こんな記事を拝読しました。

どう考えてもマネージャなんて不要だからそれで上手くいくなんて期待しない方がいい

色んなマネージャがいる。何をやる仕事だろうか?役に立ってる?要らないだろ?って話をまとめたい。

別段批判という訳ではないんですが、思ったことを書きます。

 

私はシステム関係の仕事をしておりますので、この話を「一般的なシステム開発におけるマネージャーの仕事」の話として解釈してみます。

数人から十数人程度のメンバーが、それぞれ細分化されたタスクを割り振られて、当該タスクの達成を日々のミッションとして働いている現場と、その現場をまとめているマネージャーを想定しましょう。

で、そのマネージャーが不要かどうか、と考えます。

 

web上で「マネージャー不要論」というものを目にする機会はしばしばありますし、職場でそういう声が挙がることも時折あります。

時には、実際にそういう動きが持ち上がり、実験的に試行されることもあります。

 

が、大抵の場合、そういう動きは失敗します。

全体の進捗が悪化して、色んなところから不満が出て、「やっぱマネージャーいないとダメだね」という話になります。

大体そうなります。

 

何でかというと、「マネージャーが最低限の仕事をする限り、マネージャーなしでも成果が出せるのはある程度以上優秀な人に限られるから」です。

 

マネージャーの最低限の仕事って何よ?という疑問が浮かんでくると思いますので、まず念のためその話をします。

 

一口でマネージャーと言っても、そのミッションには色々あります。

チームの規模によっても、そのマネージャーの役職によっても変わってきますが、上で挙げたくらいの規模のシステム開発現場でのマネージャーの「最低限の仕事」というのは、大筋

・タスク割り、スケジュール作成

・進捗管理、スケジュール調整

・予算策定、コスト管理

・リソース調整、仕様調整

くらいをまず挙げるべきでしょう。

 

つまり、「君の仕事はこれだよね、いつまでに終わらせてね」とタスクを割り振って、都度都度「あれ、どこまで終わった?進捗どう?ニャオス?ふざけんな舐めてんのかおなかこわせ」と進捗の確認をしつつ、進捗に不調が出た時はその対策を検討して実施する。

 

そして、リソースの融通をしたり、残業時間とにらめっこしつつ、ユーザー部門から要件変更の要望があったら

「そういうことは半年前に言ってください。あ?無理?うるせえタイムマシンでも買ってこい」

と打ち返し、時には打ち返せずに持って帰ってきて泣きながら技術者に頭を下げ、モニターを威嚇しながらリソースの工面方法とタスクの再割振りを考える。

 

この辺りは、まあ大体「マネージャーというなら最低限これくらいはやってね」と言える仕事の内に入ると思います。

モチベーション管理やら、部下の育成やら、人事評価やらはこれらが出来た後の話です。

 

で、これらの中には確かに、「何ならマネージャーなしでも出来ないことはない」ものが結構含まれてはいるんですよ。

「誰が何をするか」なんて技術者同士が話し合って決めればいいし、タスクの細分化なんて作る人がそれぞれの粒度でやればいい。

スケジュールを作ることなんて誰にだって出来るし、スケジュール通りに進んでいる限り進捗管理なんて必要ない。

仕様調整だって最終的には技術者が可否判断をするんだから、間にマネージャーを噛ませる必要なんてどこにもない、直接やり取りすればいい。

 

なるほど、それぞれもっともな話です。

というか恐らく、冒頭記事を書いた方も、この辺のことなんて当たり前のように出来るから、そもそもマネージャーの仕事として触れもしていないのではないかと推察します。

 

ところがですね、いざ「じゃあマネージャーなしでやってみてね」と言われると、これ大抵の人が全然出来ないんですよ。

マジで7〜8割方の人は出来ない。

 

必要タスクの洗い出しは出来ても、その細分化が出来ない。

細分化したタスクに対して妥当な工数を見積もることが出来ないし、それに基づいてスケジュールを作成することが出来ない。

で、これらと格闘している内に実際の開発作業の効率がどんどん下がって進捗ダダ遅れ、遅れを取り戻そうにもリソース調整に手がつけられない、なんてことが起きまくる。

 

で、我々は気づくわけです。

「ああ、そもそも、マネージャー不要とか言い出せる人って相当優秀な人なんだな…」と。

 

勿論、こういう話に対して「どんだけレベルの低い職場で働いているんだ…?」と感じる人もいるのでしょう。

こういうことが当たり前のように出来る人しかいない職場が存在することも、そこに格差が存在することも事実なのだろうと思います。

 

ただ、少なくとも私自身は、「だからといって、そういう職場しか存在が許されない訳ではない」と考えます。

「そういう人しか仕事が出来ない、という訳ではない」と考えます。

 

以前、こんな記事を書きました。手前味噌で申し訳ないですが、ちょっと引用してみます。

今の時代、「ふわっとした仕事を具体的なタスクに落とし込むスキル」だけで十分食えると思う

ちゃんとゴールが明確になっていて、要件がはっきりしていて、マイルストーンがきちっと置かれていれば、ちゃんとそのタスクをこなすことが出来る人たち。

ただ、自分で要件を具体化して、タスクを詳細にして、マイルストーンを置いていくのは苦手な人たち。

これが日本特有の話なのかどうかまでは分からないんですが、色んな人と仕事をしたり、採用面接をしたりしていると、こういう「お膳立てがされている限り、処理能力は凄く高い」人材って結構いらっしゃるんですよ。

正直、同じタスクを同じ条件で遂行するのであれば、私なんかよりも全然処理速いだろうな、とても敵わないな、と思うことだってしばしばあります。

ただ、そういう人たちは、「具体的なタスクの落とし込み、詳細化が出来る人」がいないと実力を発揮し切れない。

つまり、「タスク切りやらゴールの明確化は苦手だけれど、きちんと処理能力をもってはいる人」というのはたくさんいるのであって、そういう人たちだって大事な人材だし、そういう人たちに能力を発揮してもらう為にお膳立てすることだって大事な仕事だろう、と。そういう話なのです。

 

勿論、世の中には「マネージャーなのになぜかマネジメントを全くしません」という不思議な人が存在することも事実ではあって、そういう人しか存在しない職場であればマネージャー不要論は低いレベルで成立するのかも知れないのですが、そうでない場合、実際のところマネージャーが必須な職場の方が世間には多いのではないかと思います。

 

これ、別にいわゆるマネージャーの仕事だけの話ではありません。

世の中には、「一見つまらないし、なんなら不要に見えるけれど、案外それがないと上手く回らない」というものは山ほどあります。

 

例えば、朝会だの夕会だのって面倒くさいし不要に見えるけれど、案外朝会がないと気分が切り替わらなくて仕事が手につかない人って存在します。

顔突き合わせての会議なんて不要だし、なんならリモートワークとChatworkだけでいいじゃんって思うけれど、案外「自宅勤務だと色々気が散っちゃって仕事にならない」という人って存在します。

エレベーターでの雑談だって、朝一の挨拶だって、それぞれ「一見すると無意味なようだけど、実はそれなりに意味がある」というものばかりです。

 

理想を言えば、必要な人、必要な時、ケースバイケースで取捨選択を出来るのが一番なのかも知れないですが、そういう体制を作るのは容易ではありません。

であれば、「〇〇不要」ということを唱える際には、我々はそれなりに慎重になるべきなのかも知れません。

 

最後に言いたいことをまとめておきますと、

・マネージャー不要を唱える人は多いけれど、マネージャーなしで成果を出せる人というのはそれなりに優秀な人に限られる

・だからといって、マネージャーの仕事や、マネージャーなしには上手く成果が出せない人に価値がないということにはならない

・「〇〇不要」ということでいざ取っ払ってみると上手くいかない、ということはしばしばある

・ただ、進捗管理やタスク調整すらしないマネージャーというのも世の中には存在して、そういう不思議ポジションは不要といってもいいかも知れない

というような感じになるわけです。よろしくお願いします。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:Sgt. Pepper57