私はブログを書くのが好きで、好きが嵩じて本も書くようになったのですが、つい先日、私のブログ『シロクマの屑籠』が15周年を迎えました。
15年前の2005年にはYouTubeもニコニコ動画もなく、ツイッターやインスタグラムもありませんでした。
はてなダイアリー(現はてなブログ)とはてなブックマーク、2ちゃんねる周辺で生存競争を繰り広げていたのが私のルーツです。
時代は変わって2020年。
ブログを書いている人は昔ほど多くありません。
かわりに動画配信やインスタグラム、ツイッターで頑張る人が増えました。
飲食店や企業もアカウントを作ってセルフブランディングするようになりましたね。
ネット上にアウトプットできる情報メディアが増え、アウトプットする人も増えましたが、うまいこと・長くアカウントを運営できる人はそう多くありません。
企業アカウントですら、ときには継続不能に陥ってしまうことがあります。
そこで今回は、15年間サバイブし続けたブロガーとして、長く活動するために気を付けていることをお話してみます。
個人のアカウントを前提として書きましたが、いくらかは企業や飲食店のアカウントでも参考になると思います。
よろしければ読んでみてやってください。
アンチ対策をどうするか
まず、アンチ対策について(書いて構わない範囲のことを)書いてみます。
長くインターネット上で活動し続ける人にとって、アンチは避けて通れない問題です。
「アンチといえば有名人につくもの」と思うかもしれませんが、さほど有名でないアカウントにもしばしばアンチはつきますし、敵味方のはっきりした論争に巻き込まれた場合、高い確率でアンチがついてきます。
では、そのアンチにどう対策するのか。
「アンチがつかないよう表現を心がける」──これはある程度有効ですが、ある程度までしか有効ではありません。
あなたに表現したいことがある限り、必ずアンチがつきます。
そのうえアンチに気を配りすぎていると表現が委縮し、言いたいことが言えなくなってしまいます。
もちろん無駄な論争は避けるべきですが、どうしても主張したいことまで言えなくなってしまったら本末転倒です。
「アンチは無視する」──これもある程度有効で、ストレスを回避する手段としても優れています。
ただ、完全に無視していいのかは難しい問題です。
無視を徹底することによって情報が遮断され、自分の視野が狭くなってしまい、唯我独尊に陥ってしまう可能性もあります。
アンチは、ある程度までは遮断して構わないとは思いますし、アンチとバトルするべきとも思えませんが、誰を・どこまで・いつまで無視していいのかはかなりデリケートな問題だと思います。
大筋としては無視で構わないとは思いますが、無視に固執することで失われるものもまたある、という問題意識は持っておいたほうがいいと思います。
「アンチはブロックする」──これも優れた方法ですが、万能とは言えません。
世の中にはブロックされると「ブロックされたというリアクションがあったことを喜ぶ」アンチもいますし、そういう人はブロックされるとすぐ新しいアカウントを用意します。
じゃあ非表示(ミュート)がいいのか? 非表示にもいい面と悪い面があります。
非表示にしたってアンチの側からはあなたのアカウントが常時閲覧できてしまうわけですから。
では、どうすればいいのでしょうか。
「アンチへの対策は固定しない」──これではないでしょうか。
アンチがつきにくい表現を心がけるせによ、ブロックにせよミュートにせよ、アンチへの対策は不定にしたほうがいい、というのが私の考えです。
不定にする=決めない、ということではありません。
たとえば2011年頃の私のアンチ対策指針はブロック重視でしたが、2017年頃の私のアンチ対策指針はミュート重視でした。
アンチがつきにくい表現への心がけは、2020年はほとんどノーガードでした。
「アンチがつくことをおそれず、自己主張したいことを言い切ってみせる」が2020年の私の指針だったからです。
でも、この指針もじきに変更するでしょう。
不定にしたほうがいいと思うからです。
これ以上具体的なことはオンライン上に書けませんが、とにかく、アンチという問題に対して通り一辺倒な指針や対策で挑むのは巧くない、と私は言っておきたいです。
繰り返しますが、「不定にすることと、対策しない・決めないことはイコールではない」点にご留意ください。
情報を取りにいかないと必ず枯れる
15年もアウトプットしているうちに、私はだんだん情報に鈍感なブロガーになってしまいました。
少なくとも若い頃のように、「放っておいても界隈で何が流行っているのかわかる」「自分が好きなものと流行しているものが一致する」なんて都合の良い状況は終わってしまいました。
今ではアラサーの間で流行っているものすら遠く感じられます。
それでも何とか続けていられるのは、情報源を開拓し続けているからだと思います。
情報源というより、情報を持っている人、というべきでしょうか。
私はSNSでフォローするだけでは足りない気がするので、ときどきオフ会に出かけて、新しい人、新しいコミュニケーション網を開拓するようにしています。
私の場合、情報源が枯れてくるとネットがだんだん息苦しく感じられるようになるので本能的に情報源を探し求めていますが、そうでない人は、意識的にやっておかないと枯れるんじゃないでしょうか。
情報源のひとつに、読書、という手段があります。
もちろん読書はいいものです。SNSでは得られない情報を、まとまった形でインプットできますから。
ただ、独りで読書して得られるものと、誰かとコミュニケーションしながら読書して得られるものは質的に違っていて、たぶん後者はアウトプットする者にとって固有の価値があると思います。
たとえば『ファクトフルネス』が流行っている時に親しい人と感想を述べあいながら読むのと、独りきりで読むのでは、得られるものが違うと思うのです。
年齢や性別が違う人と同じ本を読むのもいいですね。
「この人はこんな風に『ファクトフルネス』を読むのか!」ということ自体が情報であり、刺激です。
なかには、スタンドアロンな読書や文献検索だけでもアウトプットできる、という人もいらっしゃるでしょう。
でも私のインターネットの観測範囲にはそういう人はあまりいません。
それができる人は、インターネット界には出てこないのだと思います。
いろんな人と付き合うために注意すること
情報を持っている人と付き合っていく以上、コミュニケーションには注意を払う必要があります。
世話になった人に感謝を伝えること。
ご縁のあった人にご縁があったことを嬉しいと伝えること。
謝意や喜びは言葉にしなければ伝わりません。
コミュニケーションの成功確率を高め、長くお付き合いするためにも、恥ずかしがらずに謝意や喜びは表現しましょう。
また、ネットコミュニケーションのマナーや礼儀はできるだけ身に付けるようにしましょう。
三十代の頃の私は、このネットコミュニケーションのマナーや礼儀がなっていなくて、随分と損をして、遠回りをしてしまいました。
いろいろな人に良くない印象を与えてしまったと反省しています。
編集者やライターの方々にも本当にご迷惑をおかけしました。
四十代になってそれらを悔やむようになり、今に至っています。
新しいご縁を掴むためにも、人の悪口はむやみに言わないほうがいいと思います。
悪口を言われる当人が見聞きしていなくても、その当人を慕っている誰かが見聞きして、嫌な気持ちになって、「あの人には近づかないでおこう……」と思っているかもしれません。
余計なところで敵を増やすのは得策ではありません。
また、自分の主張と対立することを言っている人の悪口もなるべくよしておきましょう。
立場としては敵同士でも敬意を払いあえる相手は存在しますし、そういうフェアネスをきちんと見てくれている人はいます。
「対立する意見の持ち主だから悪口を言って良い」と考えるのは、短絡です。
なお、悪口には人間同士の仲間意識を強めるという効果もあるので、誰かに急接近するためのショートカットとして、リスクやデメリットを承知のうえで悪口を使う手段はあり得ます。
その有効性は否定しません。
ただし、そうやって戦略的に悪口を活用する場合も、その場にいない誰かを敵に回すかもしれない可能性や、誰かを敵に回した時に自分が失うものが何なのかを自覚しながら、最小限の範囲でやるべきだと思います。
そうしたことを自覚・計算できない人が悪口をショートカットとして用いるのは推奨できません。
自分自身のメンタル対策
これが一番難しいのではないでしょうか。
インターネット上で長く活動するのはゴールのないマラソンみたいなもので、気が遠くなったり、何のために続けているのかわからなくなったりすることがあるように思います。
というか、多くの場合、長く続けられません。
家の都合や家族の都合で頓挫する人もあれば、ネタの枯渇、情報源の枯渇、モチベーションの減退、精神的疲労などによって多くの人が脱落していきます。
で、どうすれば良いのか。
個人の場合、やめてしまえばいいのだと思います。
特に、そのアカウントに愛着が無かったり、不人気だったりするなら消して困ることはあまりありません。
商業化してしまったアカウントや企業アカウント、未練の残るアカウントはそうもいかないでしょうけど。
また、発信するメディアを変えることでモチベーションを取り戻す、という方法もあります。
ベテランの人はご存じかと思いますが、アウトプットするメディアを変えると意識が変わり、表現すら変わります。
だから発信するメディアを変えるのはモチベーション回復の手段としてはかなり有用で、実際、そうやって場所を変えながら活動してらっしゃる人も多いですね。
ただ、発信する舞台を変えると今までのフォロワーさんがついてきてくれないかもしれず、新しいメディアではまったく歯が立たたないことだってあります。
新しいメディアに希望を見出し、だけど半年もたたないうちに意気消沈してしまった人もしばしば見かけました。
こうしたリスクを避けるためにも、発信するメディアを常時複数ライン持っておくのは良い戦略だと思います。
いまどきの若い方なら、きっとそうしていると思いますが。
モチベーションの問題に加えて、ストレスの問題もあります。
長くインターネットで活動していると、ストレスが溜まることもあります。
とりわけ、コメント欄をチェックしなければならないメディアで活動している場合、不特定多数のコメントを相手取っての活動は簡単ではありません。
コメント欄をチェックする程度と頻度は、よく考えて決めるべきだと思います。
さきほど述べた「アンチ対策は固定化すべきではない」と同じで、たったひとつの対策に身を任せるのでなく、ある程度の流動性や不規則性を含ませておくのが望ましいでしょう。
理想を言うと、アウトプットする人間とコメント欄をチェックする人間を別々にして、チェックする人間が上澄みをアウトプットする人間に届ける仕組みがいいのですが。
PV数や登録者数の急激な増加も、それ自体がストレスやプレッシャーになり得ます。
PVや登録者数が増えるのは喜ばしいことでしょうけど、メンタルにプラスの影響ばかりだとみなすのは危険です。
称賛ですら、束になればストレスやプレッシャーになり得るのです。
また、称賛が急増する時期には新手の批判や非難、無理解もどっと流れ込んでくるのでそういう意味でもストレスがかかりやすい時期になります。
それから、うぬぼれの問題について。
立派な人の振る舞いを指す言葉として「実るほど頭を垂れる稲穂かな」というものがありますが、右肩上がりの時期にもうぬぼれず、謙虚な姿勢を維持できる人はとても器が大きい、立派な人だと思います。たとえばヒカキンは、そういう意味でもトップスターの名にふさわしい人物ではないでしょうか。
しかしたいていの場合、うぬぼれや増長と無縁でいるのは難しく、ときに、言動がずさんになったり他人を見下すようなことを言ってしまったりすることがあり得ます。
メンタル対策というと、ストレスのことを第一に心配する人が多いかもしれませんが、私は、このうぬぼれ問題のほうが危険だと思っています。
これにやられて心あるファンが離れていってしまったアカウント、せっかくチャンスに手が届きそうになったのにチャンスを逃してしまったアカウントを私は何度も見てきました。
うぬぼれているから本人にはそれが自覚できず、大人の世界ではそのことを忠告してくれる人もいません。
だって忠告しても嫌われるばかりで良いことなんてありませんからね。
ストレス対策は色々やりようがあって、たとえば一か月ほど活動休止する・更新頻度を半分にするなどでもだいぶ変わります。
しかしうぬぼれや増長への対策は簡単ではなく、自覚も難しい。
ために、長い目でみればこちらのほうが危険だと個人的に思う次第です。
おわりに
以上、長くネットで活動していきたい人に注意していただきたいことを紹介してみました。
「現代社会は誰でも15分間は注目を集められる時代だ」などと言われることがありますが、15分注目を集める方法と、15日間注目を集める方法と、15年間注目を集める方法は違っています。
短い期間注目されればそれで良いという人は、悪口やうぬぼれやアンチ対策のことを考えなくてもいいかもしれません。
ですが、夏の打ち上げ花火みたいに終わってしまいたくない人は、相応に注意深くアカウントを運営していきましょう。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』
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