コミュ障を自認する人に「何がコミュニケーションを取る上で一番苦手?」と聞いたときのこと。

彼は「人の愚痴を聞くのがめちゃ苦手」と言った。

 

「なんで愚痴が苦手なんですか?」

「愚痴に付き合うのも、愚痴を言うのも、時間のムダだから。」

 

なかなかドライである。

「でも愚痴を言う人、身の回りにたくさんいるじゃないですか。全部無視するんですか?」

「もちろんそんなことはしない。一応、愚痴に付き合うのは礼儀だと思ってる。」

「おー。」

「でも、愚痴に対してアドバイスしたり、同情したりするのは全部ムダなので、やらない。」

「やっぱり、ムダですか。」

「ムダだね。」

「なんでムダだと思うのですか?」

「愚痴では、何一つ変わらないから。あと、アドバイスは求められてないし、同情は偽善。」

 

割り切りが凄い。

 

聞くと、彼が徹底して心がけていることは3つ。

「見ざる、聞かざる、言わざる」だ。

例えば、インターネット、特にSNSで愚痴の多い人はミュートするか、ブロックする。

人の愚痴へは反応せず、自分も愚痴は言わない、というわけだ。

 

そうして、しばらく話していると、彼が面白いことを教えてくれた。

「よくいるのは、自分で愚痴を言っているつもりがないけど、愚痴を言ってしまっている人。」

 

「具体的に、どういうことでしょう?」

「例えば、「うちの会社はこうすべきだよ」とか「上司はこうあるべきだよ」とか、前向きなことを言ってるけど、実際はそれが不可能であるケース。本人はポジティブに発言しているつもりなんだけど、まあ中身は一種の愚痴。」

「ほほう。」

「愚痴っぽくないので、本人も人に愚痴を聞かせているという自覚がないぶん、タチが悪いよね。」

「なるほど……。きびしいですね。」

「そう?でも、愚痴で人の時間を奪うのは、最低でしょ?」

「なるほど。」

 

徹底していますなあ……。

 

だが、彼はその性分のせいで、コミュニケーションがうまくいかないことがよくある、という。

「愚痴に「ふーん」としか言わないので、冷たい人だ、と言われることが結構あったり、相手を怒らせてしまったりすることがあるね。」

 

私は彼に聞いた。

「少し我慢して、同情するだけでも、人間関係はずいぶん改善するのでは。」

「それを受け入れていると、キリがない。あと、愚痴を言う人と人間関係を良くしても、あまりメリットはないよ。」

「なるほど……。」

「だいたい、愚痴の多い人とか、会社の同僚とかと話していると、イラッとくる。」

「なぜですか?」

「愚痴を言う人って、同情を求めてくるから。そんなん知らん!て言いたくなる。」

「ああ……。」

「まあ、気にしてないけど。そもそも自分は、そういう人に同情できるようなレベルの高い対人スキルは持ってない。」

「なるほど……。」

 

 

この話を後日、別の知人にしたところ、知人は「単に、人に冷たいというだけじゃないの?」と言った。

そうかもしれない。

 

でも、一つ気になったことがある。

彼は「「愚痴を聞いて、人に同情できる」ことは、レベルの高いコミュニケーションスキルだ」と言ったのだ。

 

「困っている人に同情するのは、人間として当たり前でしょ?」と思う人もいるかも知れない。

でも、彼のようなコミュ障には、「同情」や「共感」は当たり前ではない。

 

むしろ、「同情」や「共感」を積極的に表明できることこそ、コミュニケーション強者の証だと彼は考えている。

逆に、彼は「同情する」というスキルを持ち合わせていないため、友だちが少ないことや、会社の人間関係がうまくいかない状況にあると認識していた。

 

実際、私は彼に

「なぜ人に同情しないんですか?」と聞いてみた。

彼はキョトンとしている。

「逆になぜ、同情できるんですか?」

「かわいそう、とか力になりたい、とか思わないんですか?」

「かわいそうとは思いませんね。多かれ少なかれ、みんな不幸ですから。あと、相手が解決を望んでないのに、力になりたいと思うのは、おせっかいだし、こっちが疲れるだけかと。」

 

彼は言った。

「むしろ、他人の愚痴を聞いて、同情できる人はすごいと思いますよ。私には無理ですけど。」

 

 

様々なニュースや、Twitterには「人の不幸」が溢れている。

そして、そこには「同情」や「共感」が集まる。

 

だが、もしかしたらそんな感情とは全く縁のない人は、意外と多いのではないか。

 

不幸な目にあった人に対して

「その気持、よくわかる」

「つらいですよね、同情します」

「大変だったね。」

と、温かい同情の声を掛ける人がいる一方で、

「へー。」

「で、何?」

「俺には関係ないね」

という人もまた、とても多いのだろう。

 

だが、人間関係には、当然のように「同情」や「共感」が求められ、それを表明することは不利益につながる。

 

だが、彼と話していて、「それに対応できるのは、当たり前のことではない」と、私は改めて強く認識した。

 

 

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