「権限委譲」
この言葉に、私は長い間苦しみ続けることになります。
新人コンサルタント時代に、権限委譲という名の「丸投げ」をくらい、毎晩夜中の2時までプロジェクトの火消しを行ったことがありました。
上長のAさんと私がペアでプロジェクトに突っ込まれたわけですが、
作成した資料の確認をAさんにお願いしても、特にコメントをくれるわけでもなく。会議に参加してもらっても、口を開くことはなく。
クライアントと議論していたシステム要件が食い違っていたときに、謝罪をしたのも私。
そんなことを繰り返しながら、何とかプロジェクトを乗り切った後、思い切ってAさんに「あの放置プレイには、どんな意図があったのか?」と聞いてみました。
すると「本山君を成長させるために、丸ごと任せてみようと思った」とのこと。
ちなみに、このプロジェクトを最後に、Aさんは転職先に去っていきました。
その2年後。
今度は、私が加害者になる番です。
はじめて部下を持ち、「部下自身に考えさせねば」とはりきっていた私は
「どう思う?どうしたい?」
「これはなんでだっけ?」
「ここは要するに、何を言いたいの?」
…と、コンサル節を炸裂させてました。
で、どうなったかというと、何回レビューを重ねても、期待値どおりのアウトプットが出来上がらず。
結局、あれこれ具体的に口を出して、しまいには自分が手を動かしてしまうハメに。
権限委譲を進めるために、部下自身に考えてもらおうとした結果、気付いたらマイクロマネジメントに陥っていました。
まさに、本にも書いてあるような失敗パターンを再現してしまったわけです。
権限委譲を語るうえで欠かせない2軸がある
落ち込んだ私は、権限委譲のスキルが抜群に優れているBさんに相談。
Bさんは今もコンサルティングの世界で戦っている方なわけですが、10年以上もの間、1度もプロジェクトを炎上させたことがないスーパーマンです。
「Bさんに率直にお伺いしたいのですが、権限委譲とは何でしょうか?」
「逆に聞きたいのだが、権限委譲とマイクロマネジメントの違いは何だと思う?」
「それは、部下がやることにどれだけ干渉するかが違うと思います」
「うん、そうだよね。じゃあ、権限委譲と丸投げの違いは?」
「えっと、必要に応じてサポートしてくれるかどうか、でしょうか?」
「じゃあ、必要に応じてサポートしようと思うのはどんなとき?」
「それは、相手が失敗しそうだと思ったときです」
「そう。別に責任を取る必要がなければ、サポートなんて面倒なことはしなくてもいい。上司が失敗の責任を取る覚悟ができているかどうか。ここが権限委譲と丸投げの分かれ目だよ」
***
以上の会話を整理すると、次のように表現できます。
まず、冒頭に書いた例のように、プロジェクトの進行を部下に任せ、失敗が起きたときも部下に謝罪をさせる。
これが「丸投げ」。
次に、上司が細かく口出してくるわりに、失敗したらはしごを外されるパターンもあります。
ドラマ「半沢直樹」でも、上司が部下に対して、手とり足とり隠ぺいの指示をしているシーンがありましたね。
そして、いざ隠ぺいがバレたら、部下に全責任を押し付ける。
そんな「トカゲのしっぽ切り」が描写されていました。
さすがに半沢直樹に出てくるようなレベルの隠ぺいは見かけませんが、
いつの間にか責任を押し付けられているケースは少なくありません。
以上より、権限委譲をする(というよりは、部下に仕事を任せる)上では、「上司が責任を取ること」がマスト条件なわけです。
この条件が満たせないと、マネジメントの入口にすら立てません。
では、上司が責任を取れば万事OKかというと、そうではありませんよね。
あまりに口をはさみすぎると、「マイクロマネジメント」だと言われてしまいます。
ただ、当たり前ですが、この「口をはさむ量」のさじ加減が難しい…
権限委譲のキモは「魚の釣り方」を教えられるか
ここで、やっと本題に入ります。
部下に口をはさむ量を適正化するには、どうすればよいでしょうか?
この疑問を、先ほどのスーパーマンBさんにぶつけてみました。
「部下に口をはさむ量を調整するのが、しぬほど難しいです。Bさんはどうしてそんなに権限委譲が上手いんですか?」
「それはね、魚を釣ってあげるんじゃなくて、魚の釣り方を教えているから、かな」
「はい、そこは僕も意識しています。だから、部下自身に考えてもらうために、なるべく答えを言わないようにしています」
「ほう、じゃあ部下に対して、具体的にどんな問いかけをしてんの?」
「そりゃ、なんで?それで?という我々お得意の問いかけに決まってるじゃないですか」
「なるほどね。そんなザックリした質問だから、いつまでたっても部下が育たないわけだ」
「どういうことですか?」
「優秀な人であれば、なんで?それで?の2つだけ要所で問いかけておけば、あとはよしなに考えてアウトプットしてくれる。でも、ほとんどの人は、そうはいかない」
「……」
「なんで?それで?という抽象的な質問は、考える方向性が定めにくい。だから、あらぬ方向にWhy?×5回なんて繰り返したり、へんなHowに飛びついたりして、とんちんかんなアウトプットを仕上げてしまう。そうならないためにも、相手の実力を推しはかりながら、具体的に5W1Hで質問してあげないといけない」
***
たしかに、物事を実行するために、5W1Hを避けては通れません。
例えば、魚釣りをできるようになるためには、
・何のために魚を釣るのか?料理のため?飼うため?…Why
・何の魚を釣るのか?…What
・その魚はどこで釣れるのか?…Where
・その場所で魚が一番釣れるのは何時なのか?…When
・初心者の私は、誰と釣りに行った方がよいか?…Who
・釣り具をどうやって扱えばよいか?…How
これらの問いを網羅的に考える必要があります。
しかし、魚釣り初心者の人が、いきなり上の問いを全て自力で考えるのは厳しいでしょう。
そこで上司は、
・ド初心者であれば、時間をかけて5W1Hを1つひとつ一緒に考えてあげる
・こなれている人であれば、5W1Hのうち、抜けている論点だけを聞いてあげる
という感じで、部下の「魚釣りレベル」に応じて、問いかけを調節しなければなりません。
この「5W1Hの地道な調節」を積み重ねていくと、部下に対する「5W1Hの質問の数=口をはさむ量」が少しずつ減っていき、いつの間にか権限委譲が完成しているはずです。
『5W1Hマネジメント』が「魚の釣り方の教え方」を教えてくれる
ここまでの話を読んで
「いやいや、魚釣りとビジネスの話は別だろ」
と思った方も少なくないでしょう。
そんな方にオススメしたいのが『5W1Hマネジメント』です。
この本は、7万部超のロングセラー『5W1H思考』の続編として、最近発売されました。
「いまさら5W1Hかよ」という声が聞こえてきそうですが、本書を読むと
「ああ自分は、5W1Hの10%くらいしか使えていなかったんだな」と思い知らされるはずです。
例えば、「When(いつ)」について、興味深い示唆が記されていました。
「When」のとらえ方は多様です。
時間軸上の1点を指せば”いつ?”という「タイミング」を表しますし、”始め”と”終わり”の2点を指せば、”いつから” “いつまで(に)”という「期間(時期)」を意味します。
特に”終わり(いつまでに)”にフォーカスすれば、「納期、期限」を表します。
さらに、その2点間(ある期間)で起こる物事に着目すると、物事の変化の道筋を「プロセス(その複数のまとまりを「ステップ」「ステージ」「サイクル」などと言ったりします)、そして物事の変化の度合いは「スピード」となります。
このように、「When」を多面的にとらえ、整理しておくと、さまざまに応用が利きます。
出典:『シンプルに人を動かす 5W1Hマネジメント』p37
要は「When(いつ)という視点は単純なように見えて、奥行きがある」ということ。
「値引き交渉は、いつまでにケリをつけるのか?」
と問いかければ、部下の視点は「短期的」になりますし
「いま値引きに応じることで、将来的に自社にどんな影響がありそうか?」
と問いかければ、部下の視点は「長期的」になります。
「When(いつ)」の問いかけ方ひとつで、ここまで大きく変わります。
この絶妙な「問いの調節方法」を指南してくれるのが、『5W1Hマネジメント』という本です。
毎年300冊ほど読んでいますが、ここまで「魚の釣り方の教え方」をピンポイントで詳説している本はお見かけしたことがありません。
まとめましょう。
まず、上司の方。
もし、「部下が自力で考えられるように、魚の釣り方を教えたい」と思われているなら、『5W1Hマネジメント』からヒントが得られるはずです。
そのうち、部下が大きな魚を釣って、自慢してくるようになるでしょう。
「上司にいろいろ口を出されたくないから、さっさと自走できるようになりたい」と意気込んでおられるなら、『5W1H思考』を片手に戦ってみてください。
徐々に上司からの口出しが減っていき、穏やかで裁量あふれる日常が手に入るでしょう。
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【プロフィール】
本山 裕輔
PwCコンサルティングを経て、現在はグロービス経営大学院でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進中。
趣味で書評ブログ「BIZPERA(ビズペラ)」を運営。
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