知人に「ど根性営業会社」で13年間、営業として広告を売り続けた男がいる。

だが彼は13年勤めた会社をつい先日退職した。彼の退職により、その会社は顧客を一人残らず失い、倒産した。

 

 

「まあ、これまで社長に忠義を尽くしてきましたから」と彼はいう。

 

———————-

 

彼がその会社に入社したのは、知り合いの紹介がきっかけだった。

「地元の人々の為の飲食情報を掲載したフリーペーパーを立ち上げたい」という社長の誘いに乗り、彼は社長とともに営業として活躍することになった。

 

もちろん事業の立ち上げは並大抵のことではない。何しろ新しい会社は「怪しい」のだ。まずは信用してもらうことから始めねばならない。

彼と社長は根気よく店舗を回り、彼らのフリーペーパーを置かせてもらえるように一軒一軒を説得して回った。

時には怒られ、時には追い出された。

だが、フリーペーパーをまじめに作ることにかけた彼らの情熱に応える店が少しずつ現れた。

 

 

彼らは1,2年の間に市内外の多くの飲食店に、彼らのフリーペーパーを置かせてもらうことに成功した。もちろん「質が良いから」という読者の声が店舗にも届いた結果だった。

そして遂に、「広告主」が現れ始めた。フリーペーパーを置かせてもらえた店舗の店主から、幾つかの広告掲載のオファーを貰ったのだ。

 

しかし、彼は気を緩めなかった。所詮「広告」は、効果が出て、継続して掲載しえてもらえてナンボ、の世界だ。

そのためには大口客もいいが、小口の顧客を数多く稼いで、安定的にいくつかのお店が広告を出してくれている状態を作りたかった。

 

 

だが、彼には人脈も、お金もなかった。あるのは「ど根性」のみ。

彼は個人商店から、零細のラーメン屋さん、居酒屋まで片端から店舗をドブ板営業し、広告の注文をとり続けた。

 

「あの頃は営業っちゅうか、店主の話し相手やってた、って感じですわ。」

と彼はいう。

「店の様子見て、汚れてるからキレイにせいとか、メニューの写真のとり方の指導から、チラシのアドバイスまでしてましたわ。その見返りに、広告もらうんです。

一つ一つお店回るんで、大体流行る店と流行らん店もわかります。あとは出入りしているおしぼりの業者捕まえて、その店がどの程度おしぼり使ってるか調べたり。

ああ、おしぼりの量で売上だいたい分かるんですよ。売上こんだけでしょ、って店主に言うと驚かれました。」

 

だが、たまに広告の料金を払わない客もいたらしい。

「たまにカネを払わん店主も居るわけですよ。当然店にいいって、取り立てますわ。店に行って「レジからもらいますわ」言うて、回収したこともありました。

そしたら、またその店から「広告出したい」って来るんですよ。「きちんとカネ払うならエエよ」って言いました。もう、どっちが客かわからんですよ。」

 

 

少しずつ、確実に顧客基盤は拡大し、彼らの事業は安定軌道に乗り始めた。

そんなある日、社長は彼に「社員を雇うぞ」と言った。社長は「もっともっと拡大したい」と考えるようになったのだった。

社長は営業を雇うようになった。「売れそうな」人物を次々に雇った。

 

 

だが、彼が身を以って体験したように、顧客の信頼を得るまで、広告の営業はそう簡単ではない。雇った社員の殆どは短期的には成果をあげることができなかった。

 

社長は怒っていた。拡大するどころか利益はマイナス。人が増えて固定費は増したのに、売上はサッパリ伸びなかった。

彼は「売上を急に伸ばすことはできないですわ、長期的に考えてもらえますか。信用を作らんと。」と言ったが、社長は聞き入れなかった。そして、社長の焦りと怒りは営業マン全てに向いた。毎日、社内には売れない人間に対する社長の怒号が響いた。

「売れるまで会社に帰ってくるな!」

 

そのうち彼らは、「どうせ5時にかえれないなら、社長が家に帰るまで、喫茶店で全員で粘ろう」という発想になっていった。

「7時位まで、喫茶店で粘って、社長が帰った頃を見計らって、皆で帰社するんです。ま、怒鳴られるのは誰でもイヤですからね。もう意味わかんなかったですよ。」

 

連休なども攻撃の対象となった。「お前ら成果出ていないのに、よく休めるな」と、社長が言い出したのだ。

 

「いや~あの頃はやばかったですわ。社長が「目標行ってないから、GWも出勤」とか言い出すわけですよ。GW中ですよ。お客さんも休んでますよ。営業とかやっても無駄なんです。私もいい加減、社長にうんざりしてました。

だから、GWはとりあえず出勤だけして、一旦会社出たら私服に着替えて、皆で遊びに行ってました。」

 

 

もちろん、そんな会社がうまくいくはずもない。社長が怒鳴れば怒鳴るほど、逆に社員たちも社長の些細なミスに我慢ができなくなる。会社は内乱寸前だった。

「社内は常に、一触即発状態でしたね。」

と彼はいう。

「社長がちょっと時間を間違えた程度でも、徹底的に皆で批判するんですよ。まあ、自業自得ですわ。会社の拡大を急ぎ過ぎると、ろくな事になりませんな。」

 

 

結局その後、次々に人が辞め、結局会社には社長と彼が残るのみとなった。

彼が「ドブ板営業」のスタイルを崩さなかったため、「彼の担当顧客」は残ったが、他の客は失われた。会社は半壊状態だった。

 

 

そして、ちょうどその頃、彼のウデを見込んだ別の会社が、彼に「うちに来ないか」という誘いをかけていた。

彼は迷った。彼がこの会社を去ったら、顧客は彼の退職とともに、離れていくだろう。それはイコール、この会社の倒産を意味する。

 

会社に残り、社長に忠義を尽くすか、辞めるか。

 

決断したのは、彼を誘った会社の社長の一言だった。

「今の給料、いくら?こんだけたくさんの顧客を一人で抱えて、回しているんだから、相当もらってるんでしょ?」

彼は「20万です。ずっと。」と言った。

「それは……あり得ないだろう。」

 

彼は、辞意を社長に告げた。

「お前がいなくなったら会社は潰れる」と言われたが、

「だったら月給20万はやめて下さい」と彼は言った。

 

人を粗末に扱う人は、然るべき報いを受ける。

そういうことだ。

 

 

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