年を取ると時間が経つのが早く感じるというはまったくそのとおりで、気が付けば年が明けて2023年になっていた。

21世紀問題だの恋愛レボリューション21だのと言っていたのが、ついこの前の気がする。でもそうか、もう23年も経つのか……。

 

今年のお正月、みなさんは初詣に行っただろうか。

いつもは朝ごはんを食べない人も、お正月くらいは、家族でちょっと豪華なおせち料理を食べたかもしれない。お子さんがいる方は、町内会の餅つき大会に参加したかもしれない。

 

でもお正月の非日常感を楽しんだ人でも、「年賀状を送った」という人は、もうほとんどいないんじゃないだろうか。

 

年賀状が廃れたいま、改めて思う。

たった50円で縁をつないでおけるなんて、年賀状は最高にコスパがいいコミュニケーション手段だったなぁ、と。

 

年に一度、年賀状のやりとりだけで「縁」を保てていた

小学生のころ、お正月の楽しみといえば、年賀状のやり取りだった。

毎年12月になると文具屋のかわいいスタンプやインクコーナーをくまなくチェックし、どうすれば一番かわいい年賀状をつくれるか、お母さんとよく相談していた。

 

原理はさっぱりわからないけど、特殊なインクを使ってはがきにスタンプを押し、そこをドライヤーで温めると、もこもこ膨らんで立体的になるものがお気に入りだった記憶がある。

 

仕事の付き合いが多い父親が出す年賀状は200枚?とかそれ以上で、母親と手分けして宛先を書くのも年末の恒例行事。

エクセルで管理して宛先を印刷するようになっても、大量の住所を管理するのはかなり大変で、年の瀬=年賀状の準備、というイメージだった。

 

そんな大忙しの年末を終え、新年を迎えると、今度はソワソワとポストをチェック。

女友だちからの年賀状はみんな凝ったデザインで見ているだけで楽しいし、あまりしゃべったことがない男子から年賀状が届いてちょっとときめいたり、がさつな先輩の字がきれいで驚いたり。

 

わたしは父親の仕事の都合で何度か転校したから、年賀状で昔のクラスメイトたちのようすを知れるのもうれしかった。

両親と「昔一緒にスキー旅行に行った××さん、覚えてる? きょうだいが増えてるよ!」「△△先生から年賀状が来てるね、勤務先が変わったそうだよ」なんて話をして、思い出話にも花が咲く。

 

年に一度、はがきというかぎられたスペースに、ちょっと近況を書き込むだけ。

それでも年賀状のやり取りがあるだけで、その人との「縁」は、確実に保たれていたのだ。

 

最後に年賀状を送ってからもう15年が経っていた

しかしだれもが携帯電話をもち、個人情報の取扱が厳しくなってくると、年賀状のやり取りは少しずつ減っていった。

 

1991年生まれのわたしが最後に年賀状のやり取りをしたのは、高校生のときだっただろうか。いまから15年ほど前の話だ。

そのときはもう、0時ジャストにデコメ(デコレーションしたメール)を送るのが当たり前になっていて、サークルメンバーやバイトメンバーとはmixiでつながっていた。

 

当時は「メールが年賀状に取って代わった」と言われていて、メールは年賀状の上位互換かのような扱いをされていた気がする。

年賀状なんて古くて非効率、いわゆる「オワコン」状態だった。

 

そして2023年のいま、「年賀状」というものがかつて存在し、ウキウキしながらポストをのぞいたことなんて、多くの人が忘れてしまっているだろう。

せいぜい、メガネ屋や美容院から、新年の挨拶を告げるハガキが数枚届くくらいじゃないだろうか。

 

でもね、2023年だから思うんですよ。

年賀状って、縁をつなぐ手段として、コスパ最強だったなって。

 

一度会ったっきりですぐに縁が切れてしまう人たち

話は変わるが、ありがたいことに、ドイツに住んでいるわたしにわざわざ会いに来てくれる学生が数人いた。

わたしのブログの読者で、「ドイツ(もしくはほかのヨーロッパの国)に留学中なので、ぜひ会いたい」と。

 

こっちまで来てくれるのであればとくに断る理由もないので、何人かと実際に会ってみた。

彼・彼女たちは起業したい、フリーランスとして自由に生きたい、といった夢をもっており、わたしと会うことでなにかしらの刺激をもらいたかったようだ。

 

期待に添えたかはわからないが、聞かれたことは答えたし、伝えられることはできるだけ誠実に伝えた。学生たちは礼儀正しく、「今日はありがとうございました」と笑顔で去っていく。

……それで、終わり。

 

わたしと会ったことをブログやSNSにアップはするものの、数か月、数年後に、「実際に起業しました」「結果的に就職しましたがあのときのお話は勉強になりました」とか、そういう報告をもらったことは一度もない。ただの、一度も。

 

ちなみに以前、映像系の専門学校の課題作成のためにインタビューしたいという学生さんがいた。

時間をつくりオンラインでインタビューを受け、「完成したら見せてくださいね」「はい、もちろんです!」と約束したのに、完成した課題を送ってくれることはなかった。

 

そう、こうやって、その後一切連絡をしてこない人が多い。本当に多い。

 

とはいえ別に、わたしは腹を立てているわけではない。

ただ、もったいないと思うだけで。

勇気を出して連絡をし、わざわざお互い時間をつくって会い、せっかく縁ができたのに、それっきりにしてしまうなんて。

 

気が付いたらお世話になった人たちと疎遠になってしまう理由

……なんて思うが、そういう不義理をしてしまっているのは、わたしも同じだ。

 

ライターとして右も左もわからないわたしにチャンスを与えてくださった方。

お仕事の契約が終わってもずっとブログを読んでくださっていた方。

はじめての出版の際、ずっと優しく支えてくださった方。

ドイツでは手に入りづらい日本語の専門書を譲ってくださった方。

 

お世話になった方たちのことはよく覚えているし、数年経ったいまでも、心から感謝している。

でもその人たちとの縁は、残念ながらほとんど切れてしまっている。

 

そのときは、ちゃんと丁寧にお礼をいう。

でもその後、連絡するタイミングがないのだ。

 

本の出版が決まったときは、思いつくかぎりいろいろな方に連絡を取り、本を送らせていただいた。

 

しかしそういうきっかけでもないと、「お世話になりました」と伝えたっきり、次に連絡する機会を失ってしまう。

そして気づいたら数年経ち、いまさら連絡するのも気が引けて、お世話になった人たちと「他人」になってしまう。

 

勇気を出してメールすることはできるが、突然「5年前にお世話になった者です。お元気していますか」なんて連絡がきたら、相手もびっくりするだろう。

わたし自身、なにを書いたらいいかわからないし。

 

挨拶がてらメールすると相手は返事をしなきゃいけなくなるから、なんだか申し訳ない気もするし。

……という感じで、しぜんと疎遠になってしまうのだ。

 

たった50円で縁を大切にできた年賀状はコスパ最強

LINEやSNS、メールをつかえば、すぐにまたつながることができる。

でも、「わざわざ連絡するほどのことでも」と思って、結局なにもしない。

 

みなさんにも、気づいたら縁が切れてしまっていた、大切な人やお世話になった人がいるんじゃないだろうか。

わたしにはいるよ、たくさん。

 

初めての出版で支え続けてくれた編集者の方や、初めての取材の依頼をくださった編集者の方。

もっと遡れば、好き嫌いが多くて給食中しょっちゅう泣いていたわたしを気にかけてくれた小学校の先生や、お姉さんみたいな存在だったピアノの先生。

 

自分でも驚くくらい、鮮明に覚えている。

大切な人たちだったのに、もう、他人になってしまった。

 

そう考えると、年賀状ってコスパ最強の縁つなぎ手段だったなぁ、としみじみ思う。

お歳暮やお中元は結構お金がかかるけど、年賀状って50円だしね(調べたら現在は63円)。

 

せっかくつないだ縁を、切りたくない。大切にしたい。

でも大切にしたいと思っても、大切にする方法がわからない。

だから、「こんなとき年賀状があったらなぁ。手書きで一言、『元気でやっています』と伝えられるのに」と思うのだ。

 

お世話になった人との縁を大切にしていくために

別にわたしは、だれかに連絡を取ってそのツテを利用したいとか、またお仕事につながるといいなとか、そんな下心はいっさいない。

 

ただ単純に、お世話になったことをちゃんと覚えており、いまも頑張っていることを、大切な人たちにほんのちょっとでも伝えられたらいいな、と思うだけ。

それでもし相手が、「懐かしいな、いい思い出だ」と幸せな気持ちになってくれたら、これほどうれしいことはない。

 

「そんなにいうなら年賀状出せばいいじゃん」と思うかもしれないが、このご時世、住所を聞くのはかなりハードルが高い。

いまはもう、新学期にクラスメートの住所と電話番号が配られるような時代ではないからね。

 

ちょっと仕事をしただけの相手に自宅の住所を聞かれたら、だれだって身構えるだろう。少なくともわたしは、「なんで自宅の住所を?」と怪訝に思う。

「年賀状のために住所を」と言ったら、相手はきっと「ありがとうございます」と教えてくれるだろうが、「自分も送るべきかな、年賀状書く予定なかったのに……」と内心舌打ちをしているかもしれない。

 

だから、「じゃあ久しぶりに年賀状でも」と筆を執るのはむずかしい。

 

たった50円。年間、たったの50円。

それだけで縁を維持できるコミュニケーション手段を、わたしたちはもう、失ってしまったのだ。それが、残念でならない。

 

いや、もしかしてわたしが深く考えすぎているだけで、住所を聞いたら案外あっさりと教えてくれるのだろうか。

「久しぶりに年賀状をもらってうれしかったです」なんて、喜んでくれるのだろうか。

 

それならば来年は思い切って、ドイツから年賀状を送りたいと思う(いや、クリスマスカードのほうがいいか?)。

今後もずっと、お世話になった人への感謝を忘れないために。

 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

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