ビジネスにおける考え方の一つに、制約条件の理論、というものがある。日本では2001年に発売された「ザ・ゴール」という本の中で紹介されたものだ。理論を作り上げたのはイスラエルの学者の「エリヤフ・ゴールドラット」氏である。
制約条件の理論の根底にあるのは、「全体最適化」という考え方だ。
例えば製造業において工程が3つあるラインを仮定する。(工程A⇒工程B⇒工程C の順番に加工される)
工程Aの標準処理能力 300個/時間
工程Bの標準処理能力 100個/時間
工程Cの標準処理能力 500個/時間
仮に、工程Aが360個/時間、工程Bが100個/時間、工程Cが520個/時間 の加工を行った場合、最も頑張った工程はどれだろうか?
通常ではこの3個の工程が持つ能力をフルに使えば使うほど評価されるため、標準処理能力を20%オーバーした工程Aが最も評価されると考えられがちである。しかし、ゴールドラット氏によれば、各工程ごとに生産性を測定することは、「全体最適」ではなく、「部分最適」であるがゆえに非合理だというのだ。
すなわち、工程Aがいくら頑張ったとしても、後工程のBは1時間に100個しか加工していないため、かえって余計な在庫が積み上がってしまうという状況になる。逆に工程Cはせっかくの高い能力を持て余すことになる。
これは、工場全体からすれば望ましい状態ではない。
従って、ゴールドラット氏は「ラインの中で最も能力の低い工程に対し、改善を施せ」と主張する。すなわち、工程Bの能力を100個からどれだけ増やせるかが、この工場の能力を決める。
最も能力の低い工程を彼は「制約条件」と呼んだ。
さて、この理論であるが、一般的に日本では「生産管理」の手法と捉えている人が多い。しかし、実はそうではない。
例えば「営業」においても全く同じことが言えるのである。
すなわち、営業の工程を以下のように定義した場合、
名簿収集⇒アポイント獲得⇒初回商談⇒初回フォロー⇒2回目訪問⇒2回目フォロー⇒提案⇒交渉⇒契約⇒受注
「成果」はどの工程に依存するのか、ということが問題にされなければいけないということになる。
名簿収集を一生懸命頑張っても、実は制約条件は初回の商談であり、そこから2回目商談が全く進まないということであれば、名簿収集を頑張るべきではなく、「商談の進め方」を改善すべきであるということだ。
マーケティングであっても、ソフト開発であっても「プロセスを明らかにして、制約条件を見つけ、改善する」は手法として大変有効である。理論としてはもう30年近く前のものだが、たまに紐解いてみると、良い発見がある。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)