ある会社で、マネジメントについて議論をしていた時の話だ。
「もっと自由にやらせろ、って言う人は見込があるんだけどね。」
と、その会社の役員は言った。
「本当に問題なのは、「もっと細かく仕事の指示をだしてください。」って言って、本当に言ったことしかしない人。こういう人は問題だね。」
彼は心底困っているようだ。
この手の話はよく耳にする。
「そうなんですね。でも少なくとも「言ったこと」はやるんですよね。やらないよりマシじゃないですか?」
「まあ、そういう考え方もあるけど、本当にこっちが「言ったこと」しかしないって、問題じゃない?」
「ふーむ。」
「例えば、こっちがデータの入力を頼んだとするじゃない。で、そういう人たちにはまずマニュアルがないとダメなんだよ。」
「マニュアルですか。」
「そう、結構細かく書いてあげないと、「できない」って言うし。で、たまにマニュアルに書いてないこともあるわけだ。そうすると、彼らはこちらに問い合わせてくる。「どうすればいいですか?」って。」
「こっちは忙しいから、「案を出せ」っていうんだけど、「わからない」の一点張り。ああいうのを無能って言うのかな。」
私はよくイメージが湧かなかったので、質問した。
「正社員なんですか。その人たち」
「そう。これなら、アルバイトとか、派遣会社を使えばよかったよ。新人ならまだ多めに見ることもできるんだけどね。もう30近いのに、そんな人、たくさんいるんですよ。」
「そうなんですね……。」
私は想像を巡らせた。
なぜ「言われたことしかできない人」が会社にいるのか。彼らは何を考えているのか。
そこで、私はその役員に「現場の話を聞かせてください」と頼んだ。
その役員は「いいですよ、安達さんからも言ってやってくださいよ」と私に言った。
私が話を聴いたのは、30そこそこの中途採用で入ってきた社員たちだった。
「「言われたことしかしない」って言われていることをご存知ですか?」」
「いつも言われます。」
「皆様はどう思っているんですか?」
「……。」
「言いたいことがありそうですね。」
「いや、その通りで「会社では、余計なことをしないほうがいい」って思ってます。」
私は少し意外だった。
「なぜですか?」
「結局、自分のやり方でやると「なんでオレの言うとおりやらないんだ」って怒られます。「余計なことをするな」って言われたこともありました。だから、上司の言ったことしかしないほうが良いんですよ。」
「なるほど。」
「皆さんの上司の役員は、「自由にやらせろ」って言って欲しいとおっしゃってましたが……」
見ると、彼らは苦笑している。
「どうせウソですよ。口だけです。」
「昔、「自由にやらせろ」って言った奴がいたんですよ。で、自由にやったらあの役員から大目玉。結局口だけですよ。」
「ふーむ。」
「大体、うちの役員の指示、わかりにくいんです。聞くと「そんなことも自分で考えられないのか」って怒る。そりゃヤル気もなくしますよ。自分で考えてやってもダメ、指示をもらって動くのもダメ、どうしろってんですか?」
役員のいうことと、現場の言うことが食い違っている。一体何が起きているのだろうか。
私は結局、何も言えなかった。
———————–
後日、私は「社員に自由にやらせて、うまく行っている」という会社の経営者に相談した。
その経営者は言った。
「ははーん、わかりますよそれ。ウチでも昔ありました。」
その経営者はピンときたようだ。私は聞いた。
「何が起きているんでしょう?」
「単純ですよ。どちらも責任を放棄している。」
「どういうことでしょう?」
「役員は結果が出ないのを、下のせいにして、下は役員のせいにしている。単にそれだけでしょう。」
言われてみればそうかもしれない。彼らはお互いに相手の批判しかしなかった。
「実は、私の会社も昔そうでした。困りましたよ。私も社員のせいにしていましたし、社員は私のことを信用していなかった。」
「彼らはどうすればいいと思いますか?」
「時間はかかりますが、まず態度を改めるべきは上からです。役員は社員のせいにすることをやめなくてはダメですね。だいたいマニュアル作って社員に渡してるから、なんて言い訳ですよ。
マニュアルはあくまで補助であって、最初はキチンと教えなくてはいけないですし、上の人間が作ったマニュアルなんて、役に立たない。現場にやってもらわないとダメなんです。」
「なるほど……。」
「社員も甘え過ぎです。無能な役員に腹が立つのもわかりますが、職務を放棄している。ですが、役員が態度を改めれば、彼らの態度も軟化するでしょう。」
「指示待ち部下」の影に、「無能上司」あり。
その経営者は、そう締めくくった。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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