先日訪問した、もう7,8年の付き合いになる会社の部長さんと話をした時のことだ。

ちょっと厳しい評価をした部下から質問を受けたという。

 

「もう3年目になる人だけど、「何を改善すればいいですか」と私に聞いてきたんです。」

「評価の際に改善事項を伝えなかったのですか?」

「評価は、単純に成果が出たかどうか、っていう話が中心だったから。もちろん指示は出しましたたけど、彼、ビジネスの基礎体力というか、基本的なところが少し欠けているように思えました。だから「基礎を大事にしなさい」と伝えました。ただ、その中身がどうもわからなかったらしいです。」

「仕事の基礎、ですか。」

「そう。最近だとマーケティング戦略だ、課題解決だ、とか小難しいことはよく知ってますけど、仕事の基礎を知らない人が結構います。ただ、そういう状況を生み出した我々管理職にも非があると感じましたので、明文化して伝えました。」

「面白いですね。聞かせてください。」

「ウチの会社用なので、まあ参考程度に。」

 

 

「一つ目は、納期を守りなさい、という話。仕事は信用から成り立ちます。そして信用は納期を守ることで積み上がって行くものですから、必ず守ることを伝えました。」

「でも、納期を守るの、大変ですよね。」

「仰るとおりで、納期を守るための基礎的な力、たとえば仕事を細分化したり、スケジュールを引いたりするテクニックは必ず身につけないといけません。」

 

「なるほど、二つ目の基礎は?」

「二つ目は、きちんと報告しなさい、という話です。特に中間管理職の上司は、彼らも経営者から評価される側ですから。成果を部下が出せるかどうか、常に不安なんです。」

「確かにそうですね。」

「だから、上司を不安にさせない、驚かせない、というのが仕事においてかなり大切です。上司を不安にさせると、とたんに統制が厳しくなったり、細かいことに口を出してきたりします。だから自分の仕事をやりやすくするのに報告は絶対に必要です。」

 

「まだありますか?」

「はい、三つ目は仕事の時間記録をつけることです。」

「ああ、前に仰ってましたね。もう一度説明いただけますか?」

「時間の記録は、行動記録と言ってもよいと思います。部下にはお客さん、社内、自己研鑚、事務仕事と言った単位で、どの作業にどの程度の時間をつかったか、ざっくり記録してもらっています。」

「なぜそんなことをするんですか?」

「仕事ができる人なら誰でも、時間がもっとも重要だと知っているはずです。何に時間を使っているか知らない人は、仕事の基礎が身についているとはいえません。」

 

「なるほど……」

「四つ目は、週末のレビューです。自分自身で今週はこういう成果をだした、というレビューをしてもらっています。これもお客さん、社内、自己研鑚、事務仕事といった単位です。時間の記録と突き合わせると、自分で生産性がわかるんですよ。」

「大変そうなイメージがありますが……」

「やってみると簡単ですよ。週に30分程度時間をとるだけです。振り返りと反省のないところに、向上はないですから。」

 

「まだありますか?」

「最後は、「新しく憶えたこと、理解したこと」を、メモ書きすることです。「自分用のマニュアル」といってもいいかもしれません。」

「例えば?」

「例えば、今日の営業トークが上手く言ったな、と思ったら、自分で「営業トークマニュアル」を作るってみるんですよ。他にも「提案マニュアル」とか「後輩の面談マニュアル」とか、「スケジューリングマニュアル」とか。私も、個人的なものを30個位持ってます。」

「ほう。」

「とにかく「自分で書いてみること」が重要なんですよ。経験しただけ、本で読んだだけ、といったように頭のなかにあるだけではノウハウにはなりません。自分で明文化することで、それが様々なシーンで応用できるようになるんです。」

 

 

 

「今の5つでオシマイですか?」

「そうです。これらが仕事の基礎です。後は、彼がまじめにそれをやるかやらないか。それは任せますが、3年、5年経って、これらをやった人とやらなかった人とでは、控えめに言っても、もう取り返しがつかないほどの差が付きます。」

「仕事って、努力が必要なんですね。」

「努力と考えると、大変そうに見えますが、まあ習慣ですよね。歯磨きと同じようなもんです。彼がきちんとできるかどうか、ちゃんと見ててあげたいと思います。」

 

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