先日「転職」について議論する場があった。

その中である方が、

「20年前ならともかく、今は「安定した職場にずっと居つづけること」は非常にマズい。」という話をしていた。

「なぜ、安定した職場にいるとマズいのか?」と聞くと、その方は

政府も企業も、個人の生活を守れない。頼れるのは自分の力だけ。ぬるま湯に浸かっているとサバイバル力が低下する」という話をされていた。

 

実際、20年前と比べて日本は確実に貧しくなっている。今の世界はGDPベースでは既に「アメリカ」「中国」「その他」だ。

日本は1億人以上の人口でかろうじて世界3位のGDPを保っているが、一人あたりのGDPは世界20位。すでにシンガポールや香港には負け、イタリアやスペイン、韓国と同列だ。「日本がすごい」時代は、もう遠い過去の話となった。

 

そして、そのしわ寄せが来るのは「依存している人たち」だ。

「国」に依存する人。

「会社」に依存する人。

税収が減れば、国に依存する人は貧しくなる。会社が傾けば、会社に依存する人は貧しくなる。お金がなければ、福祉や雇用を充実させることはできないからだ。

 

逆に財や能力に恵まれた人たちはその状況を見越して、既に「依存しない枠組み」を作り始めている。パラレルキャリア、複数の収入源の確保、保有している会社の多国籍化、複数言語の習得……

彼らには既に「国境」も「地縁」も無視できる。「自分たちが有利に生活できる所」に自由に移動できる。

外資系コンサルティング会社のある人物は「日本においても、「日本人」という理由だけで雇うことはない。人材は世界中から雇えば良い。逆も同じだ」と言っていた。

 

フランスの経済学者、ジャック・アタリは著書「21世紀の歴史」※1の中で、そのような人々を「ハイパーノマド」と名付ける。21世紀は、国同士の格差は徐々に小さくなり、代わって「自分の知識を売れる人」と「売れない人」の格差が広がる時代となるのだ。

それは「財、能力により分断される社会」の始まりかもしれない。

 

※1

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私と同世代、つまり今40前後の知人で、大手の飲料メーカーに勤める人間がいる。

彼は「安定した大企業で、製品開発がやりたい」と、一生懸命就職活動を行い、大学院を卒業後、飲料メーカーに就職した。

現在彼は念願かなって、あるひとつの製品開発の担当となり、頑張っているそうだ。年収も、他社に就職した同期の平均に比べてかなり高めである。

 

しかし、彼は「不安」だという。

 

「40くらいになると、もう他社に転職するのは不可能なんだよね。多分、このままずっと行くと思う。」

「なぜ?」

「一度、転職しようかとおもってエージェントに会ってみたけど、年収下がるって。150万くらい。」

「150万か……。でも、新しい環境でチャレンジするなら、それくらいは許容範囲じゃない?」

「いやいや、多分家族が許してくれない。」

「そうか。」

「それと、新しい職場で成功するって言う保証はないじゃない。」

「まあね。」

「今の職場は、面白く無い訳じゃない。多少ガマンすれば、安定して良い職場だし。」

「じゃ、なんで不安なの?」

「最近、50くらいの人がリストラされてさ。まあ、かなりできない人たちが対象だったから、問題ないとは思うけど。」

「ふーん。」

「でも、うちの会社も大きいとはいえ、業績もほとんど伸びてないし……このまま定年まで逃げ切れればいいけど。」

 

私は正直、意外だった。

彼は学生時代、旺盛な好奇心と、高い能力で「世界一の製品を作りたい」と夢を見ていたはずだ。それが今、小さく縮こまっている。チャレンジにも消極的だ。

彼は「大人になった」のだろうか。

 

 

 

某ヘッドハンティング会社の方と話をした時、こんな話をされていた。

「いくら学歴が良くても、いい会社に勤めてた人でもね、きっちり成果を求められてこなかった人は、全く使いものにならないんですよ。」

「そうなんですか」

「そうです。成果を出した、出していないよりも「成果を出せ」と求められてきた人が強いです。だから「ブラック企業」で生き残った人って、意外に人気あるんですよ。ま、地頭がいい人が多いのかもしれませんが。」

「なるほど」

「だいたいね、大学卒業してから何十年もチャレンジせず、のらりくらりと仕事してたら、そりゃヤバいですよ。会社がリストラはじめたり、会社から無茶を言われたりしたらどうするんですかね。

そうなってから、我々に声をかけてこられても、もう遅いんですよ。」

 

厳しい意見である。

「じゃあ、どうすればいいんですかね?」

「まず、30歳くらいまでは成果を出すことにメチャクチャこだわることです。上司に媚びても、過労になってもです。これはキレイ事では済まない世界ですよ。能力を上げるには、成果にこだわるしかありません。今いる会社で成果を出せないうちは、どこに行ったってダメですね。」

「それから?」

「そうしたら、自分のやっていることを発信するんです。Twitterでも、セミナーでも、本を書いても、ブログでも良いです。発信すれば、人脈ができますから。」

「そうやってネットワークができたら、あとは好きにすればいい、起業しても、もっと大きなチャレンジのある転職をしても、副業してもいいんじゃないですか。」

 

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もちろん大企業の中にあっても、自分に成果を出すことを厳しく課し、サバイブする能力を磨く人もいる。だが、強力な自制をかけ続けるのは厳しいことだ。

それゆえ「成果を出す能力を磨く覚悟を持っているかどうか」が安定している会社にいるほど問われる。現実は厳しい。

 

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東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。

安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。


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2025/5/16(金) 15:00-16:00

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(2025/5/8更新)

 

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