最近では、仕事が専門化してきているので、「上司より現場の部下のほうが専門能力が高い」という傾向が強くなっている。
一昔前は、そこまで普通ではなかった。
例えば定型事務、工場での作業などは、必要な知識が大きく変化しないので「経験が長い人」のほうが有利だった。
あるいは訪問営業なども「顧客とのつながりが濃い」経験年数が長い人物が、仕事の成果を出しやすい。
しかし、昨今の非定型業務、例えばシステム開発、マーケティング、データ分析、新規事業の立ち上げなどの仕事では、一概にそうとは言えない。
「その場での課題解決力が重要な仕事」では、地位や経験年数によらず、最新技術・アイデアの創出・新しい技術への適応スピードなどに優れている「つねに学習し続けている人物」が、圧倒的に能力面で高くなる。
例えば、医師の世界でも、このような傾向が見られる。
ハーバード・メディカルスクールの研究チームは、医師が提供する治療の質と、医師の経験年数の関係を調べた。
すると、経験が豊富なはずの、年長の医師のほうが経験年数の少ない医師と比べて知識も乏しく、適切な治療の提供能力も低いことがわかった。
経験を積むほど医師の能力が高まっているという結果が出たのは、62本の研究のうちわずか2本だった。
これは、看護師においても同様で、極めて経験豊富な看護師でも、平均してみると看護学校を出てほんの数年の看護師と治療の質は全く変わらないことが示されている。
(出典:アンダース・エリクソン 超一流になるのは才能か努力か?)
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これは、知識労働者は「学習」を怠ったとたん、平凡になってしまうからだ。
一般的には能力的に優れ、実績をあげた人間が、上司のポストに就く。
しかし、多くの上司は、その地位を得ると徐々に知識の更新を怠るようになる。
忙しい、と言うのもあるが、日常的な仕事を部下に任せ、現場に出なくなることが「管理職」だと認識する人が結構多いからだ。
そうなると、もうおしまいだ。
例えば
「部長が主催するセミナー・勉強会」
「本部長発信の、事例研究」
「課長が執筆した記事」
などが、会社に存在しているだろうか?
あまりないだろう。
そういったケース担当するのは、ほとんどが現場の担当者だ。
実際には、偉い人たちは勉強会においても、出席だけはするものの、腕組みをして、後ろのほうで聞いているだけ、というケースも多い。
そんな、現場を持たず、手を動かさない上司は、専門家としては、とうに旬を過ぎている。
「管理者として働くようになるのだから当然」と言う方もいるかもしれない。
が、往々にして、日本の管理職は別にマネジメントの専門知識を有しているわけでもない。新しいマネジメントのやり方を試みるわけでもない。
単に「あがったポジション」になっている。
こうした状況は「成果をあげろ」と一声言うだけで優秀な部下が動いてくれる、大きな会社でも顕著だ。
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さて、ここからが本題だ。
「頭は悪くないけど、専門家としては、はるか昔に旬を過ぎている上司」がいる組織には、ある悲劇が起きる。
どのような悲劇なのか。
それは「見当違いの、細かい指摘ばかり出す上司」の出現だ。
彼は、かつて社内で昇進するほど仕事ができたのだから、知能としては高い人が多い。
だから、下の人たちが提案することの論理的な矛盾や、欠点には気づく。
しかし、彼の知識は昔のもの。
だから、「実のあるアイデア」や、「良い解決策」がだせない。
つまり「アイデアは出さないくせに、リスクや細かい指摘ばかり言う、ダメな責任者」ができあがる。
知識はないのに、権力だけはある。
周りはそういう人に、困惑するしかない。
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管理職が「あがったポジション」を満喫するのが許されたのは、過去の話だ。
現在の「専門家集団」としての知識労働者をマネジメントするには、自分自身も専門家として学習を続けなければならないし、そうでない上司は尊敬を集めることができない。
「あの人、昔は優秀な技術者だったみたいだけどね」と言われてしまう。
もちろん、学習を続けるのはしんどい。
「管理職になってまで、学習を続けたくない」
「いつまでも職人ではいられない」
と言う人もいるだろう。
でも、そうならば。
「自分の知識はもう古い」と自覚すること。
遅かれ早かれ、部下の仕事に余計な口を出して、「専門家たち」を困惑させる存在になってしまう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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