会社を辞めた知人がいる。

彼女は優秀な私立大学を卒業し、新卒で大手企業に就職した。一見誰もがうらやむ大手企業だが、内情はゴリゴリの営業会社。目標はキツく、個性を活かすよりも会社のマニュアル通りに営業することが求められる。

裕福な家庭でのびのびと育ってきた彼女は、入社後早々、これまでの生き方や価値観そのものを否定される錯覚を覚えた。3年は頑張ろうと思ったが、心身ともに疲れ果て2年9ヶ月で会社を辞めた。

 

 

会社員を辞めて待っていたのは自由気ままな生活

その後しばらくして彼女は元気になった。本来の自分に戻ったと言うほうが正しいかもしれない。もともとコミュニケーション力が高く、自然体で人を惹きつける魅力を持っている。

ただ、目標や時間に追われるのがとても苦手だ。朝起きることができない。締め切りがあるとパニックに陥ってしまう。

 

会社員生活から解き放たれ、彼女の生活は変わった。 好きな人とお酒を飲む。好きな時間に起きる。好きな洋服を着る。好きな時にバイトをする。 会社からノルマを言い渡されるわけでもなく、誰かと常に評価されるわけでもない。

だが、一見自由な生活を送っているように見えるが、果たして彼女は本当に自由を手に入れたのだろうか。

 

 

自由になるために必要な二つの要素

久しぶりに会った彼女を見て、自然体で魅力的だと思ったが、自由だとは思えなかった。

むしろどこか不自由な印象を覚えてしまった。どうしてそう感じるのか、森博嗣『自由をつくる 自在に生きる』(集英社新書)の一節を読んで納得がいった。

 

自由というのは、「自分の思いどおりになること」である。

自由であるためには、まず「思う」ことがなければならない。次に、その思いのとおりに「行動」あるいは「思考」すること、この結果として「思ったとおりにできた」という満足を感じる。その感覚が「自由」なのだ。

 

つまり、自由を手に入れるためには「思い」と「行動」の両方が揃っている必要があるのだ。 森氏は、動物や赤ちゃんを引き合いに出し、彼らは不自由だという。

動物の生活は食べることと、食べられないことに支配されいている。それは自分の意思で決めたことではなく、本能としてセットされている。

自らの思いどおりに行動しているわけではないので不自由なのだ。

 

彼女の場合、自らの意思で好きなことを好きな時にしているのだから、思い通りなのでは?と一瞬思う。 しかし考えるべきは、それは彼女が本当にしたいことなのか、だ。出会った時に覚えた不自由な印象は、彼女の人生に「思い」が決定的に欠けていることから生まれていたのだ。

 

 

会社員として流れに身をまかせるのもある意味自由

ちなみに、思いが欠けていることが悪いと言っているわけではない。人はそもそも支配されたいという傾向もある。

自分で考えずに誰かに指示をもらうのは楽だし、周囲に流されながらみんなと同じことをやっていれば安心できる。そう生きていきたければ、ある意味思いは実現されているわけで、すでに自由なのかもしれない。

でも彼女は違う。会社に入って、自分が不自由な状況にあると認識した。そして群れから離れ、自分が行動したい「思い」は何なのか、立ち止まって考えている。自由への最初の一歩を踏み出そうとしている。

 

 

会社を辞めて自由になったら何がやりたいのか

「で、自分はどうしたいの?」という言葉は、時に鋭いナイフのように心臓をえぐる。それを知ってて、私はあえて彼女に問てみた。彼女は「わからないです。」といった。

会社員を辞めるだけでは自由にはなれない。でも自由へのスタートラインに立つことはできるのではないかと思った。

 

 

 

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−筆者−

大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。