※著者は一時的ストーマ(人工肛門)造成者です。
※ストーマの種類はイレオストミーです。
※病気、治療やケアなどに関する知識などは、あなたの医者を頼ってください。
腹にストーマができるまで
これまでのおさらいをしたい。おれの腹にストーマができるまでのおさらいだ。
なぜ、おれの腹の上にストーマがあるのか。手術をしたからだ。
なんの手術か。大腸切除の手術だ。なぜそんな手術をすることになったのか。おれの直腸にNET(神経内分泌腫瘍)という希少がんがあったからだ。
その希少がんはなぜ見つかったのか。大腸内視鏡検査をしたからだ。
なぜおれは少なくない金を払って検査を受けたのか。そのときのことはちゃんと書き記してある。
中年の異常な執念、あるいは私は如何にして大腸内視鏡検査を受けるようになったか
おれが大腸がんから連想したのは、まず人工肛門だった。人工肛門を使用している人やその家族には悪いが、「人工肛門は嫌だな」と思った。病気を望む人間などいないだろうが、具体的な形としてイメージされた。
2025年8月のことである。今は2025年12月だ。とうぜん、このときのおれは「人工肛門」のことなどほとんどわかっていなかった。大腸がんと「人工肛門」の関係もわかっていなかった。「人工肛門」のだいたいの仕組みを知っていたにすぎない。なにが「具体的な形」だ。まったく。
でも、おれは「大腸がんで死ぬのは嫌だ」というより、「人工肛門が嫌だ」という思いが強かった。
なぜだろう。理由はわからない。だが、なにやら自分の身体、生活そういったものに対する多大な恐怖として感じていたのだ。
というわけで、人工肛門になりたくなかったおれが、検査結果をもとに、最短の手順で検査、検査、検査を受けた結果が人工肛門になった。一時的な造設とはいえ、なにかこう皮肉な運命を感じざるをえない。
ストーマと出会う
さて、そういう経過を経て、おれはおれのストーマと出会うことになった。
あ、この文中で「ストーマ」と「人工肛門」という言葉が適当に入り乱れていますが気にしないでください。
というか、人工肛門について説明しといたほうがいい? AIにでも訊けばいいだろう。まあいい、内臓を腹の外に引っ張り出して、そこから排泄をするための器官。それが人工肛門だ。
人工というとなにやら機械が排泄物をどうにかしてくるかのように聞こえるが、素材は天然だ。腸である。腸を腹から引きずり出して、そこから排泄させるのだ。
これは、おそろしい話ではないか。ちなみに、肛門のような機能がないので我慢もなにもできない。24時間垂れ流しだ。垂れ流してはこまるので、ストーマ装具、パウチをあてがう。袋に便を溜める。溜まったら捨てる。何日かに一度、パウチ自体を交換する。すごく簡単にいえば、こんなところか。
まあいい、おれは6時間にわたるロボット支援下手術を受けて大腸やら大腸リンパ節やらを切除され、腹にはストーマができたということになる。
手術が終わって、腹の上の異物を感じ取って、「ああこれが人工肛門か」と思った……わけもない。全身麻酔の長時間手術を終えたあとだ。おれが医者に「どこかおかしなところはないですか?」と聞かれて、最初に答えたのは「尿の管に違和感が……」だった。
それからもストーマとの出会いはなかなか起こらなかった。まずは術後に高熱を出し、もちろん手術の傷は痛く、腹のあたりが盛大に痛んでいて、パウチが乗っていることを意識することすらできなかった。
お腹が痛くても、違和感があっても、それが手術の跡なのかストーマなのか区別などつかないのだ。
ただ、はじめての排泄というものはした。もちろんベッドから起き上がれないおれの手によるものではない。看護師さんが紙コップを持って脇に回って出してくれたのだ。
なにが出たのか。黒い粘液である。排液とでもいうのか。そして手際よく(看護師さんはなにごとも手際がよいのだが)パウチのキャップを拭いて終わりである。「ああ、イレオストミーだからキャップタイプなんだ」と思った。
その後2日くらい経っていろいろな管が身体から取れて、ようやく装具越しにストーマと対面できた。
最初のころはやけに小さく想像していたが、そうではなさそうだと訂正した、その脳内の訂正くらいの大きさだろうか。大きめの梅干しというあたりの比喩はただしい。かなり大きめだがな。
相変わらず真っ黒なコーヒーのような排液を出して、たまにプピプピ音を出す。それが排出の音なのか、ガスの音なのかはわからなかった。
スライムつむり
さて、いつまでもパウチ越しの関係でいられるわけでもない。最初のパウチ交換だ。最初は看護師さんがすべてやる。その後、だんだんと自分でやるようになり、できるようになったら退院だ。
看護師さんが剥離剤を使ってパウチを剥がす。いよいよ剥き出しストーマとの対面……!
うーん、グロいなこいつ。
それが第一印象だった。そいつは排液やなにか保護材が溶けたネバネバのなかにあった。おれのなかに一つの名前が浮かんだ。「スライムつむり」。
ドラクエのモンスターだ。おれはドラクエを5くらいまでしかプレイしていないから、そんなものを思い出すのも何十年ぶりだろう。よく覚えていたものだと思う。が、「スライムつむり」なのだ。
いや、もちろん「スライムつむり」とはぜんぜん違う。なにせ、あっちは硬い貝殻をかぶっている。ストーマに硬いところはない。でも、スライムつむりのぴょこぴょこ飛び出たなにかみたいなのがあるんだよ。それが、スライム的本体の上に乗っていて、おれは咄嗟に連想したんだ。
最初のパウチ交換は当然手際よくすんなりと終わった。おれはおれで人工肛門になるかどうかというところからさんざん調べてきたので、やっていることはだいたい理解できた。
だが、これを自分一人で通しでやれと言われると、すぐにはできそうもない。
わりと平気なタイプでした
パウチには交換もあるが、排出もある。こちらはわりと簡単だった。
まず、トイレットペーパーを手にくるくると巻いて2つくらい用意しておく。キャップを真上にして外す。紙コップに中身を出す(今は排出量測定のため。日常ならそのままトイレに出す)。またキャップを真上に向け、トイレットペーパーで拭き取り、キャップを閉める。あとは流すなどする。
キャップ開けっ放しのまま下向けにしないなど、そのあたりに気を使えば難しくはないだろう。
ただ、あまり言いたくはないことだが、便のにおいが違う。
違う、と書いたのは天然の便の方向性で強いとかそういうわけでなく、においが違う。とうぜんくさい。くささの種類が違う。これには慣れそうもないので、病室のトイレにおいてある二オフを買おうと思っている。
とはいえ、におい以外にこれといって気にならないというか、なんというか、パウチになにか入っているのが丸見えでもなんとも思わないし、むしろ観察したくなるくらいのものだった。
ストーマ自体もそうだ。ストーマ造設者のいろはのようなものが各病院のマニュアルにあって、一つ目が「自分の目でストーマを見られるようになること、二つ目が「自分でストーマをさわれるようになること」だったりするのだが、このあたりも自分はすんなりクリアできた。
いや、たしかに最初に触るときは抵抗がないわけでもなかった。
ただ、触って洗わなければ先に進めないのだ。そう思って触れてみると、ストーマ自体には痛みを感じる神経がないので触ってもなんともない。指に柔らかさが伝わってくるばかりだ。もちろん、皮膚との境目にはなんらかの感覚はあるがたいしたものではない。「意外と、触れるぞ」と自分で思った。
おれはわりと自分のストーマを見ることができるし、触ることもできる人間だったようだ。これができると、保護剤だのなんだのの処置も抵抗はほとんどない。
もっとも、さきに述べたように24時間垂れ流しなので、処置中も出てくることはある(排便の多い時間を避けても)。そのあたりはまあ仕方がない。とはいえ非常にめんどうくさい。
人工肛門を恐れるなとはいわない
というわけで、おれは三回くらいの実地交換で、ときには看護師さんのアドバイスは受けるけれども、なんとかできるんじゃあないかなあ? というところまできた。
おれがこの病院でならった具体的な手順はこうだ。まず、キッチンペーパー(100ローソンで売っているやつでいい)を1/4くらいの大きさに切って多めに用意しておく。ぬるい水を紙コップに用意しておく。このあと出てくる道具も出しておく。
まず、装着しているパウチを外す。力任せではいけない。剥離剤(リムーバー)を垂らしながら剥がしていく。
剥離剤は3Mキャビロン皮膚用リムーバー。おもしろいように剥がれる。
剥ぎ終えたら、ストーマと周辺を洗う。洗うのは、泡で出てくる清浄剤がいい。ベーテルF清拭料というのを使っている。
実はこれ、入院前にAmazonで「オストメイト用避難セットがあるから買っておこう」と思ったなかに入っていたもの。オストメイトでもないのに専用品持参だ(キッチンペーパーとこれ以外は病院が用意したもの)。この泡でストーマと周囲の汚れを丁寧に洗っていく。
ペーパーを水につけて泡を洗い流し、最後は乾燥したペーパーで拭き取る。……と、書くのは簡単だが、ストーマに意思も我慢もないので、この間垂れ流しということもある。まあ、これ以上出てこないようペーパーを一枚おまじないにかぶせておこう。
次は……、えーと次は……。ここで選択肢が広がりいつも迷う。手順マニュアルは用意されていない。間違っているかもしれない。まあいい。
たぶん、次はストーマのサイズ測定だ。そういう専門の用紙があって、縦横のサイズをはかる。安定してしまえばあまり必要はなくなるようだが、作ったばかりの人間には必須だ。
これで、3cm×3.5cmだな、となると、それにプラス5mmを加えたサイズでストーマ穴を切る。切る前に油性ペンで切り戦を書く。切るのは先のまがった専用のハサミで、ストーマショップからのギフトでもらった。なかなか重みのあるいいハサミだ。
このように面板を自分できるのをフリーカット、もとから一定の穴が空いているのをプレカットという。
さて、これでストーマ穴も空いたし装着か? というとその前に二つ工程がある。まず、ストーマのまわりに粉を吹きかける。アダプトストーマパウダーというのを、皮膚とストーマの際に埋める。この効果は……なんかあるのだろう。
次に、アダプト皮膚保護シール(7806)というのを切って貼る。両面粘着の円盤を1cm幅くらいに切って、ストーマのまわりぎりぎりぐらいに貼るのだ。この効果は……なんだろうか。
まあいい、そしてようやくパウチ面板の粘着面を出して、ストーマを穴に通して、腹の皮膚と密着させるのだ。しかし、貼って終わりということはない。そのまま両手で覆うように15分人肌で温めるのだ。それにより粘着力が万全になるという。パウチが外れるというのは即大惨事なので、これは欠かせない。
……と、このような感じだが、あなたにはできそうだろうか。「よくわからない」というのがほとんどの実感であると思う。
もちろん、ストーマをつける予定の人にとってもだ。だからおれはなかなか簡単には「恐れるな」とは言えないなと思うのだ。おれだって今は看護師さんの見ているもとで作業をして、いくらかできるようになった。が、一人でやれ、十分なスペースもないところでやれといわれたら、どうなるものかわからない。
これが日常にやってくる
さて、おれはまだ病院のなかにいる。いったんは全粥まで行ったものの、まったくものが食えなく、腹がパンパンになり、結果、腸が働いていない(イレウス?)ということになった。
病院にいるうちは看護師さんの指導下でパウチ交換を行うので、そちらは上達していくかもしれない。
なので、今回のおれのストーマ話はこれまでである。肝心要のパウチ選びなどについては、日常に戻ってからあらためて書きたいと思う。透明のがよいのか、不透明のがよいのか、などなど。
あるいは、もうここまで読んでいないかもしれない人に向けての言葉になるかもしれないが、「自分には関係のない話だな」と思っているのならば早計だ。大腸がんはわりかしなる。位置が肛門に近い直腸にできることもわりかしある。あなたも一時的かもしれないがこちらに来るかもしれないのだ。
まあ、そうでなくとも、いくからストーマ、人工肛門についての知識を書いておければよいかと思った。
とりあえずは、以上。
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【著者プロフィール】
黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :Ante Samarzija




