給料、上がらないかなぁ……。

 

この記事を読んでくださっている方のうち、99.99999%はこんなことを思ったことがあるんじゃないだろうか。

まぁ思うよね、だれだって。

 

でも、知ってます?

日本では基本的に、「生活に必要なお金しかもらえない」ってこと。そしていまでは、その「必要経費」すらもらえなくなっているってこと。

 

そんな日本で豊かになるにはどうしたらいいか。

その方法を考えたら、悲しい結論にたどり着いてしまった……というのが本記事の趣旨だ。

 

成果報酬とはちがう、「給料=必要経費」の日本

みなさんは、「給料がなぜその金額」なのか、考えたことがあるだろうか。

 

わたしは、ない。

まったくないわけじゃないけど、「新卒の給料がなぜ20万円前後なのか」と聞かれても、すぐには答えられない。

 

というわけで、『人生格差はこれで決まる』という本を参考に、給料の仕組みについて勉強してみた。

まず給料には、「成果報酬方式」と「必要経費方式」があるらしい。

成果報酬方式では、自分が稼ぎ出した利益の一部を給料としてもらう。

そこでは「努力」「やる気」「どれだけ長く働いたか」といった要素は無価値で、会社にどれだけ利益をもたらしたかで給料が決まる。

 

一方の必要経費方式では、翌日も同じ仕事をこなすために必要な金額、つまり生活に必要なぶんを、給料としてもらう。

この方式では、「家賃や食費にいくら必要か」「養う家族はいるか」「その仕事ができるようになるためにかかったコストはどの程度か」などが考慮される。

 

たとえば、残業すれば疲れてよく休まなくてはいけないので、コストがかかるぶん給料が増える。

大卒はそのステータスを得るためにコストがかかったので、高卒よりスタートの給料が多い、というわけだ。

そして日本の給料の仕組みは、この「必要経費方式」らしい。

 

家賃補助をもらう人間は、「成果主義」を語れない

日本の給料が必要経費方式だと考えると、「成果を出さない高給取り中年社員」という批判が、いかに的外れかがわかる。

給料は成果を出しているかどうかで決まるわけではありません。その「オジサンたち」の生活費が高く、「明日も同じ仕事をするために必要な経費」が高いから、給料が高いだけなのです。

同様に、持ち家を買ったら「住宅手当」を出す会社があります。(……)
冷静に考えれば「家族手当」や「住宅手当」は、労働者本人の成果や努力と無関係だということは理解できます。

しかし、もしそれらを当然の権利としてもらっていたとしたら、自分の給料は自分が出した成果や自分の努力を元にしては決まっていない、ということを受け入れていることになります。その場合、窓際のオジサンを見て、「なんであの人は仕事もしてないのに……」と不満をいうことはできません。根本的に認識が間違っているのです。

出典:『人生格差はこれで決まる』

たしかに言われてみれば、家族手当だの住宅手当だの、自分自身も成果に関係ないカネをもらっておいて、「成果に見合わない高給取りのオジサン」を批判するのはおかしな話だ。

 

オジサンたちは(世間相場で考えると)、新卒社員よりも広い家に住み、養うべき家族をもち、年相応の身なりをしなくてはいけないから、カネがかかる。だから給料が高い。それだけの話。

 

冒頭の「なぜ新卒社員の給料が20万円前後なのか」という問いも、「それくらいあれば生活できる(と思われている)」が答えなのだろう。

これが、必要経費方式の給料の仕組みであり、日本の給料の仕組みだ。

 

必要経費方式で必要経費をもらえない絶望

あれ、そう考えると、なんだかおかしくない?

生活に必要なカネ、その仕事をするためにかかったカネを「経費」として企業が支払うのなら、大学の奨学金を返せず経済的に結婚・子どもを諦める正社員なんて、いるはずがないよね……?

 

でも実際、そういう若者がわんさかいるわけで。

いったい、どういうことだろう。

 

もしかしていまの日本企業は、「必要経費方式」なのに、「成果を出したら色を付けるから」といって、本来払うべき「経費としての給料」を払っていないんじゃないだろうか。

 

たとえば大卒を募集するのなら、そのステータスを得るために必要だった経費(学費)をペイできる待遇で迎えるべきだ。

でも実際、企業はそんな待遇を用意できない、もしくは用意したくない。

だから成果主義ぶって、「成果を出したらカネをやるからな」と、必要経費の支払を渋る。

 

年功序列や終身雇用の崩壊で中途半端に成果主義を取り入れた結果、見事に両方とも機能せず、「生活に必要な経費をキッチリ支払うわけでもなければ、成果を出した人にたんまりカネを与えるわけでもない」という、労働者にとってたまったものじゃない状況になっているんじゃないかな。

 

完全な「必要経費方式」であれば、仕事がキツかったり理不尽だったりしても、とりあえず「生活に必要なカネ」はもらえるから、将来の心配をする必要はなかった。

 

でもいまは、生活に必要なカネ(+その仕事をするのにかかったコスト)を回収できるかわからないし、かといって成果主義でもないから成果での給料アップもたいして見込めない。

え、じゃあなにを希望に仕事をがんばればいいの?

 

「まじめな者がむくわれない」と嘆く日本の若者たち

厚生労働省による若者意識の国際比較の統計で、「自国の社会問題」について聞いたものがある。

アメリカでは人種差別や性差別の割合が高く、フランスでは貧富の差と学歴格差の割合が高い。

では日本はといえば、性差別(30.2%)、貧富の差(32.9%)、学歴格差(35.9%)を抑えて、「まじめな者がむくわれない」が39.8%で一番多いのだ。*1

 

つまり、一生懸命勉強したり働いたりしても、そのコストに見合うリターンをもらえてない認識がかなり強い国ってこと。

ついでに、「将来への希望」の国際比較も見てみよう。

スウェーデンやアメリカの若者の9割が「希望がある」と答えており、ドイツやフランスでも約83%が希望をもっているのに、日本はたったの61.6%しかいない。*2

 

約4割の若者が、希望をもてないのが現実なのだ。

むくわれないうえ希望をもてないって、なかなかのハードモードである。

 

どうせカネはもらえないからせめて幸せに暮らそう、という諦め

そんな現実のなかで、どうやったら豊かになれるのか。

そこで行きついたのがきっと、「どうせカネはもらえないからせめて幸せに暮らそう」論だ。

ほら最近、「好きなことを仕事にしよう」が大人気でしょ?

 

時間と労力を投じて知識や経験を積み重ねても、それで給料が上がるかはわからない。せめて好きなことで、「ストレス」という経費を減らそう。

あまり給料がもらえなくとも、好きなことをやって楽しかったからムダじゃないよね。いまの時代、カネを目標にするより楽しんで仕事した者勝ち!

こういう考えだ。

 

ほかにも、「最近は昇進を断る人が増えている」という話を耳にしたことがある。

昇進したら給料は増えるけど、それによって精神的・肉体的苦痛が増えるなら、結果的にマイナスだ。

じゃあ昇進なんてしなくていいや、面倒だし。キツイ仕事しても、どうせ給料はたいして上がらないしね。と、こう考える。

 

そういえば、ここ数年「若者のブーム」として取り上げられたものも、総じて「生活の必要経費を下げる」傾向にある気がする。

たとえば、生活にかかるカネや労力を、可能なかぎり下げるミニマリスト。

たとえば、所有せずに一時的に借りて満足する、シェアリングエコノミー。

 

もっと言えば、「若者の〇〇離れ」だってそうだ。

車なんて維持費が高いからいらない、海外旅行も別に興味がない、恋愛も面倒くさい……。

生活の経費が上がらないように、若者たちはどんどん手放していく。

余計な精神的・肉体的負荷は避けたいし、リターンを見込めないものに、時間や労力をかけたくない。

 

カネを稼いで贅沢をする=豊か、という定義だと、日本の若者は高確率で豊かになれないのだから、あとはもう精神論だ。

「自分は好きなことをやっているから幸せ」「モノやカネがなくとも自分らしく生きているから十分」と、そうやって精神的に豊かになろうとする。

 

新入社員の働く目的の調査結果でも、「経済的に豊かになる」も3割以下なのに対し、「楽しい生活をしたい」が4割以上になってるしね。*3

 

若者が豊かになる方法は、「あるもので幸せを感じる」こと

一昔前であれば、仕事をがんばれば昇進できたし、年齢を重ねれば相応の給料をもらえた。

 

でもいまは、そうじゃない。

OECDのなかでも日本の平均賃金は平均以下だし、この30年間実質賃金はほとんど上がっていない。

それでも強者はきっと、「もらうことを考えず自分で稼ぎ出せ。副業や複業しろ。フリーランスや社長になって、雇われる側から脱却しろ」と言うのだろう。

 

たしかに一理あるけど、世の中は雇われる側が大半だ。

その人たちが希望を持てないのなら、それは個人の問題ではなく、社会の問題でもある。

 

右肩上がりの日本を知らない平成以降に生まれたわたしたち、そしてわたしたちより下の世代は、経済的に豊かになるビジョンを描くのがむずかしい。

給料が上がらないという現実のなかでも「不幸」にならないためには、「もっと贅沢できるように豊かになりたい」ではなく、「なにも望まないことで豊かになろう」と思うしかない。

 

要は、「手元にあるもので幸せを感じよう」。

若者が多くのものを手放し、旅行やクルマにカネを使わず、昇進にも消極的で、好きなことを仕事にしようとするのは、給料が上がらない日本で、コストカットによってせめて精神的に豊かになろうとする気持ちの表れだったのだ。

 

 

*1 内閣府『日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~』図表19

*2 消費者庁『平成29年版消費者白書

*3 日本生産性本部『平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査結果

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Shaurya Sagar