インターネット上での選挙活動が、公職選挙法の改正により公式に認められたのはたった7年前の、平成25年。

それまでは、webサイトやSNS上の発言は、公職選挙法第142条の「文書図画の頒布」にあたり、厳しく制限されていました。

 

ところが時代は一変しました。

ご存じの方も多いと思いますが、ここ数年で「インターネット選挙活動」はすっかり市民権を獲得し、選挙活動にwebは不可欠となりつつあります。

なかでも目立つのが、ネット選挙活動の草分け、山田太郎参議院議員です。

 

議員は支持母体がないにも関わらず、ネットを中心に活動を展開した結果、2016年に29万票、2019年には驚異の54万票を獲得し、「医師会や自動車総連をも上回る」と、大きな話題となりました。

 

その仕掛け人の一人が、公設第一秘書の坂井 崇俊さんです。

坂井 崇俊 (さかい・たかとし)

41歳(1977年生まれ)

株式会社ニューカルチャーラボ 取締役

エンターテイメント表現の自由の会 編集長

 

京都大学農学部卒業後、大手都市銀行に入行

4社のコンサルティング会社を経て独立

その後、山田太郎参議院議員の公設第一秘書

 

坂井さんは2度の選挙に、選挙対策責任者として参画し、冒頭にご紹介したような、大きな成果をあげています。

その施策の要となったのが、ネット、とくにTwitterを積極的に活用した選挙活動です。

 

一体、坂井さんは、いかなる方法論を用いて成果をあげたのでしょう。

 

「自民党2位」の票を集めた、ネット戦略の要諦

坂井さんにお話を聞くと、開口一番、

「政治家って、どう思います?」

と聞かれました。

 

なかなか答えづらい質問です。

私が口ごもっていると、それを見透かしたように、彼は言いました

 

「うさん臭いですよね。いえいえ、いいんですよ、売り込んでくる営業と同じです。政治家がいくら熱心に説明しても、ろくに信じてもらえないんです。」

「で、どうするか。本人が言ってダメなら、利害関係のない、一般の人に言ってもらうしかない。商売で言うところの「口コミ」です。

そして、「口コミ」を何度も目にするうちに、ようやく、政治家の言っていることに興味を持ってもらえるようになるんです。これが、ネット選挙活動における基本の戦略です。」

(出典:人には言えない政治と選挙の裏の裏  坂井 崇俊 )

 

言われてみれば、確かに口コミは、今ではネットを介して広がることがほとんどで、この戦略と「ネット」は非常に相性が良いかもしれません。

しかし、具体的にはどのように「口コミ」を起こすのでしょうか。

企業のwebマーケティングのプロですら「口コミ」を意図を持って広げていくのは非常に難しいはずです。

 

「フォロワー」も「いいね」も不要

その疑問を、坂井さんに聞きました。

 

「フォロワーの方を集めるのでしょうか?それとも、口コミを拡散させるのでしょうか?」

「そんなことはしません。」

 

「え……?」

 

「おそらく、政治家本人の「フォロワー」を増やして、「いいね!」を押してもらって、発言を拡散してもらうのが、ネットの使い方だと思っている人が大多数でしょう。でも、そうではないです。」

 

坂井さんは、「ネットの活用イメージ」には、3つの誤りがある、といいます。

「まず「自分の言葉で発信してくれる人を育てること」が大事であり、フォロワーやいいね数は二の次です。さらに、狙うのは拡散ではなく、支持者とのコミュニケーションです。」

まだあまりイメージが掴めなかった私は、坂井さんに尋ねました。

「具体的には、どういうことでしょう?」

「例えばですね、本人の「山田太郎をよろしくお願いします」という投稿が、10回リツイートされたと想像してください。」

「はい。」

「そしてもう一つ。同じ「山田太郎をよろしくおねがいします」というツイートを10人がしていると想像して下さい。ただし、こちらはリツイートは0です。」

 

「投稿が届く人の数は同じです。でも、どちらが良いですか?と聞かれたときには、明らかに後者のほうが良いです。なぜなら先に述べたとおり、「本人」が言うよりも、「他人」が言ってくれたほうが遥かに価値があるからです。」

 

したがって、坂井さんは「インフルエンサーは不要」といいます。

 

「だから、必要なのは、拡散力のあるインフルエンサーではなく、山田太郎を推してくれるアンバサダーだ、と我々は考えています。」

 

(出典:人には言えない政治と選挙の裏の裏  坂井 崇俊 )

 

「アンバサダーは「強いファン層で、自分の言葉で、政治家や政策について発信をしてくれる」人たちです。彼らの発言は、政治家本人の発言よりも、遥かに説得力を持ちます。」

では、このコアのファンである「アンバサダー」の形成をどのように行うのか。

坂井さんは「政策の差別化」と「リアルでの選挙活動」の2つだと言います。

 

山田太郎議員しかやらないことを主張して「差別化」する

一言で言えば「差別化」とは、山田太郎議員でしかできないことを、主張することです。

 

坂井さんは、次のように言います。

「国民の大多数が重要だと思う施策は、誰かがすでにやっている。国会議員は720人もいますから、山田さんがやらなくていいわけです。山田さんしか言う人がおらず、プロジェクトとして長期に渡って取り組む必要のある事柄だけが、我々の政策です。」

主張に「差別化」が存在すれば、その政治家を支援することでダイレクトに「自分が役に立っている」という実感が生まれ、その結果「コアな支援者」となる。

 

坂井さんは「アイドルの世界で言う「推し」と同じです」といいます。

これが「差別化」が重要な理由です。

(出典:人には言えない政治と選挙の裏の裏  坂井 崇俊 )

 

そして、「ほんの一握りの、強い主張がある人々が、全体を動かす」という事象は、本質的に至るところに見られます。

 

ハラルへの対応然り。

業界団体のロビー活動然り。

郵政民営化然り。

 

「ブラック・スワン」を著した、経済学者のナシーム・ニコラス・タレブは、これを「少数決原理」と名付け、次のように説明しています。

大きく身銭を切っている(できれば、魂を捧げている)ある種の非妥協的な少数派集団が、たとえば総人口の3、4パーセントとかいう些細な割合に達しただけで、すべての人が彼らの選好に従わざるをえなくなる

(出典:身銭を切れ ナシーム・ニコラス・タレブ ダイヤモンド社)

山田太郎議員のやっていることはまさに、少数派が極めて強いこだわりを持つ支持を獲得し、大きな流れに至る「少数決原理」の体現です。

 

その「少数決原理」を坂井さんが仕組み化したのが、「アンバサダー」のレベル分けです。

 

レベル3の会員は、極めて強固な支持層で、直接選挙活動を支援してくれる集団です。

彼らへは「やってもらいたいこと」を明確に指示し、ミッションを与えます。

中にはツイッターの運用に関する極めて詳細の指示があります。

「極めて活動的な少数派」がネット全体の論調を制する、良い事例と言えます。

 

「選挙活動」がネットだけでは完結しない理由

もう一つ重要なのは「リアルでの選挙活動」です。

 

しかし、「ネットでこれほどの支持者を集めることができるのであれば、リアルの選挙活動は不要なのでは?」と思う方もいるかも知れません。

 

ところが、実はアンバサダーの創出には「リアルの選挙活動」が不可欠です。

実際、山田太郎議員は、選挙期間中には秋葉原にしか行かず、街頭演説を行っていました。

(出典:人には言えない政治と選挙の裏の裏  坂井 崇俊 )

 

選挙後にはコミケなどに顔を出し、支持層に向けてアピールを行っています。

(出典:人には言えない政治と選挙の裏の裏  坂井 崇俊 )

 

「なぜ、わざわざリアルでの街頭演説を行っているのですか?」聞いたところ、坂井さんは次のように回答しました。

「口コミを生み出すには、まず「素材」がなければなりません。要は「ツイートのネタ」を街頭演説で提供しているのです。ですから、支持者の集まる秋葉原やコミケに足を運んで、「こんなことあったよ」と言えるようにしています。

実際、友達がいきなり政治的なツイートをしていたら、引きますよね。でも、「秋葉原で山田太郎を見た」だったら、ツイートしやすい。」

 

マーケティングを全く知らない「政治家」の世界に、マーケ技術を持ち込めば無双できる

最後に、私は聞きました。

「なぜ、政治の世界に?」

 

「政治の世界って、マーケティング力のある人がほとんどいないんです」

と、坂井さんはいいます。

 

「民間出身の人が少ないからなのですが、政治に、マーケティングの技術を持ち込めば、まず、勝てると思いました。でも、そうして世の中は変わっていくんです。面白いと思いませんか?」

 

 

インタビューを通じて、私は「知識社会」の本質を強く感じました。

どこの世界でも「知は力なり」です。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

株式会社識学

人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。

webサイト:識学総研

坂井 崇俊 (さかい・たかとし)

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