最近、この世の中には2つの世界があると感じている。
一方にあるのは中流階級以上が優雅に暮らす世界。
もう一方にあるのが低い賃金で非人道的な雇用条件を押し付けられ、かつそこから抜け出す事が難しい世界だ。
大前提として、私達の世界は物凄く豊かなはずだ。
物資に満ち溢れ、飢えること無く、また暴力的な出来事に関わる事もほとんどない。
それなのに、どうしてこの世には天国と地獄のような2つの世界ができてしまっているのだろう?
僕はそこにはマルクスが私達に教えてくれた事を無視したツケにあるように思える。
マルクスが私達に教えてくれた事
世の中になぜ格差があるのか?これを上手に説明したのがマルクスだ。
マルクスは、資本主義社会においては人間は資本家と労働者の2つに分類されるという。
資本家は、労働者の労働力をお金で買い、それを用いてお金を再生産する。
そうして生産されたお金の一部を労働者に支払い、余った余剰を対価として手に入れる。
資本家はお金で労働力を買えるので、お金があればあるほど労働力をたくさん買える。
結果、お金でお金を更に生み出すことができる。
一方で、ひとりひとりの労働者は一定の労働力しか売るものがないので、 稼ぎは常にある範囲内に収まる。
つまり、経営者はお金を等比数列的に増やせる一方で、労働者は労働力という有限のものでしかお金を増やせない。
故に、両者の貧富の差は資本主義社会においては莫大な開きが生じてしまう。
これはほんの触り程度のマルクス経済学の話だけど、マルクス経済学は資本主義の問題点を克明に表しており、簡単にでも学んでおくと現代社会の問題点もいろいろとわかって面白い。
興味ある人は池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」あたりを読んでおくといい。
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これを読んで「何を当たり前の事をいってるのだ?」と思った人も多いかもしれない。
しかし、この現象を徹底した資本主義やグローバリズムと組み合わせると、冒頭に書いた天国と地獄がなぜこの世に生み出されたのかについての残酷な真実がみえてくる
安くて便利なサービスを使えるのは、誰かが安く働いてくれるから
以前、ユニクロが出てきた時、消費者としての自分は素直に喜んだ。
安くて丈夫な服が買えるのだから当然である。
しかし、ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)を読んで、僕は物凄く難しい気持ちなった。
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わたしたち消費者は、安いものが何よりも好きだ。
同じ品質ならば、2000円のTシャツじゃなくて1000円のTシャツを買うのは誰だって当然の話である。
では、ここで削られた1000円は何なんだろうか?
それは究極的には、同じ品質のものを提供するのなら原材料費を削れないが故に、必ず労働者の労働力に行き着く。
これがブラック企業が必然的に産まれてしまう仕組みだ。
難しいのが私達は恐らく無意識に、このブラック企業生成過程に加担してしまっている事である。
さっきも言ったけど、わたしたち消費者は割高なものを何よりも嫌う。
するとどうなるか?最終的には安くて高い品質のものを作る企業だけが生き残ることになる。
マーケットで勝ち抜くレベルの高品質のものを作るためには、原材料費はケチれない。
良い原材料を使って、安いものを作るために何をすればいいかという事になると、従業員を必要以上に働かせたり、安い賃金で買い叩く以外には方法がなくなる。
結果、従業員に高い賃金を支払うような良心的な経営者は早々に市場で負ける事となる。
割高な商品を消費者に売りつけてるのだから、これは当然の話だ。
けど、その割高分はもともとは労働者の給与であった可能性もあったと考えると、つまるところ私達は消極的にではあるのだが、安くて高品質なものを求める行為の結果、ブラック企業の発生を支援している事に他ならなくなる。
労働者の労働力をギリギリまで切り詰めて作られた高品質な商品を消費者としての私達が買うが故に、労働者に支払われる給与が切り詰められていく。
先のマルクス経済学の説明では、資本家と労働者が対立構造にみえたけど、実は消費者も資本家をブラックに駆り立てているのである。
そしてこれは、これは消費者が賢ければ賢いほど加速していくシステムであり、以下でみていくようにグローバルレベルで更に格差が拡張していく話でもある。
グローバルレベルになったアマゾン帝国の凄み
先のユニクロはまだギリギリで国内企業の範疇だけど、グローバル企業であるAmazonともなると、これはもっと凄いことになる。
アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂したという本では、それこそ人間が人間としていかに安く買い叩かれ、人としての尊厳をあらゆる要素でもって毀損しているグローバル企業の現実がみえてくる。
アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した
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私達が愛用しているアマゾンのキレイなサイトの裏では、移民を非正規雇用で極限まで安く買い叩かれて、人間としての尊厳を奪われるかのような形で働かされている。
何もアマゾンははじめから移民を奴隷のように扱いたくてこのような雇用形態を生み出したわけではない。
わたしたち消費者の、安くてよりよいものが欲しいという、善意に全力で耳を傾けた結果がこれなのだ。
恥を偲んで書くが、僕もアマゾンをかなり好んで使用している。
先程、プライムデーでガンガンものを買ったばかりである。
こうして僕のような人間がアマゾンを使えば使うほど、先程の資本家と労働者の関係は、より強固に締め付けられていく事となる。
そうしてグローバルレベルでマルクスの等式が成り立った果てが、ジェフ・ベゾスの14兆円という驚異の資産だ。
初めに、マルクス経済学の資本家と労働者の話を読んだ時は、スケールが小さいからか、そこまで大きな問題のようにはみえなかったかもしれない。
けど、これがグローバルレベルとなると話は完全に別の次元となり、私達の理解を遥かに超えた怪物がこの世に爆誕する事となる。
一方では、最低賃金労働者として絶望し、片方ではペニスの写真を送ったのが問題で4兆円もの資産を離婚調停で奪われるなんて喜劇が発生しているのだから、まったくもってこの世の中というのはとんでもない。
かつ、わたしたち消費者が善意でアマゾンを選び、世の中がそうなるように加速させているのだから、またタチが悪い。
技術革新で便利なものが産まれると、必然的にブラック産業がこの世に生み出される
この話はアマゾンだけではない。
技術革新によりどんどん便利になる世の中においては、この手の話はどんどん加速力が増していっている。
例えば、以前はロンドンのタクシードライバーという職業は、高い社会的地位とそこそこの高収入が約束されていた職業だった。
これはロンドンの複雑に入り組んだ道路の中から最短経路を割り出すという作業に高度の専門性があったが故の事であり、かつ利用者が比較的割高な利用料金を支払う事をよしとしていたからだ。
けど、GPSが誰にでも使えるようになり、IoTによりドライバーが管理されるようになった結果、ウーバーというシステムがこの世に爆誕し、この儲けの図式は完全にぶっ壊れた。
詳しいことはアマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂したを読んで欲しいのだけど、もはやウーバーというシステムが爆誕した結果、タクシードライバーという仕事は以前のような高所得の雇用形態からユニクロやアマゾンと同じような低賃金報酬形態の図式へと組み込まれる事となった。
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割安を好む賢い消費者が、またしても何気なく資本家をブラックへと駆り立てて、労働者をブラックに落とし込んでしまったのである。
低賃金カルテルという、現代の二等市民に押し付けられた業
冒頭で、この世の中には2つの世界があると書いた。
一方にあるのは中流階級以上が優雅に暮らす世界で、もう一方にあるのが「低い賃金」で「非人道的」な雇用条件を押し付けられ、かつそこから抜け出す事が難しい世界だ。
低賃金カルテルというネットスラングがある。
これは介護や保育士、清掃業といった、人手不足にも関わらず、需要と供給曲線に沿って給与がいつまでたっても上がらないタイプの職業の総称だ。
なぜこれらの職種の給与がいつまでたっても上がらないのかといえば、一にも二にも、わたしたち消費者が安くて質の高いサービスを追い求めているからに他ならない。
これらの職種の給与がいつまでたってもあがらないのかという話を更に追い求めていくと、私達がこれらの職種をある種の二等市民的なものとして扱っているという話もあるだろう。
以前、ホリエモンさんが刑務所に入ってた頃の話を読んだ時のことだ。彼が介護施設で働かされる描写をみて
「フーン、刑務所の懲役って、こんな事するんだ」
と疑問も持たずに読み流した事があった。
しかし、いま考えてみると例えばこれが仮に年収数億円のM&A部門で働かされたという話だったとしたら、たぶん世間は物凄くモヤっとしたんじゃないだろうか?
それこそ「なんで刑務所に努めてる奴が、こんな事してるんだ!」と怒る人は当然いるだろう。
ではそう怒る人にこう聞くとどうだろうか?
「なんで、ホリエモンさんがM&A部門で働くのは駄目で、介護施設で働くのは許されることなのですか?」
その答えに、身分差別的な要素を完全に取り除いて説明する事は恐らくとても難しい。
わたしたち消費者は安くて便利な世の中を享受する為に、世の中にある種の二等市民的な存在を無意識のうちに許容しているのではないだろうか?
わたしたち消費者が、善意で地獄を作り出している
たぶん、この世には隠された2つの身分があるのだ。
1つは格安で質の高いサービスを利用できる身分。
そしてもう1つは、格安で質の高いサービスを提供する側の身分だ。
そしてそれは、マルクスが私達に警告した話を、真剣に耳を傾けなかったからこそ生まれた話なのではないか、と最近僕は思うのだ。
グローバルレベルで加速する資本主義の世の中において、この流れを止めるのはとても難しい。
不便で割高な商品を許せない私達にできることは、必死で自分が格安で質の高いサービスを提供する側に陥らないように、全力でピボットし続ける事だけだ。
わたしたち消費者が、善意で地獄を作り出しているのである。まったくもって、けったいな話である。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:Cory M. Grenier)