4月の入学、入社シーズンになると決まって思い出すことがある。

新社会人生活2年目から30代前半まで、10年以上も続いた苦い借金生活。その行き着く先は「闇金」だった。

あれから20年以上たった今も、最後の闇金業者との一挙手一投足が鮮明に頭に浮かぶ。

 

昨今の闇金は、顔も素性も分からない相手からサイトと他人名義の口座などを介して金を借りる「ネット型」だが、2000年代前半までは、トサン(利息が10日で3割)、トゴ(同5割)といった暴利をむさぼる闇金が、主要駅周辺に堂々と事務所を構えていた。いうなれば「店舗型」だった。

 

今から約25年前、確か31~32歳だったと思う。22歳で公営ギャンブルを扱う媒体に入社して以来、借金を重ねるようになった。

周囲にも少なからず似たようなギャンブル&夜の街仲間がいて、借金が雪だるま式に増えていっても「まあ、何とかなるだろう」と危機感は薄かった。

 

昼夜を問わないギャンブル漬けに加え、夜な夜な繁華街、色街に繰り出す生活を繰り返せば、借金額が膨らむのは当然。

銀行系カードローンに始まり、信販・クレジット会社系→サラ金(現在の消費者金融)→街金(正規業者だが、金利は出資法の上限ぎりぎり)と、金を「引っ張れる」場所を求め、主要駅前周辺や繁華街をさまよう日々が続いた。

 

その間、貸しやすい理由を見繕っては友人知人からも引っ張った。不義理、非道もいいところだ。

挙句の果てには大口の●●ローンを利用した、脱法行為まがいの金策にも身を投じた。

ピーク時の借金総額は約1500万。そして、考え得る金策がついに尽きた時、リスクを覚悟で門を叩いたのが闇金だった。

 

今も鮮烈に記憶しているのは、冒頭にも書いた「最後」の闇金業者とのやり取り。

その闇金は、神田駅から徒歩10分ほどの、古びたマンションの一室にあった。

今のように、スマホで難なく目的地まで行ける時代とは違い、当時は電信柱の板金プレートに記された町名、番地を頼りに目的地を探し出す時代。夕刻のうす暗い雑居ビル街を徘徊した末に、ようやくその闇金業者にたどり着いた。

 

神田駅は新橋などと並ぶ、都内でも屈指のサラリーマンの街。同駅周辺の飲食街では、晴れて社会人になった新入社員の歓迎コンパが、そこかしこで開催されていた。

期待と不安を胸に、先輩社員や同期らと、居酒屋やカラオケ店で元気にはしゃぐ新入社員たち。そうしたまぶしい光景が自分にもあったことを思い出しながら、「最後」の闇金業者の門を叩いた。

 

「●●商事」と記されたドア横のブザーを鳴らすと、まだ20代と思われる体育会系の男が扉を開いた。

「先ほど電話した●●ですが」。意外にも、男は礼儀正しく、「どうぞ、中へ入ってください」と私を部屋へと導いた。

その闇金業者の事務所はワンルームマンションだった。縦長の部屋の奥に、経営者と思われる60代の男が座っていた。

 

鋭い視線を浴びせるその男は、白髪交じりで角刈り。それまでに何軒も、闇金の事務所をのぞいてきたが、対応する男たちは皆、スーツ姿だった。

しかし、菅原文太を白髪にしたような、この角刈りの男は、上下とも黒のジャージー姿。足元をみると、素足で雪駄(せった)を履いていた。

 

木製の、どこか豪華な机を挟んで対峙すると、角刈りの男は「これ、書いてくれるか」と申込用紙に視線を送った。

住所、氏名、職業、緊急連絡先など、一通りの個人情報を記入すると、男は「お宅は今、青森に住んでいるのかい。それじゃ(融資は)無理だな。10万くらい、すぐに出してやりたいんだが……」と即座に言った。

 

当時は、闇金の広告が、雑誌やスポーツ紙はもちろん、それこそ公共交通機関である路線バスの車内広告にも堂々と掲示されていた時代。

電信柱や公衆電話ボックスには、ホテトル(今のデリヘルか)や何社もの闇金のチラシがパタパタ貼られていた。

 

そのどこかで目にした

「(貸金業登録)東京都知事●●」

「誰でも貸します!」

「ブラック歓迎」

「即日融資」

「金利8%」

などと、夢と希望を抱かせる広告を出していたのが、この●●商事。

この最後の頼みの綱と思われた闇金の角刈りの男から、まさかの融資NGを通告されたシーンは、今も鮮明に覚えている。

 

角刈りの男は、「青森から戻ったら、また来てよ」と、私の目を見据えて言った。直立不動で立っていた若い男に向かって、「お帰りだよ」と告げると、若い男は丁重にドア付近まで見送ってくれた。

推測だが、最後に門を叩いたその闇金は、金融を”しのぎ”とするヤ●ザで、角刈りの男は親分、体育会系の20代は若い衆だったに違いない。

 

私のような末期の多重債務者であっても、相手の目を見て、誠実に対応する姿勢は、違法な闇金業者とはいえ、筋が通っている気がした。

時代の違いと言えばそこまでだが、リスクを承知で事務所を構え、顔をさらして金を貸していたのが、2000年前半までの闇金業者。

暴利をむさぼる違法業者には違いないが、ネット経由で素性も居場所もさらすことなく、中には卑劣な手段も辞さない業者もいる昨今の闇金とは、確かに違う存在だった気がする。

 

それはともかく、本来なら最も審査が甘い、裏を返せば、債権回収に自信があるはずのヤ●ザ金融に門前払いを食らったことで、現実を直視することができたのは何とも皮肉。

その意味で、相手の心中は別として、ピシャリと融資を断ってきた、あの白髪交じりの角刈り男には、少なからず感謝の思いがある。

 

結局、その神田のワンルームマンションでの出来事を機に一念発起。自ら債務整理に動き、社会復帰の扉を開いた。

最初に利用した新橋のトイチの闇金は、元本の半額払いで完済扱いに。

競馬が共通の趣味だったその闇金経営者は、「俺が言うのも何だけど、闇金はやめときなよ」と言っていた。

二軒目の神田の闇金は、交渉で利息カットに。以下、可能な限り、自ら足を運び、債務整理を行った。

 

その後、債務整理を手伝ってくれた弁護士の後輩に「先輩、闇金には不法原因給付で、一切返済する必要はないんですよ。法的には、すでに払った金も取り戻せますよ」と言われた。

ただ、当時は勤務先や友人、知人に多重債務の事実を知られたくないという思いが強く、穏便に済ます道を選んでしまった。若気の至りで、今は猛省している。

 

振り返れば、銀行、信販、クレジット会社、サラ金、街金など、金を借りた正規の金融業者は20社以上。

友人、知人に借りる当てがなくなると、最後の手段と闇金に手を出した。闇金を一社回るごとに、「これが最後」と思いつつ、気づけば計7社の闇金からつまんでいた。

 

先にも書いたが、自転車操業のピーク時は1500万円(住宅ローンをのぞく)。

その間、いかに無駄な利息を消費したか、また何より大切な人の心(信頼)を失ったか。

ある友人から金を借り、約束の返済期限を守らなかった際、「お前がそういうヤツだとは思わなかったよ」と冷たく言われた。今も頭から離れない、ズシリと重い一言だった。一度失った信頼は、恐らく二度と取り戻せない。

 

先日の夕刻、池袋の繁華街を歩いていると、リクルートスーツ姿の新入社員を囲んだ集団が、そこかしこにいた。皆、不安を抱きながらも、いい目をしていた。20年以上も前に、神田駅で見たあの光景と同じ景色だ。

かくいう私は、今も自堕落な生活を変えられず、少なくない借金を背負っている身だが、闇金にだけは手を出していない。それだけが唯一の救い、自慢(誇れることかい!笑)だ。

 

ただ思うことは、新入社員に限らず、若い人たちには、引き返せない道に行って欲しくないこと。闇金の利用もそうだが、昨今問題の詐欺加害や人間関係で人生を棒に振るなんて、あってはならない。

明暗を分ける「ここ一番」での判断は自己責任。不安と希望に満ちた若者たちを見て、「ここ一番は冷静な判断と勇気ある行動を」と願わずにはいられない。

 

「お前が言うな!」なんてお叱りの声が聞こえてきそうですが(笑)。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

小鉄

某媒体で公営ギャンブル業界や芸能界など幅広く取材。

現在はフリーの執筆者として、「博打で飯が食えるか」をテーマに奮闘中。

まあ無理だろうな~(笑)

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