろいろ限界だった事もあって短文で一言
「嫌じゃぁ」
と返事を返した。
どうせ荷物を受け取ったところで妻は里帰り中である。この荷物が必要になるケースは万に1つもない。
断ったのは、別にそうしても何も問題ないだろうとの判断もあった。
まあ、さすがにヤマトの人に悪いし、自分の中で余裕が出てきたらいつかは受け取ろうとは思ってけど。
ところがこれが妻の逆鱗に触れたのである。
「ふざけんな。なんで断るんだ。理由を述べろ。うんって二文字言えばいいだけなのに、なんでそれがお前はできないんだ」
僕はビックリした。僕の中での「お願い」という概念は、お願いする側に受け入れるか拒否するかの選択権があるものであり、聞いてもらえたら僥倖。聞いてもらえなかったら仕方がない、それぐらいのニュアンスのものであったからだ。
しかし妻の中でのお願い事という概念は、基本的には引き受けることが大前提のものだそうだ。
断るのはそれ相応の理由がなければ絶対にしてはいけない事であり、断る際には相手が納得できるような理由を失礼にあたるのだという。
これに再び僕はビックリした。断られる事が前提とされていない「お願い」は、どこからどう考えても既にお願いの範疇を超えており、僕からすると概念的には「脅し」に近い。
親しくなったら、なんで「お願い」が「脅し」になるのだろうか?
妻が怒り狂った以上に、僕はそれが不思議で仕方がなかった。
身内は他人よりも手厚く扱わなくてはいけない?
恐らくなのだけど妻側からすれば「お願い」の内容自体はどうでもよく、あれは一種の身内テストみたいなものなのだろう。
世の中には、身内は他人よりも手厚く扱われるものだという発想の人達が一定数いる。
こういう人達は様々な言外のシグナルを送りあって、仲間であるか否かを確かめ合う。
僕は「いや、そもそもこの荷物、仮に僕が受け取っても今すぐあなたは使えないんだから、断られた事にそこまでブチギレる意味が全然わかんないんだけど?」
と僕からすれば極めて現実的な返答をしたつもりなのだけど、それに対する妻の答えは
「”はい”って二文字を言えば全部が丸く収まるのに、なんでそれが言えないの?」というものだった。
どうも詳しく話を聞いてみるに、妻側からすると
「お願いを受け入れてもらえる≒仲間」で「お願いを拒否られる≒相手の事が嫌いだから断ってる」
みたいなニュアンスがあるようで、荷物の必要性なんてのは正直全然大したことないっぽかった。
つまり「お願い」を通じて、僕は「妻の本当の仲間かどうか」を試されていたのである。
「お願い」はテストだったのだ。
ドライなビジネス関係、ウエットな仲間関係
僕は基本的には身内優遇みたいな事は好きでなく、また好き嫌いで物事を判断する事もあまり好まない。
自分と相手は徹底して人として平等であり、それを情で傾斜をかける事は基本的には好まない。
それに加えて、徹底して無駄が嫌いである。
挨拶は顔をみて会釈するぐらいで十分だと思ってるし、なにか物事をやったからといって感謝されたいとも思わない。
自分自身ではこれは極めて普通の事だと思っていたのだけど、これは一般的ではないようだ。
普通の人は身内優遇を望むし、あいさつや感謝を必要以上にありがたく感じるのだという。
なんでここまで自分が一般的な感覚から乖離しているのかを考えたのだけど、結論としては自分が資本主義社会に極端に適応して、ビジネスな人間関係良いものとして考えている事に原因がありそうだった。
資本主義社会は「情」ではなく「マネー」で動く。
どんなに感謝しようが頑張ろうが、成果がでなければ全く意味がなく、そういう意味ではビジネス関係を徹底して突き詰めていくと、「情」は削ぎ落としてもあまり問題がないものとなる。
一方で、共同体の原理では義理人情こそが最も大切なものであり、身内は徹底して優遇し、共同体の外にいる人間には基本的には冷たくあたり、徹底して差別化を図る。
そこでは感謝や頑張り、共感といったものが凄く重要視され、仲間か否かが全てである。
だから「冷たくされる」≒「相手は仲間ではない」という意味に等しく、それは「情」をベースとする人間からすれば、「今までの私の活動って、いったい何だったの?全部無駄だったっていうの?」というニュアンスに極めて近く感じていたのだ。
できる側が歩み寄らなければならない
とまあ、徹底した対話を通じて、夫婦間の考え方の違いは理解できた。
次はどう歩み寄るかである。
解決策としては2つある。
1つは、妻が僕寄りのドライなビジネスライクな考え方ができるようになることであり、もう1つは僕が妻寄りのウエットな共同体的な考え方を理解する方法である。
これに関していえば、どちらが正解というのはない。
ただ、指針を示すとすれば、できる能力をもっている側が、できない側に歩み寄るのが妥当だろう。
世の中には、ノブレス・オブリージュという考え方がある。
これは「持てる者と持たざる者を比べた時、持てる者のほうが恵まれているのだから、ちゃんと持たざるものに報いなさい」という意味の考え方である。
夫婦生活は、いろいろとお互いの常識が違うから衝突する事がとても多い。
例えば、部屋の汚さについて、片方が汚くても全然耐えられる一方で、もう片方は整理整頓されてないと気持ち悪くて耐えられないというケースがある。
この場合、多くのケースにおいて、キレイ好きの方が我慢できずに掃除するハメになるので、キレイ好きは常に「働かされている」という風に思いがちだ。
一方で、部屋が汚い事に耐えられる側からすれば、「頼んでもいないのに、勝手に部屋を片付けてるのに、それについて感謝を求められるのは意味がわからない」と思いがちである。
ここで、両者にすれ違いが生じ、ある段階まで不満が蓄積すると、恩を貸し付けてると思っている側が爆発する。
ここで、部屋を片付けられない側に、お片付けを仕込むのはかなり至難の業だ。
必要性がない人間に、物事を仕込むのは非常に難しい。
スワヒリ語を他人に何の動機もなく話させるのが不可能に近いように、必要性がないと思ってる人間に技能を教育するのは、間違いなく不毛以外の何物でもない。
こういうケースでは、できる側ができない側に「これも1つのノブレス・オブリージュだな」と観念してやる他ない。
とはいえ、それだと不公平感が半端ないと感じる人が多いだろう。
では、できない側は何をもって歩み寄ればいいのだろうか?そのヒントは「感謝」にある。
できない人間こそ「ありがとう」という通貨を音ゲー感覚でポチっとしよう
人は褒められる事や感謝に異常なまでに喜ぶ生き物だ。
先のケースでいえば、掃除する側からすれば、わざわざ掃除してやってるのだから、感謝の言葉ぐらい言ってもらえても、いいんじゃないかと思っているケースが非常に多い。
よく、家族や友人の間柄でも、感謝や気遣いが大切だという人が多いけど、これはつまるところ
「仲間の間柄だからノブレス・オブリージュをするけれど、その対価として感謝や気遣いで支払わないと、関係が継続できない」
というニュアンスに近い。
だから、何かをやってもらってると思ったら、必要以上に「感謝」の言葉を述べよう。
「ありがとう」の言葉で、人は意外と喰ってけるのだ。
とはいえ、この「ありがとう」もつい気を抜くと言うのを忘れてしまいがちだ。
ここは1つ「ありがとう」というのをゲーム感覚で捉えよう。音ゲーのニュアンスで考えると非常によい。
音ゲーとは、ビートマニアやポップンを祖とするゲームで、主に音楽に合わせてボタンなどを入力することでハイスコアを競うものだ。
あなたの日常は、つねにこの音ゲーが流れているものと考えよう。
リズムに合わせて、「ありがとう」「感謝しているよ」といった褒め言葉を定期的にテンポよく合わせていけばハイスコア。
逆に相手が爆発したら、バーの押し忘れ過ぎでGame overと考えよう。
僕はこれをお気持ちラップバトルと呼んで楽しんでいる。
全国ハイスコアランキングを勝手に自分の中で想定し、いかにハイスコアを叩き出すかの、ゲーム感覚として楽しんでいる。
「ありがとう」ポチ→Great!
「おかげさまで、部屋がいつもきれいだよ」→Good!
これを一日の中で、どれだけテンポよく押せるかの勝負である。
というわけで、人間関係に悩んでいたら「ノブレス・オブリージュ」と「音ゲー」という概念を導入して、うまくいくかを試してみて欲しい。
このように、様々な概念を利用して、人生をゲーム感覚で乗り切る事こそがライフハックの正体である。
ゼロから攻略法を探すのは非常に難しい。そうではなく、自分が慣れ親しんだ概念使って、楽しく人生を攻略しよう。
最後で恐縮だが、これの参考になる本が借金玉さんの発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術である。
とても良い本なので、是非ともみなさんよんでみて欲しい。非常に多くの事が学べるだろう。
人生、楽しいのが一番である。人は1人では楽しく生きていけないのだから、上手にラクをして、うまく乗り切っていくしかない。
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(Photo:Toshiyuki IMAI)