「子宮系カルト」と呼ばれるスピリチュアルにどっぷりハマっていた年上の友人が、他にもさまざまな種類のスピリチュアルや占いに傾倒し、さらに「多次元キネシオロジー」というヒーリングのセラピストにすっかり心酔するところまでを年単位で追いかけて、

「あぁ、そっか。こりゃ救えるとか救えないとか、そういう問題じゃないんだな」

と、ようやく私も気がついた。

 

時間がかかってしまったが、そのことに気づいてからは、もう友人に対して余計なアプローチは一切していないし、「目を覚ませ!」とも思っていない。

「自分こそが真実に目覚めている」と思い込んでいる相手にとって、「目を覚ませ!」という言葉ほどナンセンスに響くものはないだろう。

 

友人にとって、スピリチュアルは向き合いたくない現実から逃避するための手段に過ぎない。手段なのだから、心の平安を保つのに利用できれば何でも良かったのだ。

だから一つの沼から抜け出しても、似たような沼に次から次へとハマっていく。

 

彼女が求めてやまないのは、日常の憂さと先行きの不安を忘れさせてくれる魅力的なファンタジーだ。

何ならスピリチュアルではなく、今流行りの陰謀論でもいいのかもしれない。

 

スピリチュアルや陰謀論には、昔の漫画やアニメを思い起こさせる要素がこれでもかと詰まっていて、かつてオタク活動に勤しんだ身としては懐かしさを覚えてしまう。

中高生時代にSF系や異世界ファンタジー系のアニメを山ほど見て、漫画とラノベを読み漁り、二次創作にも親しんでいたせいか、私は現代のスピリチュアルや陰謀論の世界観にほとんど魅力を感じない。

霊的な力を信じたり、異次元を夢見る厨二病を思春期に拗らせた反動で、大人になってからはリアリストになったのだ。

 

そのスピリチュアル好きの友人は、私と逆だった。

彼女は「風の谷のナウシカ」以外の漫画を読まなかったし、アニメも見ない。「日本人作家が書いた本は読んでいられない」と言って、ラノベどころか小説さえ読もうとしなかった。だから免疫がなかったのではないだろうか。

私の目から見れば滑稽で出来の悪いスピリチュアルというファンタジーに、彼女は夢中になってしまった。

 

 

子宮系カルト教祖のブログを友人が勧めてきたのは、かれこれ10年近くも前のことだ。

彼女はその若い女性(当時)が書いたブログについて、「この世の真実が書かれてある」「生きづらさを抱える女性たちの救いになる」と、鼻息荒く語っていた。

その時「生きづらい」というキーワードが彼女の口から出てきた事に、私は少なからず驚いた。

 

その友人とは学生時代からの付き合いだったが、若い頃の彼女は「生き辛さ」を訴えるようなキャラではなかったからだ。

むしろ、「この世は私のためにある」とでも言いたげなほど傲慢な自信家で、「ここではない何処か」に夢を見る人間を心底バカにしていた。

 

けれど、そんな彼女も歳をとり、30代の終わりに結婚を考えた男性たちから立て続けにフラれ、仕事でも思うような成果を出せずに40代に突入すると、様子がおかしくなり始めた。

 

彼女は子宮系カルトと呼ばれるスピリチュアルにドハマりし、批判や忠告には一切耳を貸さず、大枚をはたいて教祖たちから「子宮の理論」を学んだ。

しかし、いくら「引き寄せの法則」や「設定変更」、「ご自愛」の実践に勤しんでも、そんなもので願望が実現するはずがない。ファンタジーは現実に何の効果も及ぼしはしないのだから。

 

それでもプライドが許さないのか、彼女は信じたものがインチキだったとは決して認めようとしなかった。

けれど、いくら対外的には去勢を張っていても、内心では失望していたのだろう。

次第に子宮系カルト教祖たちのブログのシェアはしなくなり、傍若無人な振る舞いや主張もトーンダウンしていった。

 

その様子を見て、「やれやれ。やっとスピリチュアルを卒業したのか」と思ったが、話はそう簡単ではなかったようだ。

彼女は子宮系カルトから別種のスピリチュアルに依存先を変えただけだった。

 

彼女が次にハマった多次元キネシオロジーによれば、引き寄せの法則をいくら実践しても望みが実現しない原因は、宇宙系遺伝という障害によりエネルギーが歪んでいるからで、ハイヤーセルフ(高次元の自分自身)とアルクトゥルス星人(地球人を導こうとしている高次元の宇宙人)からのメッセージを受け取り、ヒーリングによって宇宙系遺伝を調整すれば、現実が自分の望むように変化するそうだ。

 

要するに「自分に都合の良い現実を引き寄せたい」という目的は、子宮系カルトを信じていた頃から何も変わっていないのである。

 

今度こそは人生を逆転させると勢い込んだ友人は、数十万円を費やして多次元キネシオロジーによるヒーリングセラピーを学んだ。

そして講座を終了すると、それまでしていた仕事を辞めて、認定セラピストとしてヒーリングサロンを開業した。

 

ハイヤーセルフの声を聞き、運命の導きによってベストなタイミングで始めたそうだが、直後にコロナ禍が襲い、経営は軌道に乗ることがなく現在も休業したままになっている。

起業に失敗したことで、ハイヤーセルフも宇宙人も当てにならないと分かったはずなのに、それでも彼女はスピリチュアル頼みの生き方を変える気にはならないらしい。

 

スピリチュアルは裾野が広い。頭のてっぺんからつま先まで沼に浸かるカモは少なくても、浅瀬で楽しむ程度のライトユーザーなら大勢いる。

人数が多いということは、商売が成り立つだけの経済圏ができているということだ。同じ系列のファンタジーを信じる仲間だけを相手に商売をして、生きていくことも十分に可能である。

それなのに友人がヒーリングサロンの経営に失敗したのは、スピリチュアルビジネスの仕組みを理解しようとしないからだろう。

 

私は友人の迷走ぶりを通してスピリチュアル界隈を観察して来たが、スピリチュアルで稼ぐには、独自の物語を生み出す想像力が不可欠だということに早い段階で気がついた。

 

昔の新興宗教と違い、スピリチュアルでは強引な勧誘や信仰の強制をしない。

だからこそ、カモが自ら食らいついてくるエサを用意する必要がある。そのエサこそ、独創的かつ魅力的なファンタジーなのだ。

 

アルクトゥールス星人や引き寄せの法則など、以前から既にあるファンタジーを踏襲していたとしても、そこへ更に独自性のある物語を付け足さなければ、熱心な顧客の獲得はままならない。

何も考えずに他人が創作したファンタジーに乗っかっているようでは、山ほど居る競争相手に敗れてしまう。

 

その点、子宮系カルトを考え出した元風俗嬢も、多次元キネシオロジーを編み出した元ミュージシャンも、ちゃんとオリジナリティがあった。

 

子宮という臓器に神秘的な意味を持たせるやり方に新しさは無かったけれど、「子宮の声を聞く」という発想はキャッチーで新しかったし、「女は自分の機嫌を取ることにだけ集中していれば、男に愛されて繁栄する」と自己愛に徹したところも新鮮だった。

そして、それを言い出した教祖がセックスワーカーであったことも物語の背景にうまくハマり、提唱するファンタジーに説得力が生まれていた。

 

多次元キネシオロジーもそうだ。

キネシオロジーというヒーリング法と宇宙人が出てくる世界観はスピリチュアル界に昔からあるものだけれど、そこに「宇宙系遺伝」という新しい概念を編み出してくっつけることで、オリジナリティを出している。

 

スピリチュアルで商売をするには、そうやって新しいジャンルを自ら創り出していかないと、ブルーオーシャンには出られない。

自分の店の看板なのに、他人の名前を掲げて「認定講師」を名乗るようでは、一生うだつが上がらず教祖の養分として終わるだろう。

 

つまり、友人もスピリチュアルで商売していくのであれば、ライバルたちと差別化する物語を考えなければならなかったのだ。

「超次元キネシオロジー」でも「異次元ヒーリング」でも「幻魔系遺伝の調整」でも何でもいいが、ベースとなる多次元キネシオロジーから発展させて、オリジナルの物語を付け足しておくべきだった。

 

何の工夫もなく他人のやり方をただ真似て、成功できるほど商売は甘くない。

個性を打ち出す為に創意工夫が必要なのは、どの業界で何をやっても同じである。

 

他人の心を打つファンタジーを生み出すために必要なのは、想像力と、「生きづらさ」に悩む他人が何を求めているかを感じ取る嗅覚と、スピリチュアル界でウケやすいヒットの法則に迎合できる柔軟さだ。

いつまでも自分の生きづらさにばかりフォーカスして、周りをちゃんと見ようとしない友人には難しいのではないだろうか。

 

この先、友人がスピリチュアルの沼地から抜け出してこちら側へ戻ってくることを、私は期待していない。

50代に突入した彼女を取り巻く現実は今後一段と厳しくなることが予想されるが、冷たい風に当たるほど、彼女はより一層ファンタジーの温もりを求め、これからも彷徨い続けるのだろう。

 

 

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(2024/2/28更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

Twitter:@CrimsonSepia

Photo by :Jake Hills