ある経営者と、採用の話をしていた。考えさせられるところがあったので、ご紹介したい。
その経営者に「どのような人を獲得したいですか?」と聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「あまり沢山の人は必要ではありません。というか、できれば会社の人数は少ないほうが良い会社と思います。特に我々のようなテクノロジーの業界は、烏合の衆では困るわけです。 」
「なるほど。」
「フェイスブックの時価総額は23兆円、従業員はたったの1万人です。対して日立製作所の時価総額は4兆円、単体の従業員数は3万人以上。結局のところ、日立の従業員はフェイスブックの3倍なのに、時価総額は6分の1です。」
「ふーむ。」
「我々のような業界は、結局のところ優秀な人間がいれば、回ってしまう。というより、人を少なくするべきなのです。そのほうがマネジメントに係るコストも低くでき、コミュニケーションコストも安い。」
「…。」
「だから、年収400万円相当の人間を2人雇うより、年収800万円相当の人間を1人雇うほうがずっと良いのです。もっと言えば、年収800万円相当の人間を2人よりも、年収1600万円相当の人間1人のほうが良い。」
「業界の特性なんですかね?」
「そうだと思います。労働集約的な産業ではこうはいかないでしょう。」
「それだけ高給を提示すれば、手を上げる方はたくさんいらっしゃるのでは?」
「そうですね、でも残念ながらそういった有能な人々は極めて少ない。だから、人材獲得にはかなりのお金をかけています。もちろん、全世界からです。日本人だけではとても足りないのでね。」
「どうやって採用する予定ですか?」
「簡単です。有能な人から紹介してもらうのが一番早いです。」
「というと?」
「一番はうちの従業員で優秀と言われる人からの紹介、これは当たりの割合が最も高いです。つぎに取引先などの優秀な人に声をかけて、紹介をもらう。もちろん、ご紹介を頂いたらかなりの謝礼を支払っています。」
「人材獲得に失敗したことはないのでしょうか?」
「人材獲得で失敗したことのない会社は絶対にないでしょう。もちろんウチもあります。」
「そういった場合はどうするのですか?」
「基本は、退職金を積んでやめていただきます。結構な額なので、皆喜んで辞めていきます。」
「なるほど…。」
「ただ、そんなものは大した額ではありません。有能な人は、一人でその方の年収の何十倍、何百倍もの価値を生み出します。極端なことを言えば、10人に一人、100人に一人当たりがいればいいわけです。」
「そういう考え方の会社もあるんですね。」
「おそらく、これから増えるでしょう。価値を生み出すのは、労働ではなく知識と技能です。労働は単なるコストですが、知識と技能は資産です。これを理解しているかどうかで、競争に勝てるかどうかはかなり変わってくるでしょう。」
「そうかもしれません」
「ですが、知識と技能は「会社のもの」にはなりません。永遠に社員一人ひとりのものです。ですから、それを貸してもらうために私達は高給と、魅力的な仕事をもって迎え入れるのです。」
「ありがとうございます。勉強になりました。」
私はオフィスに戻り、その経営者の話をずっと反芻していた。
私は一つの質問を聞き忘れていた。
その方が高度な技能と知識を身に付けるまでの教育コストは、誰が支払うのか、と。
それは、「知らない誰か」が払ってくれるのだろうか。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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