とある起業家から聞いた話である。創業間もないころ、戦略コンサルティングファームの代表者に良い組織をつくるためにどうすれば良いか聞いたところ、カトリック教会を研究することをすすめられたそうだ。

カトリック教会は、西欧で最大規模と言われ、2000年もの間継続している組織である。最も成功した組織と言っても過言ではないだろう。「最も成功した組織」であれば「良い組織」として学べることも多分にあるはずだ。

 

その起業家は、成功の秘訣は聖書(バイブル)にあると考えた。そして、自身の会社のバイブルとなる経営理念・価値観をまとめたウェイを作成し、ウェイを中心に据えた経営を行った。彼が作った組織は30年経った現在も成長を続けている。

 

古くから続く組織には成功の秘訣がある。そして、その秘訣は現代の組織にも通じるのである。

ところで、カトリック教会よりも長く続く組織がアジアにはある仏教僧団(※1)である。仏陀、あるいは、釈迦と呼ばれる人物が2500年前に創設した組織だ。

 

経典(※2)を通じて伝わる釈迦の説いた教えは含蓄に富み、現在も多くの人を魅了している。一方で、釈迦が作った仏教僧団についても、優れた組織運営の秘訣があるはずだ。その秘訣も経典の中から読み取れるはずだが、カトリック教会のそれと比べると、一般的にはあまり知られていない。

また、釈迦創設当初からの組織運営だけでなく、仏教がインドから中国を経由して日本に伝わってきた中で、中国や日本独自の進化を経た組織運営方法も生まれているが、これも同様である。本稿では、現代に通じる仏教僧団の優れた組織運営を紹介する。

 

仏教僧団に学ぶパーパス経営

良い組織とはどのような組織だろうか?組織は何かしらの目的を持って組成させるもので、その目的を実現できる組織が良い組織であろう。

アメリカの経営史学者アルフレッド・チャンドラーが「組織は戦略に従う」と述べているように、組織は実現したいものを実現できるように作っていく必要がある。昨今のトピックでいえば、パーパスの実現を目指せる組織ということだ。

 

仏教僧団はまさにこのパーパス実現を徹底的に意識して設計された組織なのだ。仏教僧団の目的は、究極的には「煩悩を消す(悟る)こと」であり、そのためには修行が必要なので「修行者が修行に専念できる環境をつくること」が、組織の大前提となっている。

 

修行に専念するための組織設計とは

修行者にとって一番重要なのは、修行時間の確保だ。修行者は在家の生活の中では十分な修行時間が確保できないと考え、出家して仏教僧団に加わるのである。

しかし人間は、社会生活を送るうえで様々な活動を行う。特に、生命維持のために必要な活動は省略することができない。仏教僧団は、そういった必須の活動を最小限にし、修行者が思う存分に修行できるように環境設計されている。

 

代表的なものが食事である。仏教僧団では生産活動を一切行わず、一般社会から余り物を分けてもらう托鉢のみに調達方法を限定した。托鉢は順番を決めて行い、午前中に集めた食料を午前中に食べる。集めた食料はすべて食べきり、残して保存をしたりはしない。

こうすることにより、托鉢の当番でない者は修行をすることができるし、当番の者も担当する時間は限られている。また、保存物の管理なども発生しない。生きるために必要な最低限の食事を効率的に実現することを優先した仕組みになっているのである。

 

食料以外にも衣服や居所なども分けてもらったものを利用する。余談になるが、財物を寄進する行為を仏教とのつながりの深いサンスクリット語ではダーナと言う。英語のdonationと同じ語源を持つと言われている。また、ダーナは音写では旦那、意訳では布施(布を施す)と漢訳されている。

 

集団生活においては、意思決定が必要なこともある。仏教僧団では、意思決定の仕組みも、修行以外の活動に関与しすぎないように、きわめてシンプルにルール化されている。仏教僧団に加わった年次の早い者が意思決定を行う、ということだ。年齢や教団に加わる前の社会的地位、修行の進度などに左右されず、解釈の余地がなく一意に決まるようになっているのである。

 

あなたの組織はどこまでパーパス実現に向き合っているか

このように、仏教僧団では修行以外の時間を最小限にすることが優先されている。修行に専念できる環境を実現するという組織の目的を果たすことを念頭におき、組織運営のルールが設定されているのである。パーパスの実現のために設計された組織なのである。

VUCAの時代と呼ばれる先行きが不透明な昨今、企業は生き残るためにイノベーションの実現を目指し多様性のある組織作りを志向している。多様である一方でブレない軸がなければ組織は空中分解してしまう。それが企業の目的であるパーパスであり、パーパス経営が注目を集めている背景である。組織の目的に共感して多様な人材が集うのである。あなたの組織はその目的を果たすために適した設計がなされているだろうか?

(つづく)

 

 

(執筆:河田 一臣)

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現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
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岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

グロービス経営大学院

日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。

ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。

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Photo by:Kumiko SHIMIZU

 

参考文献

※1 仏教僧団

仏教で最も重要なものを三宝という。仏・法・僧の3つである。「仏」は仏陀、つまり仏教の教祖である釈迦のことである。また、大乗仏教においては最終目標でもある悟った人を意味する。「法」は釈迦が悟った真理である。仏陀の教え、仏陀になるための教えとも言える。「僧」は僧伽(サンガ)と呼ばれる仏教僧団のことである。仏教創成期の仏教僧団は出家者のみで構成され、修行に専念する集団であった。

※2 仏教の経典

仏教の経典は3種類あり、三蔵と呼ばれる。釈迦の教えをまとめた「経」。仏教僧団の運営ルールを定めた「律」。釈迦の教えの注釈や解釈をまとめた「論」(いわゆる「アビダルマ」)。経と律には釈迦が説いた内容が含まれている。西遊記にも出てくる「三蔵法師」とは、この三蔵に精通した人物のことを指す。