組織におけるクレーム対処の話をします。

 

先日、Books&Appsさんで、雨宮紫苑さんがこんな記事を書かれていました。

ドイツでは労働者が偉いので、客は「労働者様に働いていただく」立場です。

 

書いてある内容については全体的に首肯するところなんですが、読んでいる内に自分自身が客商売のバイトをしていた時のことも思い出しまして、ちょっとそれについて書きたくなりました。

 

苦学生という程のことでもないんですが、学生時代はとにかくお金がありませんで、四苦八苦しながら色んなバイトをしていました。

出版社でのゴーストライターもどきの仕事、塾講師や家庭教師のアルバイトから、某有名ドラッグストアでのバイト、家電量販店でのバイト、書店でのバイト、変わったところでは美容師さんのカットモデルのバイトなんかにも手を出していたことがあります。

 

なんか美容師さんのコンテストだか大会みたいなものがあって、そこに出場する美容師さんのモデルになって、見事なリーゼントヘアにしていただいたこともあります。

私よく知らないんですが、大会の種目にまでなるってことは、リーゼントヘアって作るの難しいんですよね?

 

「いわゆる「昭和の不良」というものを一般人が想像した時、一番最初に思い浮かぶような髪型」に自分がなる経験とか、なかなか人生でも希少な機会でして、得難い実績解除だったと思います。

前髪の上に封筒が乗った経験もあれ以来ありません。

 

で、まあ、色んなバイトをやっていた関係上、客商売にも結構手を出していたわけで、割とクレーム対処というか、お怒りになっているお客さんの対応をすることも結構多かったんですよ。

建前としては「クレームを言われたらすぐ社員を呼んで交代しろ」ってことになってたんですが、実際問題社員の人がすぐ来てくれるような状況であることの方が希少であって、その間ずっとヒートアップし続けるお客さんどうすんだよって話なんですよね。

 

基本、クレームを一番言われやすいのは若い女性の店員さんで、その次くらいに私、って感じでした。

まあ、若いしそんな大柄でもないし、言いやすかったんでしょうね。

 

もちろん一言でクレームと言っても、言われる内容は様々でして、これはまあ文句を言いたくなるのも分かるわと思うこともあれば、こりゃ理不尽だなーとかちょっと悪質だなーと思うこともありました。

内容の如何に関わらず、相手に対する人格否定や明らかな罵倒を含むクレームは、私は即理不尽・悪質認定をしちゃってたんですが、それについてもあまり定量化出来るような話ではありません。

 

ちょっと扱いもファールラインも難しい言葉なんですが、ここでは「罵倒や人格否定を含む、理不尽なクレームを執拗に言ってくる人」のことを指してクレーマーと呼びたいと思います。

 

で、結構色んなバイトをする中で、「理不尽なことを言ってくる悪質なクレーマー」には割と共通した特性があるような気がしまして、もしかするとある程度一般化出来るかも知れないと思ったんです。

私が考える「悪質なクレーマーの共通した特性」は、一言で言うと

 

「統一された対応基準がない、という部分をかぎつけるのがめっちゃ上手い」

ということです。

 

どんな話かというとですね。

 

例えば昔、私が実際によく触れた話で、「開封後の返品・返金要求」というものがあります。

商品を買って、開けてから「これ返品するから金返せ」ってヤツですよね。結構多かったんですよ、これ。

「買うつもりだったものを間違えた」とかならまだしも、明らかに開封済で、しかも半分くらい中身の薬が減っている、という状態から返金を求められることもざらでした。

 

悪質でないものも含めれば、多い時には日に2,3回くらいあったような記憶があります。

もちろん店としては、基本開封した時点で商品価値がなくなるわけで、明らかな不良品や毀損品でない限りは開封後の返品を受け付けないのが普通です。一般的なルールですね。

 

ただ、「ルールなので自己都合の返品は受け付けられません」と言ったらそれで引き下がるお客さんばかりではなく、段々ヒートアップして罵倒も交えながらながらあの手この手で返品を通そうとするお客さんが結構いるわけです。

例えば、「開封はしたけどすぐにセロテープでくっつけたから未開封みたいなもの」だとか。

「根拠はないけどこれは不良品だと思うから金返せ、なんなら賠償しろ」だとか。

 

で、これ私横で聞いたんですけど、例えばある時「ポップに書いてある内容が間違っている、消費者機関に訴えるぞ」みたいなことを、まだ割と不慣れな子に言われたことがあったんです。

「訴える」系や「優良誤認」みたいなキーワードは確かに結構取り扱い注意でして、場合によっては大ごとになる可能性もあります。割とセンシティブなキーワードです。

 

で、そういうキーワードをぶっこまれると動揺してしまう人もいて、なんとかその場を逃れる為に、例えば「もしかすると返品できるかも知れないから確認してみます」とかついうっかり言っちゃったりするんですよ。

で、これ、当然ながら「返品できるかも知れない」の部分を相手は「返品できる」と解釈して、その後改めて店員が出てきて「いや受け付けられません」って言うと「出来るって言ったじゃねーか!!!」となるわけなんですよ。

 

もちろん本来は「間違っているというならどこがどう間違っているのか提示してください」というのが筋でして、「証明出来ない限りは対応もできません」ってするべきなんですけど。

冷静に考えれば分かることとはいえ、動揺してしまうとなかなか咄嗟にそんな反応出来ないですよね。

 

ちょっとずつ言う内容を変えてこちらの反応を引き出し、「お、ここはどうもちゃんと決まってないっぽいぞ、対応が乱れたぞ」となったらとたんに食いついてくる。

で、この時、他の誰かを敢えて呼ばせて、新しく来た人と最初の人の言い分が食い違うと、とたんに「さっき言ったことと違うじゃねーか!!」とヒートアップして、今度は「応対が統一されていない」ということについて大騒ぎをし始めたりする。

 

悪質なクレームを言ってくる人って、元々「当初の理由」は割とどうでもよくって、攻撃することそれ自体が目的だったりするんで、ゴール地点は自分からは明確にしないし、どんどんゴールポストを動かしていくんですよね。

こういうパターン、よくありました。

「対応の乱れ」とか、「ルールの不徹底」というところを見つけてきて、そこに物凄く敏感に食いついてくるんですよ。

 

このケースで言えば、「そもそもしつこく返金を求められた時点で一律シャットアウト」ないし「社員でないと答えられない、とはねつけってそれ以上は絶対言質を与えない」というルールが定まっていれば恐らくそこまではこじれなかったんですが、それが徹底はされていなかった。だから弱点を突かれてしまった。

 

冒頭に上げた雨宮さんの記事で、雨宮さんは

不尽なクレーマーと、そうでないお客様。

店が優先すべきは、言うまでもなく、「ルールに従い良心的で常識的なお客様」のほうである。

ドイツでは労働者が偉いので、客は「労働者様に働いていただく」立場です。

 

と書かれていて、これについては全面的に賛成なんですが、とはいえ理不尽なクレーマーは「ルールが曖昧」「ルールが徹底周知されていない」というところを探り出すのが滅茶苦茶上手いんですよ、という話なんですよね。

だからこそ

「クレームの扱いについてのルールは、組織としてきちんと決めなくてはならない」

「決めたら徹底して、決して例外を作ってはならない」

と。

 

こういうケースを見て以来、就職して以降も

「顧客からのクレームについては、可能な限り細かく対応基準を定める」

「ある程度悪質なものになったら一律はねつける」

といったルールを設けるべきだ、と常に主張するようになりました。

 

大筋、クレームを言ってくるお客さんはどんな時代どんな社会でも一定数は必ずいるもので、となると組織の側で明確なルールを作る以外に対処の方法はないんですよね。

 

なにより店員と、善良な多くのお客様を守る為に、組織はそこから逃げてはいけないよなーと思うようになったんです。

結構、「クレーム対応」というところを現場任せにして逃げ腰になる組織、多いんですよね。よくないですホント。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

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