こんな記事を読みました。
『遊戯王』作者の高橋和希先生、キャラクターに政権へ攻撃的な発言をさせて炎上。謝罪へ
漫画『遊☆戯☆王』作者の高橋和希先生が7月15日、自身が運営するインスタグラムのアカウントで同作の登場キャラクターに政権へ攻撃的な発言を行わせて炎上。翌16日に謝罪を発表しました。
ちょっと面倒くさい話になるかも知れないんですが、この記事をトリガーにして思ったことを書いてみます。
まず前提として、「創作者が、作品やキャラクターを通して政治や思想を語ってはいけないのか」というと、そんなことは全くありません。
ガンガン政治や思想について語っていいと思いますし、その権利は絶対に護られなくてはいけません。ここに議論の余地はありません。
ただ、それとは全然別の話として、創作者は「自分の作品の質」を批評される目に常に晒されています。
つまらない漫画の作者さんは批判されますし、面白くないゲームを作った開発者は批判されます。それもまた、「表現の自由」の話の内です。
「この漫画つまらない」「この小説好きじゃない」と思ったことをwebで表明してはいけないとしたら、それこそ表現の自由どこいったのって話になるでしょう。
これも同じく当然の話であって、この二つは全く矛盾しません。
どういう訳か、この二つの当然の前提を、何故か当然と受け取ってくれない人というのが、世の中には一定数存在します。
どちらか一方が優越して、もう片方はあってはいけないように語る人が、割と観測出来るんです。
どっちも同じように大事だと思うんですけどね。
***
キャラクターに感情移入をすることは、作品を楽しむ上での重要な要素の一つでして、作品への没入感も同様、その作品の面白さを形作る上での大事なエッセンスです。
いわゆる「飛影はそんなこと言わない」問題なのですが、キャラクターが世界観と全然関係ない発言をし始めた時
「没入感を損なわれた」「世界観がバグった」
と思って面食らってしまう人はそりゃまあたくさんいるでしょう。
私、子どもの頃から、例えばジャンプ漫画のキャラクターが交通安全について語っているCMとかあんまり好きじゃなかったんですが、それは明確に「世界観を損なう発言」だったからだ、と思います。
幽助が「タバコのポイ捨てはやめよう!!」「未成年の喫煙ダメ、絶対!」とか言うかよ、って話です。
(完全に余談なんですが、両津勘吉が交通安全について語るのは本来全然世界観を損ねない筈なんですが、何故かキャラクター性が犠牲になってしまう感が強いです)
つまるところ、「キャラクターや作品を使って政治や思想について語るのは完全に自由だけど、創作者としての「面白さ」を考えるなら、それは可能な限り世界観やキャラクター性に合致した形で行って欲しいなあ」という話なのです。
個人的な好みの話をすれば、私は「思想性が強い創作」は全然おっけー、ウェルカムなんですが、「創作者の思想が先走って、キャラクターが思想を語る為のマイクになってしまっている作品」はあまり好きではありません。
「このキャラ、作者のスピーカーになってしまってるなあ」と感じてしまうと、その時点で「ノットフォーミー」になってしまうのです。
これ、結構微妙なラインの話ではあるのですが、例えば
・あるキャラクターが、場面やそのキャラクターの性格にそぐわないようなところで盛んに政治や思想の話をする
・ある思想を持ったキャラクターが作品内で一方的に優遇される
・その思想と反対の側のキャラクターが露骨に悪役にされる、作品内で貶められる
ようなことが頻繁にあると、私としては「ちょっとこの作品俺に合わないな…」と思ってしまう確率が上がるようです。
要は、「キャラクターが思想を語る際の納得感」みたいなものがあって、私にとってはそれも、作品を評価する上での結構重要な評価軸のうちの一つであると。
よく言われる話だと思うのですが、例えば田中芳樹先生の「銀河英雄伝説」における民主政治と独裁政治の対立は、作品の世界観、作品の展開の中に完全に落とし込まれていました。
その中で、それぞれのキャラクターが政治や思想について語る際にも、「作者の声」ではなく「それぞれのキャラクター自身の声」として完全に消化されていた、と、少なくとも私は思うのです。
更に言うなら、作品自体の展開としても、片方が一方的に優遇されたりはしなかった。
最終的に勝者になったのはローエングラム朝銀河帝国であって、それでも民主主義の種子は宇宙に残る、という形で作品は終わりました。
あの最後の一文、めっちゃ余韻残りますよね。超好き。
一方、ある作品を上げつつ他の作品を下げるのは本来憚るところなんですが、この話をしないのもフェアではない気がするので書いてしまうと、同じ田中芳樹先生の「創竜伝」については、正直読んでいる途中で「うーん、ちょっと合わないかな…」となってしまった感はあります。
こちらは逆に、ある政治性を帯びた陣営が作品内で一方的に貶められ過ぎて、その他のキャラクター性にも歪みが生じてしまっているように思うところが強かったのです。
「いや、書きたいことは分かるんですけど、このキャラがこんな発言するかな…」みたいなところがどうしても大きかった。
勿論これは、読者としての私の一方的な感想に過ぎません。
「こういうことを感じる読者がいるから、そういう表現はするべきではない」という話では全くありません。
ただただ、「私はそういうの好きじゃないし、面白いと思わない」という、それだけの話です。
ただ、勿論そういう「好きじゃない」という声を挙げる権利というのもきちんと守られなくてはいけない、とも思います。
***
一点、それはどうなのかなあ、と思ったのは、冒頭、高橋先生が謝罪されているところです。
私はこの話を、ファンにとっての世界観の毀損、つまりは「面白さに対するダメージ」に帰する話だと思っているので、それで謝罪に追い込まれるのもおかしな話だなあ、と思います。
「つまらない漫画を描いた人は、つまらない漫画を描いたことについて謝罪しないといけないのか?」という話です。
そんなんあの人とかこの人とか謝罪しまくらないといかんやん、とか名前を出すと怒られまくりそうなのでやめておきますが。
まあ、「作者にとっての自由」も「読者にとっての自由」もどちらも認識され、同じように尊重されて欲しいなあ、と、そんな話だったわけです。
最後に言いたいことをまとめておきます。
・作品やキャラクターを通して政治・思想を語るのは作者の自由です
・一方、読者の側にも「つまらない」「世界観がバグってる」といった批判をする自由はあります
・個人的な好みとしては、政治や思想はその作品内にちゃんと合致した形で描かれた方が好きです
・銀英伝おもしろいよね
・田中芳樹作品で一番かわいいヒロインは「タイタニア」のリディア姫であって異論は受け付けない
以上になります。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:James Nash)