「雪山なめると痛い目逢うぞ!」
そう言われたわたしは、「なめてないしバカにしないでよ」と思ってちょっとムッとした。
人間が自然に敵わないなんて、「知ってる」に決まってるじゃないか。
でも結果的に、わたしは雪山の恐ろしさをほんの少しも「理解」していなかったと悟ることになる。
無知を笑う者は無知に泣く。
だからわたしはコロナに関しても、「こいつはなんにもわかってねーな」とは言わないようにしている。できるだけ。
パトロール隊に「雪山なめると痛い目逢うぞ!」と言われた日
大学2年生。キャンパスライフを謳歌するわたしは、サークルメンバーといっしょに男女12人くらいで長野にスノボをしに行った。
久しぶりのゲレンデ、サークル合宿、新調したかわいいウェア。
始発電車で新宿のバスターミナルに向かったにもかかわらず、雪玉を投げ合って遊ぶくらいにははしゃいでいた。
その後、16時ごろだろうか。
リフトの営業時間終了が近き、「そろそろホテルに戻る?」という話になった。
いや、でもまだまだ滑り足りない。
「最後にもう1回だけ」と言い出した先輩の発言にすぐさま乗っかり、先輩と同級生の女子とともに、3人でもう一度だけ滑りに行くことに。
しかしいっしょにいた女友だちはその日スノボをはじめたばかりで、3メートル滑っては転んで尻餅……という腕前。
その子のペースに合わせると、降りるのに思ったより時間がかかってしまう。
かといって時間も時間だから、置いていくこともできない。
「ちょっと遅くなるかもね。でもまぁ大丈夫っしょ」なんて話しているとき、上から猛スピードで滑り降りてくる3人のスキーヤーが目に入った。
3人はわたしたちの目の前で激しい雪しぶきをあげながら急ブレーキをかけ、いきなり言い放つ。
「天気が崩れそうなので急いで降ります、ついてきて!」と。
腕に腕章のようなものがあるし、無線っぽいものもぶらさげているから、パトロール隊の人なんだろう。
とはいえ営業時間内のリフトに乗ったんだし、ゆっくりでもちゃんと滑ってるんだから、そんな荒っぽく言わなくたっていいじゃないか。
天気だってとくに変わった様子はないし、ここは初心者コースだし。
そこで「あ、はい。ちゃんと降りるんで大丈夫です〜」と答えたら、パトロール隊のひとりに言われたのだ。
「雪山なめると痛い目逢うぞ!」と。
不満を持ちつつもパトロール隊と急いで雪山を降りることに
自然をなめていたつもりなんて、わたしには微塵もなかった。
常識的な「自然に対する知識」を持ち合わせていると信じていたし、自分がそこまで能天気だとも思っていない。
だからパトロールの方のセリフを聞いたとき、
「自然をなめるような人といっしょにしないでよ、時間だって気にしてるし、ちゃんとわかってるから」
とムッとしたのだ。
とはいえさすがに反論する気はなかったので、その忠告に大人しく従ったけれど。
というわけで、同じように声をかけられたであろうカップルのスキー客とも合流し、わたしたち3人+2人は、ふだんのスキーコースとは別の方向に誘導された。
そこは深い雪をくり抜いた細い脇道で、最短で下まで降りられるようになっているようだ。
ただ、なだらかで広々としている整備された初心者コースとはまったくちがうので、いっしょにいた女友だちが滑れるようなコースではない。
しかたなく、その子はずっとお尻を雪につけたままズルズルと滑り降りていた。
というか、転がりながら山を降りた。
スノボ初心者の女の子がずっとお尻をつけて雪道を転がり続けてるのに、先を急いでどんどん行ってしまうパトロール隊。
内心「かわいそうじゃん。まだゲレンデが閉まる音楽鳴ってないし、そこまで急がなくても」なんて思っていた。
(ちなみに一番ヘタだと思われるカップルの女性はパトロール隊に抱えられ2人乗りスノボ?で降り、彼女のスノボはもうひとりのパトロール隊の方が背負っていた)
「知っている」と「理解している」は全然ちがう
そのわずか数分後。
唐突に、視界が暗くなってきた。
明るさがいきなりぐんと減り、びっくりするような速度で日が暮れていく。
リフトを降りたときは雪に日光が反射して目がチカチカするほどだったのに、視界全体が灰色になって、無数の木々がザワザワと揺れる不気味な音だけが聞こえるようになった。
どうやら風もでてきたみたいだ。頰がヒリヒリする。
「山の天気は変わりやすい」なんて常識だ。みんな知ってる。
でも実際自分が雪山のなかでそれを目にすると、「なんて怖いんだ」と背筋が凍った。
「そんなひどい言い方しなくても」「もっとゆっくり降りてくれてもいいじゃん」
そんな気持ちは吹っ飛び、「一刻も早くホテルに戻らないと」ということで頭がいっぱいになった。
きっとほかの人たちも同じだったのだろう。
山を降りきるまで誰一人として口を開かなかったのがその証拠だ。
無事に山を降りたあと、
「すみません、時間に余裕をもって切り上げるべきでした」
と頭を下げると、パトロール隊の人はゴーグルを外して、
「いえいえ、なにもなくてよかったです」
とにっこり笑ってくれた。
重ねていうけれど、わたしは雪山をなめていたつもりはない。
きっちり防寒して、スマホを持って、コース内を滑っていたふつうのスキー場利用者だ。
危険なことをするつもりも、したつもりもない。
でも自然の恐怖を「知って」はいても、ちゃんと「理解」はできていなかった。
「自分はマトモだから大丈夫」という慢心が、「ちゃんと危機感をもっている」という過信が、心のどこかにあったのだろう。
自分がつねに正しい情報をもとに正しい判断ができるわけじゃない
新型コロナウイルスに関しても同じだ。
「熱っぽい」と言った女性に「勘弁してほしい」という感想を抱き、その後コロナに感染したタレント。
発熱をはじめ風邪の症状がありつつもNYから日本に帰国、飛行機内でインスタライブをして叩かれた女性。
4月頭、厳しいロックダウンが実施されたマレーシアから日本に帰国することを発表、批判、心配をするコメントを削除して炎上したYouTuber。
山で滑落、その後コロナの疑いがあるとのことで、彼の救助にあたった山岳遭難救助隊員を自宅待機にせざるをえなくしてしまった男性。
このパンデミックに対する個々人の警戒度、認識は大きくちがう。
きっとあなたも、「のんき」な人たちの言動で眉を顰めたことがあるだろう。
「非常識だ」「まわりの迷惑を考えろ」と腹を立て、攻撃的なコメントをしたことがあるかもしれない。
でも、自分がつねに正しい情報をもとに正しい判断ができるわけじゃないんだ。
2月くらいはまだ、「2週間でピークをすぎる」「風邪と変わらない」という説を唱えていた専門家だっていたじゃないか。
それを信じた人は「バカ」なんだろうか?
毎日満員電車で通勤している人が、「どうせ毎日通勤してるんだから変わらんだろ」と飲み会に行って感染したら、「非常識」なんだろうか?
感染者のなかには、単純にニュースやSNSに興味がなく、「なんかやばいウイルスが流行っているらしい」程度の情報しかもっていない人だっているかもしれない。
そういう人を「なんで調べないんだ」と批判したら、それで解決するのか?
そうじゃないでしょう?
だって自分が、「そっち側」になることだってあるんだから。
「気をつけるし大丈夫でしょ」という過信は他人事ではない
ステイホームで退屈だからと、ゲームを買いに行ったり本を買いに行ったりしなかったか?
たまにならいいだろうと、ピザのデリバリーを頼んだりしなかったか?
恋人に会いたいからと、電車に乗って移動しなかったか?
もしそこで感染して感染経路が報道されたら、
「こんなときにゲームをわざわざ買いに行くなんて」
「ピザなんて冷凍でいいのになんでデリバリーを」
「みんな自粛してるんだから少しくらい会うのを我慢できなかったのか」
なんてひどいバッシングにあうかもしれない。
自分はそういう「軽率」な行動を絶対にしていない、しないといえるのか? 本当に?
コロナは感染症だから、ひとりの軽率な行動が取り返しのつかない結果につながることもある。
だから他人の言動がより一層気になるし、感染リスクが高い行動をする人を許せないと思うのもわかる。
でも、だれもがみんな正しい情報をキャッチして、それをもとに正しい判断ができるとはかぎらない。
次に判断を誤るのは、自分かもしれない。
あまりにも楽観的なのは「おいおい大丈夫かよ」と思うし、故意に感染を広めるのはアウトだが、情報不足やまわりの影響で判断を誤った人を責めるのは、いつかの自分の首をしめることにもなる。
自分がつねに、正しい判断ができる情報強者だとはかぎらないんだから。
だからわたしは、「こいつらは自分とはちがうバカだからやらかした」だなんて思わないようにしたい。
そして、「どうやったら多くの人に正しい情報が届き、正しい判断ができるようになるのか」という方向で話し合えるといいなーと思っている。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
Photo by Rachael Ren on Unsplash