数年前、ある若手社員から転職の相談をされた。内容は「今の職場では評価されないから転職したい」との事だった。
彼は「今の会社では自分は評価されていない。仕事も回ってこないし、このままだと会社にいる意味がわからない。転職をしようと思っている」と言った。
当時、転職支援の仕事をしていた私は、真剣に彼の相談に乗った。
「なぜ今そのような状況に陥っているのか」
「会社の評価項目をきちんと理解しているのか」
「上司との人間関係がうまくいってないのか」
「今からでも上司の信頼を取り戻すことはできないのか」
色々な角度から質問を投げ、何が彼にとってベストなのか解を見つけようとした。しかし、彼の中ですでに答えは決まっているようだった。
「今の会社に残るつもりはないから、新しい職場を探したい。」
私は、どんな職場が彼に一番合うのかを考えた。
「どんな瞬間に仕事の喜びを感じるのか」
「転職の優先順位は職種や事業内容なのか、それとも会社の文化や仲間なのか」
「大企業なのか、少数精鋭のベンチャーなのか」
「仕事に打ち込みたいのか、ワークライフバランスを取りたいのか」
一通りアドバイスをすると、彼は「ありがとうございます!」と言い笑顔で帰って行った。
好条件で大企業から中小企業へ転職
後日彼から転職先が決まったと報告があった。数千人の大企業から、20名ほどの中小企業への転職で、かつ異業種だった。
もうすでに内定を承諾した後だったので、私はなぜその会社に決めたのか詳しくは聞かなかった。ただ一点だけ、どうしても気になる点があった。給与だ。
彼は異業種への転職にもかかわらず、前職と同等の給与、しかもかなりの高給を約束してもらったと教えてくれた。
転職支援の経験から言うと、このようなケースは非常に稀だ。残念ながら今の日本では、転職時の給与は前職と同等、あるいは下がることが多い。異業種ならなおさらだ。よっぽどその人に実力がない限り、第二新卒で高給が提示されることは考えにくい。
私はとりあえず事実だけを伝えることにした。
「今の年齢からすると、その給与は高すぎることを自覚したほうがいい。別に高給が悪いわけではないが、それほど会社はあなたに期待しているということだよ。
中途採用は新卒採用と違って、即戦力が求められる。あなたは最初から、かなり高いハードルを超えていかなければならない。それは覚悟したほうがいい。」
彼は「頑張る」と言った。
会社からの期待と実力のギャップ
半年ほど経って、彼から連絡が来た。上司とうまくいっていないという。「もっと真剣に仕事に取り組め」「そんなに軽率な行動をしないで欲しい」「経営目線で物事を考えて欲しい」と言われたそうだ。
聴けば、もちろん本人はいたって真剣だし、軽率な行動をとっているつもりはない。
残念ながら、単純に実力が期待に追いついていないだけだった。
他人の意見は意外と正しい。ただ、聞きたくないだけ。
この場合、親身に彼の相談に乗ってあげればいいのだろうか。それとも、人間は実際に経験してみないとわからないから、黙って彼の話を聴くだけで良いのだろうか。
思案した結果、結局は黙って彼の話を聴くだけにした。
本人が一連の出来事から何かを学び取り、自ら変わりたいと思わない限り、アドバイスは意味をなさない。
人は他人のことはよく見えるが、自分の事は案外わからない。他人の意見は時に耳を塞ぎたくなるけれど、聞きたくないことほど正しいことも多い。
どれだけ素直に周りの意見を聞けているか。自分にとって都合の良い解釈ではなく、真摯に受け入れられているか。彼の話を聴き、ふとそんなことを自問した。
(2025/6/16更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。
地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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−筆者−
大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。