いわゆる「日本型経営システム」とは、年功序列と終身雇用を同時に実現するシステムのことだ。

具体的に言えば、従業員は会社に正社員として入ることで生活を保証してもらい、引き換えに会社に尽くす。それはまるで鎌倉時代の「御恩と奉公」さながらである。

その中においては、「職務」や「成果」に応じて賃金が決定されるのではなく、「在籍期間」によって給与が決定されるという仕組みになっている。

 

だが、最近ではいわゆる「日本型経営システム」の破綻が各所で見られる。

例えば、定期昇給を廃止する会社、あるいは定期昇給が形骸化している会社が数多く出現している。あるいは業績が良くてもリストラに踏み切る会社も増えている。

いずれも日本型経営システムの綻びである。「約束がちがう」と怒る人もいるだろうが、それが現実だ。

 

なぜ、こんなことが起きているのだろうか。それは、年功序列賃金の限界に日本企業が直面しているからである。

例えば、経済学者の野口悠紀雄氏は、著書※1の中で次のことを紹介している。

日本型経営システムにおいては、年功序列賃金と終身雇用を同時に実行しなければならない。

年功序列賃金というのは、(最初に低い賃金で我慢して、後でそれを取り戻すという意味で)ネズミ講と同じ原理なので、これを継続するには、中高年労働者と若年労働者の比率を一定に維持しなければならない。

そのためには、企業は常に成長していなければならない。こうして、日本型経営の企業は、成長を余儀なくされる

逆に言えば「成長していない」という状況は、日本型経営システムにおいては致命的だ。

※1

 

余談であるが、ネズミ講(無限連鎖講)が違法なのは「無限に会員が増える事は絶対にない」からだ。無限に会員が増えることを前提に「儲かる」と持ちかけるのは100%ウソである。

だが同じように企業も無限に成長することは絶対にない。だから「年功序列賃金」は必ず破綻する。

「無限に成長しなくても、自分が働いている間くらいなら」という逃げ切りを画策する人もいるだろうが、10年、20年であっても成長し続けられる会社など存在しない。これからは5年ですら怪しい。

野口氏の言うように「年功序列賃金はネズミ講」というのは、正しい指摘である。

 

しかも、現在の日本企業は

・少子化による若年労働者の減少、それに伴う中高年労働者と若年労働者の比率の逆転

・新興国の勃興による国際競争力の低下

という状態に置かれている。いずれも「年功序列」と「終身雇用」を脅かす。

 

したがって、これから就職する新卒は特に「年功序列」や「終身雇用」を約束する会社に入ってはいけない。それは組織上部の既得権益者が搾取するためだけの構造だ。

 

————————–

 

半年ほど前、就活生がアドバイザーへ相談をしていたのを見た。

その就活生は、給料が安定した終身雇用の会社と、成果主義の会社と、どちらを選ぶべきか、という相談をしていた。

するとアドバイザーはこう言った。

「終身雇用の会社が安定しているとなぜ思うのですか?」

学生は言った。

「自分に成果が出せるかどうかわからないからです。」

 

アドバイザーはしばらく考えた後、言った。

「まず、これから終身雇用の会社はなくなります。残ったとしても僅かでしょう。しかも今から終身雇用の会社に入るのは、かなりのリスクですよ。なにせ会社が傾いても、社外で生きる術がないかもしれない。」

「そうですか……。」

「そして、これからの時代、給与は「会社にあげてもらうもの」ではありません。」

「では、どう考えれば良いのでしょう?」

「給与は、自分と会社の取引の結果です。力をつけた人が高い給与を得る。単にそれだけの話です。」

「では、どんな会社に就職したら良いですか?」

「単純です。旧来の安定した会社ではなく、「成果」できちんと支払いを受けることができること、生産性の高い会社で働くこと、そしてなによりチャンスがたくさんある成長産業で働くことです。」

 

 

もちろんどういった会社で働くか、価値観は自由だ。

だが、30年前に比べ、「どこで働くか」を選ぶことは遥かに難しくなったのは間違いない。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

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