ここから記すスケジュール管理のノウハウは、身に付けている人は常識的に身に付けているだろうし、文章として書かれたことが過去に何度もあったと思う。
ところが知らない人は本当に知らないし、できていない人は本当にできていない。
それか、知識としては知っていても実践できずにいる人も多いのではないかと思う。
どんなノウハウかというと、『テトリスみたいにスケジュールを管理する』というものだ。
仕事でもプライベートでも、スケジュール帳を埋めるタスクはさまざまな長さ・大きさをしている。
たとえば来週の会議は午後3時から所要時間2時間、たとえばその次の週の外回り仕事は午前8時から所要時間5時間……といった具合にだ。
そうやってスケジュール帳をタスクで埋めていくと、じきに一週間がタスクで埋まる。
タスクとタスクに合間ができたら、そこに雑務が振り分けられるかもしれない。
「集中力を意識したタスク配置」と「休みもタスク」
ここまでは、ほとんどの人がスケジュール管理として心がけ、実践していることじゃないかとは思う。
でも、たぶん重要なのはここからで。
タスクは長短さまざまな長さで降ってくるだけでなく、体力や精神力の消費の度合い、それとタスクを実践するにあたって必要な集中力の違いがそれぞれ違っている。
たとえばスケジュールとしては2時間で済むタスクでも、それが体力や精神力を激しく消費するタイプなら、その直後に入るタスクは集中力が発揮できなくなってしまうだろう。
そのようなタスクを、たとえば午後1時から午後3時まで実行したら、午後3時から集中力を必要とする別のタスクをやるのはあまりうまくない。
こうした体力や精神力の消費の度合いを考えると、集中力を必要とするタスクは朝一番か昼休みの後に配置するのが望ましい。
なぜならちゃんと昼休みを挟めば、午後には集中力が回復していると見込めるからだ。
午前中にものすごく消耗した挙句、休みぬきの午後に集中力が必要なタスクに臨むのがたぶん最悪だ。
能率が落ちたり、ミスが増えたり、アウトプットのクオリティが下がったりしやすくなる。
でもって、「昼休みを挟めば午後に集中力が回復している」といった重要性をかんがみると、休みも一種類の独立したタスク、とみなさなければならない。
タスクとタスクの隙間時間にだけ休むのは非常事態の時だけで、平時は休みも独立したタスクとみなし、意識的に時間を割いておかなければならない。
休みをタスクとみなしきちんと確保するのは、それ以外のタスクの能率を上げ、ミスを減らし、アウトプットのクオリティを保つためにも必要な措置だ。
繰り返すが、休みは、曖昧に扱ってはならない。
それ自体がタスクであり、スケジュール表やスケジュール帳の一角に書き込まれるべきものであり、簡単に潰してはならないと意識しなければならない。
この、「休みをタスクの一種類とみなし、積極的に時間を割く」は一日のスケジュールのなかでも言えるし、一週間のスケジュールでも言えるし、一か月、一年といった長めのスケジュールでも言える。
実働時間を輝かせたいなら、休みをおろそかに扱ってはいけない。
タスクとしての休み、とりわけ長い休みは、テトリスでいえば長いバーと同じで、意識して組み込まなければスケジュールに馴染みにくい。
けれども脳や身体を休ませる時間として・いったん違ったことを脳や身体にさせる時間としてとりあえず確保しておいたほうがいい。
いざという時の予備時間として利用することもできる。
仕事そのものの精度をあげたり速度をあげたりするのももちろん重要だ。
が、それだけでなく、スケジュール管理も自分自身の精度や速度を支える固有の技術的課題として上手くなっておくにこしたことはないように思う。
(休む時間も含めて)みっちりスケジュールを埋められる人は、そうでない人に比べて、一日/一週間/一か月/一年のなかで消化できるタスクを増やせる。
Duty なタスクや休みのタスクに加えて、何かを習ったり学んだりするタスクを余計にねじこめるだろう。
人と人の輪をつくるタスクを入れたっていい。
なんにせよ、こなせる総タスク量が増えれば選択肢は広くなる。
大事なことなのでしつこく繰り返すが、こうやって総タスク量を増やす際には「休みもタスク」とみなす視点を忘れてはならない。
自分自身の心身を守るうえでも、タスクのクオリティを維持するうえでも、スケジュール全体の冗長性を維持するうえでも、「休みもタスク」という視点は必須だ。休みをタスクとしてきちんと勘定しないスケジュール帳は、じきに破綻するだろう。
もっとマイクロな水準で「テトリスみたいにスケジュール管理」をする
また、総タスク量を底上げするためにも、ひとつひとつのタスクの精度を維持しながら速度をあげていけるのが望ましい。
1時間かかっていた仕事が55分で済むに越したことはないし、50分で済むならもっと良い。
そうやって余った5分や10分の蓄積が、(一日、一週間、一か月でこなせる)総タスク量を左右するし、スケジュール帳が破綻する確率を低くする。
仕事も勉強も遊びも、精度や速度は経験次第なところがあって、経験が足りないうちはどうしたって精度や速度は出ない。
経験不足な時期に精度と速度を両立させようと焦りすぎるのは考えものだ。
それでも、精度と速度を両立させる方向性で仕事や勉強や遊びの経験値を溜めていけば、遅かれ早かれ、精度をほとんど落とさないまま速度を稼ぐ余地は出てくるはずだ。
仕事の精度をほとんど落とさずに速度を稼ぐ余地、つまり1時間の仕事を55分や50分にする余地は、もっとマイクロな水準で「テトリスのようにスケジュール管理」することでも稼げる。
主要な仕事の前後。移動時間。待ち時間。こういった時間にマイクロな水準のタスクをどしどし入れて、組み合わせていく。
資料に目を通す時間でもいいし、化粧室で容姿を整え直す時間でもいいし、スマホで時刻やスケジュールを確認したり、何か手続きをひとつ片付けるだけでもいい。
「休みもタスク」の一環として缶コーヒーを飲んだり、自分の好きなニュースサイトをチラ見したり、軽い運動をするなどするのも選択肢としてアリかもしれない。
マイクロな水準でスケジュール管理する場合も、「休みもタスク」の原則は変わらない。
たとえば重要なクライアントとの打ち合わせが急に生じた直前などに「休むタスク」を急造し、少しでも良いコンディションで臨むなど。
マイクロな水準でテトリスのようにスケジュール管理する際には、現在の進捗と、午前/午後/夜間の残り時間を見比べながらこうしたタスクを数分単位、ときには数十秒単位で組んでいく。
こうやって「休むタスク」をも組み入れながら数分~数十秒単位でタスクをテトリスのごとく消化していくことで、スケジュール帳レベルの大きさのタスクそれぞれの所要時間が減り、いくらか余裕がもたせられるようになる。
仕事の精度を維持しながら速度を稼ぎ、かつ「休むタスク」を割り込ませることで精神力や体力を消耗しすぎないようにする。
さきにも書いたように、スケジュール帳レベルのタスクの所要時間に余裕が生まれれば、一日全体・一週間全体・一か月全体のスケジュールの足並みも乱れにくくなり、スケジュール帳がスケジュール帳として破綻しにくくなる。
マイクロな水準でスケジュール管理しようと思っても、数分~数十秒単位におさまるタスクがあまり見つからない、という人もいるかもしれない。
そういう場合は、全体としては1時間~数十分ぐらいのタスクを細切れにすることで、短い時間におさまるタスク複数個にすればいい。
この場合はテトリスより現実のほうがはるかに融通が利く。
もちろん、細切れにして構わないタスクと細切れにしたら台無しになってしまうタスクの区別はつけなければならないけれど。
細切れにして構わないタスクは、比較的単純な作業の積み重ねからなるタスク、全体の構図を意識する必要性が乏しいか、最後に全体の構図を意識すればなんとかなるタイプのタスクだ。
細切れにしてはいけないタスクは、たとえば報告書を書きあげるような、全体の構図を意識しながら仕上げないとクオリティが下がってしまうたぐいのタスクだ。
細切れにして構わないタスクとそうでないタスクの境目は経験年数によってもいくらか変わり、慣れてしまえば、割といろいろなタスクが細切れ可能になる。
慣れるまではごく単純なタスクだけに留めるか、うまくいけばもうけもののタスク(たとえば自分の業種に関連のある用語集を読み、その内容を暗記する)で挑戦してみるのも良いかもしれない。
マイクロな水準でやっていない人は、かわりにタフなことが多い
マイクロな水準でのスケジュール管理は、やっている人はやっている。
かなり綿密にやっている人を見かけることもある。反面、やっていない人はあまりやっていないようにみえる。
やっていない人の多くは、速度を稼げないかわりに長時間をかけてタスクを消化するような、バイタリティやタフネスを身に付けているよう、私にはみえる。
このあたりは向き不向きがあると思うので、バイタリティ派が向いている人はそちらを伸ばしたほうが良いと思う。
でも、長時間かけるのが苦手な人にお勧めなのは、スケジュール帳水準でタスクをカチカチッと管理しつつ、マイクロな水準でも「テトリスみたいにスケジュール管理する」ほうだ。
習得には、大枠としては1~2年、完成をみるのに十年ぐらいかかるだろうか。
少なくとも私の場合、研修医時代にこのノウハウの大枠が身に付き、それから十年ほどかけて問題点や粗さが改善していったからだ。
いきなりできるとは思わないほうが良くて、慣れないうちは、マイクロな水準のタスク管理は「ちょっとやってみよう」ぐらいの気持ちで臨んだほうが無難だ。
なお、月に1~2回、わざとスケジュールの組み方がすごくずさんな日を混ぜると、それが月全体のスケジュール上/体調上の予備日になる。
というより、そういう日が混じってもスケジュール帳が崩壊しないようにするためにも、そうでない日のタスクをきっちり組み、マイクロな水準でスケジュール管理をやって精度と速度を稼いでおくのが大事になる。
この「スケジュールの組み方がすごくずさんな日を混ぜる」も、考えようによっては「休みもタスク」の一種、予備時間の一種と言えるかもしれない。
カフェインに頼り過ぎないよう、ご用心を
なお、こうしたスケジュール管理を密にしていく方法は、コーヒーなどのカフェイン含有飲料によって加速できる(ことがある)。カフェイン含有飲料によってメリハリをはっきりさせることだってできるだろう。
でも、カフェイン含有飲料の効果の正体は「元気や集中力を得る」ではなく「元気や集中力を前借りする」なので、むやみに使うと息切れするようになる。
頻繁に使うのはおすすめできない。
むしろカフェイン含有飲料に依存してしまったり、過剰摂取して身体に悪影響が出たりしたら長期的にみてマイナスになってしまう点も忘れてはいけない。
ここぞという場面で用いるのは構わないけれども、毎日のように摂取し、やめられなくなっているなら要注意。
まして、それで夜に眠れなくなったからとアルコールを過剰摂取するようでは本当に心身を壊してしまう。
なので、カフェインはあまりあてにしないのが一番だと思う。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』
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