人間というのは難しい生き物だなと常々思う事がある。
例えばである。風邪を引いて健康のありがたさを実感したという人は多いだろう。
実際、健康というのはある時は何も気にならないクセに、無くなるとメチャクチャに不便だ。
ほんのちょっと喉が痛いだけでも精神的にはかなり食らうし、ほんのちょっと熱があるだけで頭は全然働いてはくれない。
こうして健康の素晴らしさを声高に叫びたくなるような経験をしたとしてもだ。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言うべきか…しばらくすると健康の事は忘れ果ててしまうのが人間という生き物である。
痛みを押し隠して走っていたら、学びしかなかった
なんでこの話をしたのかというと最近になって僕は右膝を痛め、健常のありがたさを痛感しているからだ。
原因は日々のランニングである。いわゆる故障というやつだ。
故障というのは誠に不思議なもので、元気だった頃は雑に扱っても何も感じなかった程度の負荷ですら痛くなる。
こうなってみると、それまでは「今日は疲れてるから走りたくないなぁ」だなんて言っていた癖に、今度は「走りたいのに走れないのが苦痛」と、まるで真逆の事を言い始めるのである。
人間、本当に無い物ねだりというか…都合よくイイワケを創造するように出来ているなと思う。
何が駄目なのかが超速でわかる
そういう事もあって本来ならば安静にして休むべきなのかもしれない中、痛みを押し隠して走っていたところ、痛みの中には学びが溢れているという事を理解した。
元気だった頃は雑にバシンと着地していたのだが、膝に障害を抱えるようになった今それをするのは自殺行為である。
故に慎重に慎重に接地していたところ…徐々に何をしたら膝が痛くなるのかを身をもって知れるようになってきたのである。
それまでは何をどうすれば正しく走れるのかの指針のようなものがわからなかった。
本やら動画やらで色々と研究はしていたのだが、それが本当に正しいのかどうか判断ができなかったのである。
しかし今はリアルに何をしたら駄目なのかが即座に反映される。
ヤバい脚の使い方をしたら全てが崩壊するという緊張感の中で走ると…正しい身体の使い方が超速で学べるのである。
ピンチはチャンスって、こういう事なんじゃないか
「ピンチはチャンスって時々聞くけど、ひょっとしてこういう事なのか…?」
決して褒められた事ではないとは知りつつも、僕は痛みから強い学習効果を実感した。そして
「ひょっとして、人が過ちを繰り返すのは”痛み”から学習しないからなのかもしれないなぁ」
という着想を得た。
以前、転職サイトの人と話した際に「人間関係の悩みでの転職はポジティブな結果を生まない事も多い」というような事を聞いたことがある。
僕がその話を聞いていた時は「まあ人間って合う合わないがあるから、人間関係をリセットしたら上手くいく事もあるんじゃないか」と思ったのだが、彼は
・人間関係の悩みで転職する人は当人も問題を抱えている事が多い。そして同じような過ちを繰り返しがちだ
・失敗した際に強烈に反省して行動が変わるのならまだしも、大抵の人は変わらない。だから大体の人は転職先でも同じような事をやって、同じように人間関係を崩壊させる
・人間関係の悩みで転職する人は、本当に慎重に行動した方がいい。特に被害者意識が強い人はヤバい
と言っていた。
同じミスを繰り返してしまうのは……
正直、この時は「問題児は問題児だからなぁ」ぐらいにしか思っていなかったのだが、冒頭の「喉元過ぎれば熱さを忘れる話」を考えると、転職でもって人間関係をリセットしてしまうのは、悩んだり学んだりする機会損失になっているのかもしれないなと今では思う。
もちろん……拗れに拗れてしまった人間関係を延々と続けるのは単なるやせ我慢である。
ただ……その破綻した関係の中で痛みに悶え苦しみつつ、その中で”何か”を一つでいいから掴んでこなければ……
人は同じような事態をまた引き起こしてしまうのかもしれないなとも思う。そういう意味では人間関係を早々にリセットし続けるのは確かに駄目なのかもしれない。
人格破綻は仕事障害と言えるのかもしれない
問題というのは誤った行為の繰り返しによって生じる現象だ。
例えばランニングにおける膝の痛みは間違った走り方で過度な負荷をかけつづけた結果である。
これはわかりやすいランニング障害だが、実は人間関係においても同様のものがあるんじゃないかなと自分は感じている。性格の悪さである。
世の中には割と信じられないような事をする人間がいる。
僕もこれまでアレな人間を何人か見てきたが……いま思うとあれは自分自身が生み出した痛みに適切に向き合えなかった結果なんじゃないかなと思う。実際、そういう人間は職場の外でも評判があまり良くなかった。
それこそランニング障害ならぬ仕事障害とでもいおうか……そういうヤバい人間は結構いる。
医者は狭い業界なので、どこどこ病院の○○はヤバいみたいな話はよく聞くのだが、逆にそういう人間をどうしたら修正できたかみたいな話は全くといっていいほどに聞いた事がない。
人間の悩みのほとんどが人間関係に起因するというが、そんなにも皆が悩んでいるのに全くといっていいほどに具体的に解決された方法が流れないのは何でなのだろう?
その鍵は恐らく解決方法が一般論にはそぐわないからだ。
正解は一般論から踏み込んだ場所にある
実は痛みを押し隠して走る前に、ランニング障害の書籍を多数とり寄せて読んだのだが、面白いことにどれも「こうすれば治る」と断言していなかった。
みな一様に「休め」とか無難なアドバイスは言うのだが、実はそれでは原因は解消しない。
「貴方の走り方のこういう部分が駄目なので、こういう風に修正すれば傷まないかもしれません」という具体的なアドバイスはどこにも記載がなく、僕はそれを読み解くのにエラい苦労した。
勘違いして欲しくないのだが、これは治療者が障害を抱えた人間に適切なアドバイスができないという話ではない。
キチンとした専門家にかかれば、個別でランニングフォームなどの分析を通じて、個々人に沿った適切なアドバイスは行われる。
ここでのポイントは、そういう具体的で親身になったアドバイスは本には書きようが無いという事である。
具体的すぎるアドバイスは一般論ではもはや無い。そして一般論ではない事は下手すると過ちにもなりうるから、本には書きにくい。
そしてそういうアドバイスは個々人の間でだけ共有され、一般論の世界には表出しない。
この一般論の世界には表出しないアドバイスこそが、本当の問題解決に繋がる何かである。そしてそれが親密に行われる場所が、師弟関係だ。
具体的なアドバイスは大変に貴重
師弟関係やメンター精度が最近になってなぜ尊ばれるようになったのかというと、それが一般論からもうちょっと踏み込んだ事が示唆されるからのように自分は思う。
人が何かから本当の学びを得るためには、この踏み込んだ部分が肝心だ。
なぜなら踏み込んだ意見というのは、当人以外にはある意味では的外れなものだから。的外れ故に、本やインターネットの世界ではまず表出しない。だから本に書かれている事は”なんか無難なこと止まり”なのだ。
そもそも他人のアドバイスがなぜ貴重なのかといえば、それが自分の目で見て考えた事ではないからだ。
それらの中には的外れな意見も当然あるが、その的外れな意見ですら上手に扱えば「そうか…こういう風にも考えられるのか…」と、思考を転換するのに使用できる。
他人の意見は思考の枠を外すのに大変に役立つ。
悩みを抱えるのは大切だが、悩みの中で堂々巡りをし続けるだけだと、人は病んでしまう。
そういう状況に陥らないためにも、的外れであったとしても誰かからのアドバイスが参考になる。
最後の最後は当人が解決するしかない
そして結局のところ、それらを活用して問題を本当に解決できるのは…問題を引き起こした当人だけだ。当人が反省して改善しなければ、周囲が何をやっても効果は無い。
ランニングであれば良い走り方を他人がどんなに教えた所で、それが自分で出来なければ障害は本当の意味では解決しないし
人間関係の問題は、その人の性格がどんなに悪いかを誰かが指摘したところで、それを受け入れる度量のようなものがなければ解決しない。
痛みの中で当人が悩み、悩みを抱えて周囲に相談し、それでもって改善を何度も何度も繰り返す。
このプロセスをやらせる事こそが本当の意味での問題児解決法なのだろうが…
これを悩みを抱えた人にアドバイスしたり、問題を引き起こした当事者にやれと言うのは…「私が問題児だって言うんですか!」とパワハラで訴えられてしまうかもしれないからちょっと”普通は言えない”だろう。
そういうわけで、無難な受け答えや「休め」のような一般論が幅を利かせるのだろう。
いやはや、難しいものである。結局最後の最後は、全てが自分次第だという事なのだろう。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
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noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます
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