新型コロナウイルスの感染予防のため、現在はリモートワークが推奨されています。

 

テレビで、スマートフォン1台あれば、仕事はできる」と言っている人も見ました。

病院で働いている僕としては、少なくとも現時点ではリモートワークは難しく(入院中の患者さんもいますし、人間を診ないとはじまらない仕事なので)、「ちょっとうらやましいなあ」なんて思いつつ、自分が感染する不安にも苛まれながら働き、生活しているのです。

 

こういう事態になってみると、やっぱり医療というのはリスクが高い仕事ではあるなあ、と思うんですよ。

それも含めての報酬だと理解しているつもりでも、医療従事者の子どもが保育園で預かってもらえない、なんてニュースをみると、「ならお前らがコロナに罹っても診ないからなボケ!」くらいのことは、心の中で毒づいてしまうのです。

いやほんと、拍手とかしなくていいから、ボーナスとかくれないかなあ。

贅沢は言わないから、せめて、差別はしないでほしい。

 

新型コロナウイルスに対して厳戒態勢が敷かれ、感染予防を徹底するにあたって、僕のような末端の医者の仕事にも、さまざまな変化がみられるようになってはいるのです。

外来の患者さんで、状態が落ち着いている高齢者に対しては、電話でのやりとりだけで薬を出せるようになったり、これまでより長期の処方が推奨されているのです。

 

これまでは、「対面診療」が大前提で

「患者を診ずに薬だけ出すなんてとんでもない。それでは人間の医者が診る意味がない」

というのが医療側のスタンスだったのですが、新型コロナウイルスの蔓延と医療崩壊の危機(というか、もうすでに部分的に崩壊している)という非常事態にあたって、これまでわれわれが堅持してきた「診療」というものが、大きな方向転換を余儀なくされたのです。

 

こういう状況だから、仕方がない。

病院に来ることによる感染のリスクを避けることのほうが今は大事。

それはもう、「正論」なんですよ、間違いなく。

 

 

でも、僕は「コロナ後」の医療について、考えずにはいられないところもあるのです。

 

病院を受診するのが大変な高齢者や、忙しくて来院回数を減らしたい人はたくさんいます。

そういう人たちが、この「緊急事態下」で、電話診療で来院せずに薬を出してもらったり、長期処方をしてもらったりすることで、「とくにこれまでと体調は変わらない」ということになったら、これまでの「対面診療」という大前提は、揺らいでしまうのではなかろうか。

 

ほとんどの人はめんどくさいことが嫌いだし、偉そうな人にあれこれ詮索されたくない、わかりきった注意を毎回されたくないはず。

中には、「病院大好き!」という、世間話と不安の訴えをひたすら続ける高齢者もいるんですけどね。

 

もし、コロナがある程度収束したとして

「じゃあ、またこれからはちゃんと毎月病院に来てくださいね」

と言うことができるのか?

自分で来ることができる人はともかく、家族に連れてきてもらわなければならない高齢者は

「これからも電話受診+長期処方ではダメなの?」

と思いますよね、きっと。

 

世の中って、一度「便利」「ラク」「安上り」のほうに舵を切ってしまうと、なかなか後戻りはできない気がするんですよ。

これは、医療だけではなくて。

 

歓送迎会や学校行事が中止されて、内心

「ああいうのは、無くても別に良かったのではないか」

と感じている人は少なくないはずです。僕も正直、そうです。

 

まずは状況が落ち着いて、子どもたちがちゃんと学校に通えるようになってほしい、と願っているのだけれど、学校が始まったあと、会社が通常営業になったあと、完全に「元通りになる」とは思えないのです。

 

リモートワークでも成果が変わらない、ということであれば、それを継続したいと希望する人も出てくるでしょうし

「またコロナの流行が再燃してくるかもしれないから……」

と誰かが言えば、それでも全員参加前提の歓送迎会をやることは難しい。

 

他人と一緒にマスクをせずに食事をすることや、バイキング形式の食べ放題の店に行くことに抵抗を感じ続ける人も多いはずです。

平時だって「感染のリスクを少しでも減らすためには、マスクをしたり、人との接触を避けたほうが良い」のは事実なのだから。

 

 

今は、まず、生き延びることが最優先なのですが、あらためて考えてみれば、今じゃなくても、多くの人は「生き延びるのが最優先」なんですよね。

一度、こういう「コロナ禍による、人との接触を避ける生活」を体験することによって、「人と触れ合うことの喜び」を再認識する人が大勢いる一方で、「人と触れ合わないことのメリット」を感じる人も少なからずいると思います。

もしかしたら、新型コロナウイルスの蔓延がおさまっても、「長い自粛の時代」が続くのではなかろうか。

 

そして、医療の世界での「対面診療」という大前提が揺らいでいくように、これまでの「社会規範」や「他人に対する礼儀」も変わっていくのではないかと僕は予想しているのです。

 

最近、テレビの収録や地方営業の仕事がなくなってしまった芸能人たちが、YouTubeで動画を配信しているのをたくさん見かけるのですが、無料での動画配信というのも、一度はじめてしまったら、「じゃあ、コロナが落ち着いたから、もう止めるね」と言うのは、そのコンテンツが好評であればあるほど、難しくなりそうですよね。

 

受け手としては、無料で毎日のように手軽に観られるほうに魅力を感じるだろうし、広告をつけて収益化し、YouTubeメインになっていく芸能人も出てくるのではなかろうか。

今回のコロナ禍で、テレビとネットの勢力図は、大きく塗り替わる可能性もあります。

 

感染症というのは、これまでも人類の歴史を大きく変えてきたのです。

ペストの流行に対して、教会があまりにも無力だった(と当時の人々が感じた)ことが、既存の教会への信仰心を薄れさせ、宗教改革のひとつのきっかけになった、という説があるそうですし、第一次世界大戦を終わらせたのは、軍事的な優勢よりも「スペイン風邪」に斃れた人があまりにも多かったことだと言われています。

 

「感染予防のために、致し方なくやっていた」はずのことが、実際にやってみたらメリットが大きくて、あるいは、元に戻すのが不安で、その後のスタンダードになっていく。

 

新型コロナウイルスは、命を奪うだけではなく、人類の規範や価値観を、大きく変異させていくのかもしれません。

とりあえずは、なんとか生き延びて、その「アップデートされた世界」を見届けたいと僕は思っています。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

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