このところ、「好きなことを仕事にしよう」という声が日に日に大きくなってきている。

いや、もはやそんなおだやかな主張ではない。

 

「好きなことを仕事にしないと幸せになれない」

「好きなことを仕事にしないかぎり人生が充実しない」

かのように言われはじめている。

 

「好きなことを仕事に」が豊かになるための絶対条件なのであれば、それはもう「呪い」だ。

そうじゃなければ幸せになれない、ということなのだから。

 

そりゃたしかに、好きなことを仕事にしたほうがいいだろう。

でもわたしは、「好きなこと仕事に」しなくとも、割り切って「好きなことのために仕事を」するのも、おおいにアリだと思っている。

 

「好きなことを仕事に」は豊かになる絶対条件である、という主張

先日アップされた安達さんの記事も、「好きなことを仕事に」がテーマだった。

最近では、「好きなことをする」「いや、仕事はそういうものではない」は議論の対象ですらない。

高度に専門化された社会では、好きなことをして、特定の分野を極めないと、豊かになれないのである。

……

「好きを仕事にしないと豊かになれない」世界は、「主体的に動く人だけが豊かになれる」という、残酷な世界だ。

出典:『いつの間にか「好きなことをしていい」時代から、「好きなことをしないと豊かになれない」時代に変わった。』

「豊かになるためには好きなことを仕事にすることが必須である」というこの主張は、多くの人に読まれ、そして同意を得ていた。

 

しかしわたしが気になったのは、この記事の結びだ。

ただ、このような生き方に適合できない方もたくさんいるだろう。

結果として、「自由を謳歌できた人々」は、そのような方に手を差し伸べる義務を負うと私は考える。

「好きなことを仕事にした特権階級」による「それ以外の人たちへの手助け」というノーブレスオブリージュ的な考えは、ちょっと衝撃的だった。

 

「好きなことを仕事にできなかった人=手を差し伸べられるべき人」という考えが、わたしにはまったくなかったからだ。

 

「好きなことを仕事に」せず、人生を謳歌する人々

学生時代、同じ居酒屋でフリーターとして働いていたAの話をしよう。

 

Aは金髪に近い髪色でつけまつげをバッチリつけたギャルで、気は強いが面倒見もいい人だった。

その人はブライダル系の専門学校を出て一度結婚式場に就職したというから、「好きなことを仕事に」した人だ。

 

それなのになぜ、Aは「好きなこと」を辞め、フリーターとして居酒屋で働いていたのか?

 

答えはかんたん、彼女がHey!Say!JUMPの熱心なファンだからだ。

イベントがあれば、いついかなるときも、それこそチケットを持っていようが持っていまいが駆けつける。

夜行バスでの遠征もめずらしくない。

 

そんな彼女にとって、シフト制のフリーター、そして深夜も働ける居酒屋は、時間的融通がきくうえ結構実入りのいい魅力的な働き方・仕事なのだ(居酒屋は夜メインなので、お金が足りなければ日中日雇いで働ける)。

 

一方で、びっくりするほどの給料をもらっている、大手企業勤務のBもいる。

バンドマンだったBは、「好き」を活かせる有名楽器店に勤めるも、薄給を理由に現職場へ転職。

 

仕事自体にはたいして魅力を感じていないが、「仕事はカネのため」と割り切っているから、「給料がいい=いい仕事」という認識らしい。だからいまの仕事に不満はないそうだ。

 

ああ、そういえば、なにがなんでも定時で帰りたい友人Cもいる。

Cは、給料が低くとも、上司がちょっと嫌なヤツでも、面倒な仕事が舞い込んでも、定時で帰れればそれでオーケー。

 

彼女は筋金入りのゲーマーで、1秒でも早くPS4のスイッチを入れたいらしい。だから、定時退社が最重要。

「これ終わればゲームできるって思うと、多少のイヤなことはスルーできる」とのこと。でも別に、ゲーマーとして生計を立てる気はないのだそうだ。

 

「好きなことを仕事に」ではなく、「好きなことのために仕事を」

こういう人たちは、「好きなことを仕事に」してはいない。

「好きなことのために仕事を」している人たちだ。

 

Aにとって大事なのは「Hey!Say!JUMPを追っかけられる働き方」だし、Bにとって大事なのは「給料」だし、Cにとって大事なのは「定時退社」。

 

仕事に期待するのは、自分のやりたいことができるかでも、仕事を通じて成長できるかどうかでもなく、自分の楽しみを邪魔しない待遇や環境かどうか。それだけ。

 

わたしのまわりにはこういう「好きなことのために仕事を」タイプのほうが多いくらいだから、「好きなことを仕事にできた人はそうじゃない人を助けてあげよう」という主張に、ちょっとびっくりしたのだ。

 

「手助けなんて求めていない人もいっぱいいるんじゃないか?」と。

 

もちろん、好きなことを仕事に「できなかった」人と「しなかった」人のあいだには、大きなちがいがあることは承知している。

ただ、「好きなことを仕事にしたか否か」が「人生の豊かさ」に必ずしも直結するわけじゃない、ということをお伝えしたいのだ。

 

「好き」を仕事内容に限定する必要はない

「好きなことを仕事に」は、たしかに素晴らしい考えだと思う。

わたし自身、「文章を書く」という、好きで好きでしょうがないことを仕事にしているから、よくわかる。

 

嫌いなことをするより好きなことをしたほうが人間がんばれるし、楽しいし、やりがいがある。

これからの時代、そういった姿勢がよりいっそう大事になってくるというのも、まちがいないだろう。

 

でも、「なにを優先するか」は人それぞれだ。

 

好きなことを仕事にすることで自己実現を目指す人もいれば、融通が効く労働時間、高い給料、定時帰宅が、仕事内容より大事な人だっている。

自分にとって「好きな仕事」より「定時退社」が大事なのであれば、それもおおいに結構。なんの問題もない。

 

実際、AもBもCも、「好きなことを仕事に」はしていないけれど、「好きなことのために仕事をする」ことで人生を楽しんでいる。

 

もちろん、職場や仕事内容に「好き」がなにひとつとして見出せず、出勤するたびに胃痛を訴えるような状況であれば、考えなおしたほうがいい。

でも、「好きなことを仕事にしているか否か」は、かならずしも「人生が豊かになるか否か」と同義ではないはずだ。

 

人生の豊かさは仕事内容だけで決まるものではないし、好きなことを仕事にせずとも、好きなことのために仕事をして人生を豊かにすることは可能なのだから。

 

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(2024/4/21更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

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(Photo:bruce mars)