先日、『日本人は「無能な同僚」がとても嫌い。』という記事を拝読した。

 

日本の和を重んじる集団主義が破綻しつつあり、「無能と同様の条件で働くのにはうんざり」と考える傾向は、米国人よりも日本人のほうが強いのだという。

それを踏まえ、記事は「これからのマネジメントや、日本社会の運営はむしろ、『個人主義志向』を前提として考えたほうが良いのかもしれません」と締めくくられている。

 

なるほど、たしかに「だれかの尻ぬぐいをさせられるのはゴメンだ」「仕事を早く終わらせるとさらに仕事が増えるからやる気がなくなる」のように、集団への献身を拒否する系のポストはよく見かける。

でもそれは、日本が「個人主義志向」になったからなのだろうか。

 

わたしはむしろ、集団主義だからこそ、みんなが自分勝手になっていったように思える。

 

集団主義は仲間意識と相互フォローで成り立つ

そもそも集団主義とはなにか。

この記事では、自分の意思や得よりも全体にとっての利益を考えて動くこと、組織に対する利他的な考え、と定義したい。

 

この集団主義を成立させるには

①同じ属性に対する仲間意識

②集団が個人を守る

という2つが前提にある。

 

集団主義は、仲間を見つけてグループになることから始まる。そういう意味で、日本人は基本的に、仲間意識がとても強い。

同郷、同期、同年代、同じ大学出身、オタク仲間など、なにかしら共通点を見つけて仲間意識を持ち、集団を作っていく。

 

仲間たちがいる場所なのだから当然強い帰属意識を持ち、「自分はA社の社員だ」ということがアイデンティティとなる。で、「みんなのために」という意識が芽生える。

そして集団は基本的に、「所属している個人を守る」という性質を持つ。セクハラ被害者を黙らせて、そもそもなかったことにしようとしたり。

 

仲間意識があるんだから、仲間を守るのは当然。守ってくれないならだれも集団のために行動しないもんね。

そうやってお互いを守ることでさらに一体感が高まり、ひとつの集団として強固につながっていく。

つまり日本社会は、「同じ属性の人で集まり」「集団内でお互いを助け合う」ことで成り立つ場面が多い。

 

できない人間が得をするなら貢献する気がなくなるのは当然

しかしそれは裏を返せば、「なにもしなくても仲間ができて、その後は集団が守ってくれる」というイージーモードでもある。

 

たとえば転校したら、だれかしらがクラスの仲間に入れようと、声をかけてくれる。

入社したら、どこからともなく面倒見のいい先輩がやってきて、あれこれ世話を焼いてくれる。

なかなか馴染めなくとも、出身地が近いとか同期だとか同じ大学卒業だとか、共通の属性を持つ人が見つかれば、なんとなーく雰囲気が和らいで仲間になっていく。

 

で、どこかに所属したら、あとはもう安泰。

よっぽどやらかさないかぎり、集団の一員として、居場所を確保しておける。

 

……という性質のせいで、集団主義は基本的に「できない人間が得をする」。

学校でも仕事でも、できない人のフォローはできる人の仕事。だって仲間だから。

 

グループワークをやってこなかった人のために自分が代わりに調べてあげても、結局「みんなで頑張った」ことになる。

子育て社員が残業できないぶん自分が残業することになっても、「助け合いが大事だから」と言われる。

 

となると当然、こういう考えが生まれる。

「自分は損している。他人なんてどうでもいい」と。

 

10人がそれぞれ10働くべき場面で自分が15の成果を挙げても、それは8と7しか働かなかった・働けなかった人の穴埋めになってしまう。

それなら自分だって、プラスを作るために努力するより、マイナスでも誰かにフォローしてもらったほうが楽だ。だれだってそう思う。

 

そうやって自分勝手にふるまったとしても、誰かが助けてくれるだろう。集団から追放されることはないだろう。だって自分たちは仲間だから。集団は自分を守るべきだから。

自分勝手に行動しても集団から追放されない、集団に献身しても見返りが期待できない、っていうんじゃあ、そりゃみんな「みんなのための自己犠牲」なんてバカらしくてやられないよ。

 

そしてこういった集団に対する諦め、投げやりな姿勢が、「利他的な行動をしない個人主義」に映ってるんじゃないかと思う。

 

個人主義社会は、足並みそろえる協調性がないとキツイ

でもこれを「個人主義」というのは、ちょっとちがう。

個人主義を定義するなら、集団主義とは対照的に、「自分の自由や権利を重視する」「個人あっての組織」という感じだろうか。そのせいで、個人主義=自己中、ワガママ、というイメージを持っている人も多い。

 

でも、それは誤解だ。

実は個人主義のなかでは協調性がないとかなり生きづらいし、多くの人が利他的な行動を取る。

ほら、アメリカのセレブがとんでもない額を寄付したり、ホームランボールをゲットした男性がとなりの少年にこっそり譲ってあげたり、そういった感動ニュースがあるじゃないですか。欧米は個人主義だっていうんなら、そんなことはしないはずなのに。

 

でもこれは理にかなっていて、個人主義だからこそ他人に優しくして仲間を増やす、という事情があるのだ。

日本なら会社の飲み会に対し、「給料出るんですか? 出ないなら行きません」と断っても、仲間外れにされるわけではない。

 

翌日出勤してもみんな(表面上は)笑顔だし、先輩は相変わらず面倒を見てくれる。

飲み会に行かなかったとしても、あくまで「会社」という集団の仲間だから。

 

でも個人主義社会でそれをやると、その後ランチに誘われなくなり、仕事で大事な情報が流れてこなくなり、自分が知らないところで大事なことが決定されるようになる。

「だってあなた、わたしたちと仲間になろうとしなかったでしょ?」と。

 

悪気なんて一切なく、「仲間になる努力をしなかったあなたに、なぜわたしたちが優しくしてあげないといけないの?」と首をかしげられる。

 

個人で完結するレベルの仕事であれば「終わったから帰る」でもいいが、多くのオフィスワーカーは、仕事が終わらない同僚のためにちょっと残業したり、休日に連絡を取ってフォローしたりしている。

だってそうしないと、自分の仕事が終わらなかったとき、誰も助けてくれないから。

 

日本のように「同僚だから」という仲間意識が希薄なぶん、ちゃんと能動的に助け合って「仲間」になっていく。そのためには、協調性が必要なのだ。

 

個人主義=単体行動で自分勝手、っていうのは全然違って、実は個人主義のほうが「ちゃんとみんなで足並みそろえて行動」して、「まわりの人を助けて役に立つ」ことを求められる。

まぁ協調性がない人もいるけど、そういう人が孤立するのはどこの国でも同じ。むしろ日本のほうが「同じクラスだから」「同じ職場だから」と助けてもらえるぶん、協調性がなくとも生きやすいと思う。

 

日本人は個人主義になったんじゃない、組織に見切りをつけたんだ

集団のなかで自分勝手な行動を取る日本人が多いと感じるのであれば、それは個人主義になったからではなく、「そうしても許されると知っているから」にすぎない。

 

事実、イプソスによる2016年の国際調査の「仕事における幸福度」では、日本は最下位の15位。14位のイタリアが63%に対し日本は44%と、仕事において日本人はぶっちぎりで不幸。

それなら転職すればいいわけだが、そこまでみんなが転職に積極的で頻繁にするわけでもない。

 

集団に対して大きな不満を持っているくせに出ていくつもりもないのは、今いる居場所を捨てて新しい集団に飛び込むより、すでにある居場所にいつづけたほうが楽だから。

でも集団のために頑張っても、マイナスの補填に使われるだけで自分は得をしない。だからみんなのために貢献する気もない。時間の無駄だから飲み会になんか行く気もない。

 

これは単純に、「集団主義の最大のメリットであった『所属すれば豊かになる』前提がなくなり、集団に貢献しても見返りを期待できないから、せめておいしいところだけ利用してやろう」って考えの人が増えた、ということだ。

 

昔の終身雇用&年功序列がまだ生きてたら、いまもみんな企業戦士だったんじゃないかな。だって頑張ったら将来を約束してくれるんだもの。

給料が上がる保証もないし将来どうなるかわからない、生活の保障をしてくれない企業に、どう尽くせばいいんだって思うのも当然。

 

で、それは個人主義なのか?というと、それはちがう。

だって個人主義だったら、自分が所属する集団は自分で決めるから、不満があればすぐに移動するもの。そのうえで、自分で選んだ集団にはある程度は貢献する。

 

というわけで、日本人が個人主義になったのではなく、集団に貢献するメリットが減ったから集団内で利己的な行動をとってるだけ、単純に組織に見切りをつけたんじゃない?って話でした。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo:Papaioannou Kostas