「生きづらさを抱えていた私だからこそ、生きづらいあなたに寄り添うことができます。あなたのお話を聞かせてください」

 

はぁ〜…。何だ、お前もか。お前もそっちか? 生きづらい系か。

どうしてどいつもこいつも、行き着く先は生きづらい系ビジネスなのかなぁ。

 

臨床心理士や公認心理師の資格を持っていないのに、心理カウンセラーを自称し始めた元友人の自己紹介ページを読んでいた私は、ため息と共に悪態をついた。

 

「まったく、今の世の中は生きづらい奴ばっかりだな。何でどいつもこいつも似たようなことしか言わないんだろう」

 

そう思ってしまうのは、私の観察対象が似たような女ばかりであるせいだろうか。

 

私がこれまでの人生でリアルに知り合い、興味を惹かれたり印象に残った女たちは、それぞれバックグラウンドとキャラクターに違いがあった。

一見すると共通点は無さそうなのに、彼女たちの人生をじっくりと年単位で追いかけていると、どういう訳だか全員が同じ道を辿り始める不思議な現象に名前をつけたい。

 

彼女たちは承認欲求が強く、自信家で、自分の活躍ぶりを周囲にアピールするのが好きだ。けれど実際には大した能力も実績もないので、次第にボロが出始める。

人生が思い通りにならないので神仏に縋りたくなるのか、あるいは判断力がないために重要な決断を全て「天の声」頼みにしようとするせいなのか、彼女たちは次第にスピリチュアルに傾倒し始め、様々な占いにも凝っていく。

そしてしばらくすると、「運命に背中を押された」と言って起業するのがお決まりのパターンだった。

 

起業すると言っても株式会社ではない。個人事業主か、せいぜい一般社団法人だ。

彼女たちの売り物はヒーリングセラピーやカウンセリングで、看板文句は判で押したようにみんな同じ。

 

「私は生きづらさに悩んだからこそ、生きづらい人たちの手助けがしたい。自分もそうだったからこそ、理解されず孤独に苦しんでいる方々に寄り添いたいのです」

 

あぁ、既視感、既視感。見たことあるやつ。何かもっとオリジナリティーのあるセリフが言える人はいないの?

 

と思ってしまう。

彼女たちは「生きづらさ」をまるで専売特許のように使うけれど、そもそも生きてることが辛くない人なんて居るのだろうか。

 

いかに生きづらい人が世の中に溢れていようと、生きづらい人の相談に乗りたい人たちもこれほど大勢居たら、市場は真っ赤っかのレッドオーシャンだなと笑ってしまう。

しかも、悩める人の相談窓口なら国や自治体が無料で用意している中で、元友人は有料で相談を受けようと言うのだ。

 

彼女が設定している30分3500円の料金が高いのか安いのかはよく分からないが、例え100円でも料金を取るのであれば、利用者が満足感を得られなければサービスとして成り立たない。

何らかの専門知識を持ち、特定の悩みに対して的確なアドバイスができるなら相談が有料になるのも納得だが、彼女の場合はただ話を聞くだけだ。

 

「ご相談はZOOMを使用します。あなたのお話を否定せず、お気持ちに寄り添って伺います。必要であれば、私の体験もお話しします」

 

対面せず、診断も助言もなく、ただ傾聴するだけ。これでお金が取れると思っているなら見通しが甘い。

もちろん、否定されずに話を聞いてもらいたいという需要は存在する。けれど、人は形ないものにお金を払うことに抵抗を感じる生き物でもある。

 

だから「傾聴と寄り添い」を生業とする人たちは、客に居場所となる空間を提供し、愚痴の聞き役になることや相談相手になること自体は無料にして、物やサービスを販売している。客商売とはそういうものだ。

 

「私は嘘が嫌いです。相手をその瞬間だけ良い気分にさせるために、言葉をオブラートに包んでその場を凌ぎたくありません。なぜなら私自身が、本心ではない、うわべだけの言葉で傷つき、人間不信になった経験があるからです。

だからこそ、誰も面と向かってあなたに言わないことを、ビシッとあなたに伝えます」

 

やれやれ。10年以上経ってもこの人は変わらないなぁと、乾いた笑いが漏れた。

親しく付き合っていた頃の彼女は、いつも「自分との対話」ばかりをしていて、他人を見ていなかった。周りの人をちゃんと見ようとしないから、いつまで経っても人間という生き物を理解しないのだ。

 

本当のことを指摘されて喜ぶ客など居るはずがない。それが目を背けてきた事実であれば尚更だ。

人は誰しも優しい嘘を好む。お金を払ってでも甘い言葉で騙されたいのが人間の悲しい性であり、不愉快なことを聞かされた上にお金まで取られたのでは、どんなに温厚な人でも怒り出してしまうだろう。

 

何より真実とは、己で気がつかなければ腑に落ちず、身にもならないものである。他人からの指摘は役に立ちそうでいて立たないのだ。

 

ママ友として付き合っていた頃の彼女は、「臨床心理士の資格取得を目指している」と言い、心理学の勉強をしていた。

大学主催のワークショップや短期講座に通うなどしていたが、いまだプロフィールに臨床心理士の肩書きがないところを見ると、資格取得は叶わなかったようだ。意外ではなかった。彼女が資格を得るには学歴も足りなかったが、資質にも欠けていたのだから。

 

彼女は自らが被虐待児であったことをオープンにしており、

 

「親からの暴力にあってきたからこそ、私は他人の痛みが分かる。私と同じように虐待を受け、苦しみ、傷ついた子供たちを助けたい。そのためにカウンセラーになりたいの」

 

と熱く夢を語っていた。

しかし、そこには欺瞞があった。彼女は青少年専用のホットラインの相談員を「修行のため」と言って始めたはいいが、ほんの数回通っただけで辞めてしまったのだ。

 

理由を問うと、

「あんなのバカバカしくてやってられない。ボランティアするよりも勉強した方が、カウンセラーになる近道だから」

と言い放った。

唖然とさせられたが、そこで私は気がついた。彼女は傷ついた子供たちを助けたいのではなく、傷ついた子供のままでいる自分を救いたくて心理学を学んでいるのだということに。

 

私は画面をクリックして、自己紹介ページから、彼女が得意とする相談分野についての詳細ページに移動した。

彼女の「私が経験者として話を聞けること」のラインナップは、被虐体験、職場でのハラスメント、不倫の恋、家庭内不和と離婚、片親家庭の不安、子育ての悩み、だった。

 

「あなたは一人ではありません。ありのままでいると嫌われてしまう。どうして?と私も悩んできました。そんな私を救ってくれたのは、ありのままを受け入れてくれる人たちとの出会いです。
私がお伝えしたいのは、あなたの人生はあなたが主役だということ。
他人に理解してもらえなくても、悪いのはあなたではない。だから自分を責める必要はありません。胸を張っていいのです」

 

これこそ、その場しのぎの気休めだと言えないだろうか。

自己肯定感は持たせ方を間違えると、かえって相談者を生きづらさの沼に沈める結果となる。

 

彼女自身がいい例だった。

確かに彼女が子供の頃に受けた虐待については、彼女は一切悪くない。問題と責任は100%親の側にある。

 

だが、10代から彼女を診てきたカウンセラーたちが「あなたは悪くありませんよ」と彼女に語り続け、ありのままの彼女を肯定してきた結果、彼女の自己肯定感は社会との折り合いがつかないほどいびつに成長してしまっていた。

これはカウンセリングの失敗ではないだろうか。

 

元友人は対人トラブルの絶えない人だったが、それは彼女が何かと他人を見下して高圧的な態度をとるくせに、誰かとの関係がこじれると「相手が自分に嫉妬している」と決めつけ、「私を理解しようとしない相手が悪い」と被害者ぶり、激しくなじるせいだった。そんな調子では、誰とも上手く人間関係を構築できなくて当然だ。

 

彼女の生きづらさの原因は、もはや被虐体験によるトラウマというより、パーソナリティ障害にあるのではと疑い始めた私は、彼女を全肯定するのをやめたのだ。

それまでは、「彼女には辛い過去があるのだから」と気を使うあまり、おかしいなと思うことがあっても否定せずに受け入れていた。

 

けれど、このままでは「新しいパートナーが欲しい」「仕事で認められたい」という彼女の願いが叶う見込みがないばかりか、社会からはみ出していく一方だ。

それでは彼女のためにならない。友人なのだから忠告し、軌道修正をさせなければ、と考えた当時の私はまだ若かった。

 

「人間関係が上手くいかないのは、あなたの言動にも問題があるんじゃないの?」と指摘した途端に、彼女は「裏切られた」と怒り狂い、「もう親友ではない」と絶縁宣言を叩きつけてきた。

実は、彼女が無二の親友だと評していた別のママ友も、同じ目に遭っていたのだ。

耳に痛いことを言われるたびに、彼女はそうやって親友を取り替えてきたのだろう。

 

彼女との友情が終わって10年以上経つが、今もSNSで近況を知ることはできる。

起業後に、彼女が請け負ったと公開している相談事例は、たったの10件しかない。

彼女の半生と生き様が語られているYouTube動画も、再生回数は数十回で止まっている。

 

起業したのはいいが、低空飛行が続いたのだろう。彼女が設立した一般社団法人の公式HPも、すでに削除されている。

これは彼女に限ったことではなかった。自分が生きづらいからと、生きづらい系ビジネスを始める女たちは大抵こうなる。

事業を長続きさせられず、ひっそりと消えていく例を既に何件も見てきた。

 

彼女は今回の起業が失敗に終わった理由と、生きづらさの問題の本質に向き合えるだろうか。

私はパソコン画面を見ながら、「無理だろうな」と独り言を呟いた。

彼女は自分と対話することは大好きだが、決して内省はしないのだから。

 

成功へのヒントを掴むため、彼女は最近「未来を拓く女性のための仕事塾」とやらに入ったようだ。そのセミナー主催者にすっかり心酔している様子がSNSから伺える。

 

最新の投稿には、

「素晴らしい師が、諦めなければ夢は叶うという希望と、チャレンジし続ける勇気をくれました!
自分はできる!絶対に諦めない!と、今後も自分を信じて、ブレることなくチャレンジを続けていきます!」

と、熱い想いが綴られていた。

 

 

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(2022/6/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

Twitter:@CrimsonSepia

Photo by Molly Blackbird