私はコンサルティング会社に10年以上在籍したが、入社して4年目にマネジャーとなり、それ以来ずっと、部下に仕事を教えてきた。とは言え、胸を張って言えるような、たいしたことを指導してきたわけではない。上司から受け継がれ、「ごく当たり前」とされていたことを指導してきただけだ。

しかし最近になり当時のことを振り返ると、先人たちの知恵が生み出した指導方法はなかなか理にかなっており、各所で「どのような訓練をやっていたか」と聞かれることが増えたため、ここでその内容を記すことにする。

 

内容はごくシンプルで、おそらくどこの会社でもやっている普通のことだろう。が、個人的に重要な訓練ばかりであると思っているので、新人の研修や、部下の育成の参考となれば幸いである。

 

1.時間管理

時間管理は新人に最初に教える技術であり、すべての仕事の根幹をなす技術だ。手帳の使い方、タスク管理の方法、スケジューラの使い方など、また、尊敬する上司に教えてもらった、「仕事を任されたら何をすべきか」8箇条にも書いたように、「人から依頼された仕事を納期内にこなす方法」も伝える。

時間管理が出来ず、タスク漏れがあったり納期遅延を頻繁に起こす人物は、頭が良くても「信用出来ない」というレッテルを貼られてしまうため、上司が真っ先に教える技術だ。

 

2.文章力の強化

我々は物書きではなかったが、メールや報告書、提案書、各種資料など、文章力が求められるシーンは非常に多かった。

「文章くらい、訓練不要ですよ」という方もいたが、大抵の人は文章を書き慣れていないため、文章を書かせてみると「なんじゃこりゃ」というものも多かった。メールなどがわかりにくいと、顧客からのクレームに直結する場合もあるので、文章力に気を遣うのは当然であった。

具体的な訓練法は様々だが、私はコンサルティングのノウハウである「セミナーのテキスト」を短い文章に要約させるという訓練をした。自社のノウハウを学ぶと同時に文章力もあげることができる。結構なボリュームがあり、テキスト数も100近くあったため、やらされた部下はさぞかし大変だっただろう。

 

3.ディスカッション

ディスカッションは非常に重要なスキルの一つだ。特に顧客とディスカッションするシーンが多かったわれわれの仕事においては特に。

だが、勘違いしている方も多かったのだが、「ディベート」と異なり、「ディスカッション」の目的は相手を論破することではない。相手を打ち負かしてしまってはまとまるものもまとまらない。

「相手のプライドを傷つけずうまく本音を引き出し、自分の言っていることを相手に理解してもらった上で、ディスカッション前に出ていた案よりも良い案で合意する」という結果を得るための活動が「ディスカッション」である。

訓練法は極めて地味で、社内で繰り返し行われるディスカッションを通じて、部下を訓練するが、上のようなディスカッションの定義を知っていれば比較的短期間で技術を身につけることが可能だった。

 

4.会議の仕切り

いわゆる「ファシリテーション」という技術である。顧客先で会議の進行役をつとめるケースが多いため、新卒にも「会議の仕切り」をやらせる。ファシリテーションの目的は様々あるが、私は「会議を盛り上げ、全員の意見を引き出す」というゴールを設定していた。

訓練を繰り返すと、新人であっても「議論が停滞しているが、この人に聞けば打開できる」であったり、「最初からこの人に聞くと結論が出てしまうので、この人には最後に意見を求めよう」といった議長のスキルが身につく。

これは、議長でなく会議のメンバーとなった時にも「会議へのうまい参加の仕方」が身につくことになるので、非常に有意義な訓練であった。

 

 

5.人前で話すこと

我々は若手にも、積極的にセミナー講師をやってもらった。もちろん最初はだれでも声が震え、講義どころか挨拶すら満足にできない。しかし、人間の能力というものは凄いものである。訓練を繰り返すうちに、ほとんど誰であっても大体半年くらいで立派に人前で話せるようになる。

訓練法は至ってシンプルである。セミナーの内容を覚え、リハーサルを繰り返すだけ。実際、だれでも講師は可能である。

また、人前で話すことになれると自信がつくので、たいていのプレゼンテーションは楽にこなせるようになる。

 

6.読書

知識をつけ、読解力を強化する訓練である。われわれが行っていたのは、これも極めてシンプルな方法で、「月に10冊本を読む」というものだった。

また、人により読書への慣れのレベルが異なるため、私は「どの本を読め」という指定は敢えて行わなかった。中には小説を読んだり、漫画を読むものもいたが、読まないよりははるかに良い。

たまにどんな本を読んだか発表してもらい、仲間内で良い本の共有を行ったりもした。

 

7.あなたはどう思うか?という質問

上司は聞かれた質問に答えなかった。が、部下は皆育った。という記事に書いたことそのままである。部下の相談には基本的に、「あなたはどう思うか?」と聞くことを最初に行う。

これは予め上司に質問をする前に自分で意見形成をせねばならず、「自分で考えるクセ付けをする」ために有効な訓練であった。

 

8.飲みの席でのマナー

社外の人々との宴席が多いという仕事柄、飲みの席でのマナーは重要スキルの一つであった。「社内の飲み会」は、「社外の飲み会の練習」という位置づけであり、部下は上司に酒をついだり、空いた皿やグラスを見つけて注文したりと結構忙しい。

個人的に、非常に苦手の部類の一つであり、いまでも「嫌なら行かなくてもいいんじゃない?」とは思うが(参考記事:会社の飲み会は好きですか?嫌いですか?)、「厳しく言われた」ことが、社外でかなり役に立ったのも事実である。

最近、「飲み会が嫌だ」という若手が多いという話をよく聞くが、「社外」での宴席が多い仕事であれば、積極的に上司を誘い、マナーを身につけるのも一つのやりかたである。

 

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・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

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