まず始めに、「スーファミ版のストII」の話から始めさせて欲しい。
皆さんよくご存知の通り、「ストリートファイターII」は対戦格闘ゲームの金字塔であって、色んな人たちがゲーセンに通い詰めては遊びふけるようなゲームだった。
当時は、どのゲーセンに通っても、ストIIの台には人が行列を作っていて、遊ぶ時間を作るのも大変なことだった。
そんな折に、「スーファミでストIIが出るらしい」という話になった。もちろん話題になった。
スーファミのスペックでストIIの面白さが再現できるのか?という話ももちろん多かったが、「家で対戦できるじゃん!」という声の方が圧倒的だったと記憶している。
スーファミ版ストIIの発売日は1992年6月10日、既にゲーセンでは同年4月に「ダッシュ」が出ている時期でもあり、対戦台も既に一般的に流通していた。それを自宅で楽しめるというのは、それこそ圧倒的なメリットだった。
しんざきは当時中学1年生、怖いお兄さんたちの存在に怯えながらも、あちらこちらのゲーセンを渡り歩いている頃だった。
もちろんストIIは大好きで、少しでも列が短い対戦台を見かけたら即並んで、大体の場合1コインで負けていた。使用キャラはリュウだったり、E.本田だったり、ブランカだったりしたと思う(余談だが、当時は「春麗をゲーセンで使うのは恥ずかしい」という意識が中学生男子にはあったのである)
そんな私にとっても、「家でストIIが遊べる」というのは、もちろん一つの福音だった。
兄と二人で、親にねだり倒して買ってもらった。
「家にゲーセンが来た」。当時は本当にそう思った。
もちろん、若干見た目や操作感が異なる部分もあるにはあったが(ダルシムステージの象が少なかったりとか)、そんなことは本当に些細なことで、基本的には「ゲーセンそのままじゃん!!」としか当時の私には思えなかった。
「春麗を使っても恥ずかしくない!」となって、ひたすらスピニングバードキックを使っていた時期もあった。空中投げの判定のあまりの広さに感動した。
しかしここで私は、多分生まれて初めて、「入力端末の圧倒的な環境差」という深刻な問題に直面する。
みなさん、スーファミのコントローラーの形を思い出して欲しい。以下は任天堂のサポートページである。ここに画像がある。
もちろん、まず十字キーの問題がある。
当時、コマンド入力がようやくスティックで上手くいき始めていたところ、「十字キーでコマンドを入れないといけない」というのは大きなハードルだった。
まず波動コマンドが出なかった。昇竜も無理だった。練習して1p側では出せるようになっても2p側では無理、なんてのもよくある話で、スクリューなんて夢のまた夢だった。
ただ、これは練習で解決する問題だ、と私にもすぐ分かった。
問題はボタン配置の話だ。
XYABボタンに、左右のLRボタン。そう、確かに6ボタンがある。
ストIIの「小パンチ、中パンチ、大パンチ、小キック、中キック、大キック」と同じだ。
しかし、「Lボタンは押し辛かった」。そう、私にとっては本当に押し辛かったのだ。
ただでさえ、子どもの手は小さくて指も短い。おまけに利き腕ではない左手の人差し指が置かれるところだ。
格ゲーの忙しい操作を左手の親指で入力しつつ、人差し指で、必要なタイミングでLボタンを押す、なんて芸当は、とても当時の私にできることではなかった。
確かストIIの少し後にHORIからファイティングスティックも発売された筈だが、もちろんそんなものを買う金銭的な余裕もなかった。
ストIIではボタン配置のエディットができた。
そこで私は、あるいは当時の多くのファミっ子たちは、「どのボタンをLボタンに割り振るか」の判断を強いられた。
ちょっと考えてみて欲しい。皆さんなら、「ストIIでどれか一つのボタンが使えない」と言われたら、どれを切り捨てるだろう?
デフォルトで振られているのは大パンチ。これは大波動や大昇竜を出すための必須パーツだった。
しゃがみ大キックは相手が転ぶし、小キックは足払いでの連打が利く。小パンチは連打で暴れたり突進技を撃墜する時に使う。
しゃがみ中キックはリーチが長いし、その後波動拳を出すとなんか連続して当たる(当時はまだ「キャンセル」の概念をよく理解していなかったが一応使ってはいた)。
じゃあ中パンチ。
一番要らなそうだから。
これが当時の私の判断だったのだ。
私は、Lボタンに中パンチを割り振って、事実上中パンチを封印する道を選んだ。中パンチを、よりによって中パンチを、「一番要らない技」として切り捨てたのだ。
これは、ずっと長い長い間、私の思考に尾を引く呪いとなる。
呪いの効果はすぐに現れた。
なんか勝てないのだ。ゲーセンで勝てないのは普通のことだったが、まず兄に勝てない。
5歳上の兄は弟に対して一切の情け容赦をしない男で、例えば信長の野望で「神保強いよ」とか私に言っておいて自分は武田を使うような男なのだが、もちろんストIIでも一切容赦はなかった。
恐らく、100回やったら100回負けたのではないだろうか。
同年代の友人にも勝てない。なんならお隣の家で私より3歳年下の小学生さとしくんにもちょくちょく負ける。
もちろんただ単に下手、と言ってしまうのは簡単なのだが、当時の私の最大の問題点が、「通常技の性能や役割を一切分析・把握していない」ということであって、その端的な表象が「中パンチ切り捨て」ということだったのだろう、と今では思っている。
もちろん、格闘ゲームには色んなタイトルがあり、色んなキャラクターがいる。
それぞれシステムも違うし、技の性能も違う。そもそも6ボタンでないゲームも多く、SNKのネオジオ系列では大体4ボタンだ。それをひとくくりに議論することには無理がある。
だが、それらの事情全てをひっくるめた上で無理やり四捨五入すると、
「しゃがみ中パンチは実はめちゃくちゃ強い」
という結論が出る。これは、ある程度格ゲーを遊ぶ人なら誰でも持っている共通認識の筈だ。
様々なタイトル共通の話として、格ゲーの通常技は、ざっくりと
弱攻撃:暴れ・刻み・ヒット確認の起点
強攻撃:隙に刺してのリターン・差し返し・中距離のけん制
中攻撃:その中間
になりやすい(かなり乱暴なくくりだが勘弁して欲しい)のだが、しゃがみ中パンチは「中距離の万能枠」になりやすい。
しゃがみ姿勢で被弾面積が小さい、発生が比較的早い。
硬直差が優秀になりやすい、判定が強いことが多い、ヒット確認からのコンボや押し付け行動が強い、取り敢えずで振れる。
近年のタイトルではスト5が最も「しゃがみ中パンチのユーティリティ性」を強く表現したゲームだったと思うが、別にストリートファイターシリーズに限った話ではなく、「中攻撃」がシステム上存在する多くの格闘ゲームでそうだったろう。
先ほど私は「呪い」という言葉を使った。この「呪い」の意味は二つある。
一つ目は、「地味な通常技の性能について突き詰めないことに疑問を抱かない」という呪いだ。
本来、ゲームには様々な学びがあり、
「一見地味な技でも、いざ使ってみるといくらでも役割がある」
「勝負を決めるのは、技の振り合いと読み合いによる有利不利の積み重ね」
というのもその重要な一要素なのだが、私がこれに気付くのはずっとずっと後、「ギルティギア ゼクス」というゲームにどっぷり浸かった頃のことだった。
私はこのゲームで、「強い通常技を押し付けることがいかに凶悪な効果を発揮するのか」ということを嫌という程思い知らされることになるのだが、まあそれは別の話だ。
そして、呪いのもう一つの意味は、「単に「押し辛いから」というだけで、そのボタンを有効利用するための訓練、という思考にたどり着けなかった」ことだった。
SFC版ストIIは、かつて小学校で一般的だった、「お互いの家に遊びにいってゲームをする」という文化をもう一度開花させた。
「ストIIやろうぜ」という言葉を合言葉に、クラスで何人ものゲーム仲間ができた。
そんな中の一人、ここではTくんとするが、Tくんはオプションというものを一切見ない男で、そもそもボタン配置が変えられることを知らなかった。
「配置変えないの?」という私の言葉に、彼は「配置って何?」と答えた。そのあとすぐ、私はザンギエフを選択した彼のプレイを見て驚愕することになる。
皆さん思い当たるところもあるだろうが、SFC版ストIIの頃、大体クラスにひとりは「コントローラーで立ちスクリューができるヤツ」がいて、スクリューが出せるというそれだけでちょっとしたヒーローになっていた。T君はそのひとりだったが、
彼は「Lボタンに大パンチを設定したまま、立ち大スクリューが出せていた」。
この異常性は、恐らく当時SFC版ストIIを遊んでいた人でないと理解できないと思う。
「スクリュー(レバー1回転)をジャンプせず地上で出すだけでも神業なのに、左手で十字キーを回しながら、同時に左手の人差し指でLボタンを弾くように押す」という、脳のバグを疑うような指の独立性が求められる技だ。
私はTくんのボタン配置を何度も何度も確認して、その上で聞いた。「なんでLボタンで立ちスクリュー出んの!?」と。
Tくんはひとこと、「練習した」とだけ答えた。
これだ。これが、愚かにも中パンチを切り捨てた私と、そもそも「切り捨てる」必要すらなかったTくんの差だ。
世の中には二種類の人間がいる。スーファミのザンギで、デフォルト配置のまま立ち大スクリューを出せる人間と、相手が強いザンギだとダルシムに逃げる人間だ。
この時私は即座に後者の人間になって、一生ザンギを立ち小と立ち大で落とす作業に移行するわけだが、当時の私はつくづく小物オブ小物だったと思う。
あれから35年近くの時間が流れた。
当時の私は中パンチの強さに気付けなかったし、中パンチを使えなかった。
今の私はどうだろう?地味な技にこそ強さと独自の役割があること、地味な技を突き詰めることで異常な場所にまでたどり着けることを、理解し、実践できているだろうか?
私がTくんになれないのは仕方ないことだが、せめてあの日かかった二つの呪い――「地味なものの価値を軽視する呪い」と「不自由さを訓練で超えようとしない呪い」――くらいは完全に解呪して、地味なりの役割、地味なりの価値というものを、泥臭く突き詰めていきたい。
そんな風に考えながら、私は今日もスト6を遊んでいるわけである。
今日書きたいことはそれくらい。
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著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
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