医学部入試では面接がある。その時に間違いなく聞かれるのが

「あなたの医学部志望理由をきかせてください」だ。

 

はじめに言っておくと、基本的には面接で合否が動くことはまずない。

さすがに自己紹介をしてくださいと言われて、ジブリ作品について熱心に語り始めたりしたり、いきなり泣き始めたりしたら落ちるかもしれないが、多少どもって「ぼぼぼ僕は・・・」と言ってしまってもまあ落ちないと思う。基本的には日本の大学入試はかなり公平に選別されている。

ただこの面接、傾向と対策がイマイチとれておらず、また試験官の本音が見えにくいので、受験生としては結構困るのも事実である。

どう答えればよいのか、医療現場の現実を踏まえたうえで、お伝えしたい。

 

医療現場の現実

医者の仕事というと、診察して人を治療する事だと普通は思うだろう。まあ大筋としては間違っていない。となると、いわゆる「患者さんの為に命を燃やしたい」みたいなキャラが好かれそうだなーと思う人が多いと思う。

 

ただまあ実際問題、そういう使命感で仕事を全うできている人は少ない。2016年現在、人はそもそもあまり重い病気にならないからだ。

重い病気になって病院にかかるのは、不幸にもよくない遺伝子を引き継いでしまった人か、不幸にも事故にあってしまった人。それか三食ファーストフードみたいな劣悪な生活習慣を長年続けた人か、あるいは長年生き続けて脳も肉体もボロボロになった後期高齢者ぐらいである。

 

そして、テレビでは患者と医者のアツいドラマが流されるが、そういう心温まるようなハートフルストーリーは現場では極めて稀だ。

更に言えば、基本的には、医療現場の8割はどちらかというと、社会的に、収入的にあまり恵まれなかった人達への社会的保障という側面が非常に強い。

 

こういう事をいうと怒り出す人もいるかもしれないが、健康なあなた、そもそも病院に入院したことがあるだろうか。健康で恵まれた人は、病院とは基本的には無縁の生活をおくることがそのことからも十分わかるだろう。

 

つまり普通の人が想定する人をみる医者(業界用語では臨床医という)は、基本的には上に書いたような人をケアするのが仕事だ。

そして残念ながらというかそういう人の事を、基本的には心の底から愛してケアを行うような人は物凄く少ない。

もちろんそんな人もいない事はない。だけどそういう人にキチンと心の底から対面して向き合うとこの世の虚しさから、殆どの人は心を病んでしまう。

 

”残念なことに恵まれなかった人達”を相手に仕事をしたくないのであれば、別の道がある。

ドクターズ・ドクターと言われている麻酔科医・放射線科医・病理医、といわれている人達は、医者から相談をうける立場の存在であり、この3つのどれかになれば、仕事相手が患者じゃなく医者になる。

そしてドクターズ・ドクター志願者は基本的にはあまり多くないので、志願すれば簡単になれる。

 

 

志望動機は何でもよい

つまり医者に仕事にも色いろある。だからあなたにコミュ力があろうがなかろうが、医者になるのに何にも困らない。

だから医学部志望理由を聞かれた時に困ったら

「人の体の神秘に惹かれ、また自分で実際に人を治療できる事に憧れを感じた」

とでも答えればいいし、もし仮に面接官に「じゃあなんで実験にいかなかったの?」と言われたら「実験は実臨床ではなく、あくまで理論でしか無い。

「自分は理論よりも、実地で人を治す現場で仕事を行う事に強くやりがいを感じた」とでもいえばいい。それで納得しない面接官はいないはずだ。

 

また言語聴覚士、看護師、薬剤師など、現場で人の治療にかかわれるのは医者だけではない。

だからもし仮にあなたが面接官から「なんで医者なの?現場で働ける職種は他にも沢山あるよ?」という意地悪な質問をうけるかもしれない。

ただこれを問う試験管も、受験生時代はこの違いがわかってなかったと思うのに、これを問う時点でやや性格が悪いといえば悪いのだが、まあ試験官が問いたくなる気持ちはわからないでもない。

 

一応簡単に医療の流れを説明すると、実臨床の場では医療は3つの役割にわけられる。

 

1つ目は診断。これは病名を明らかにする立場だ。これは基本的には医者の判断により行われる(他職種もやれないことはないが、最終的に責任を負うのは医者の仕事だ)

2つ目は治療。薬を処方したり、手術を行ったり。これも基本的には医者の仕事だ。これは場合によっては人体を著しく損ねる危険性があるので、医者の責任において行われるのが適切だろう。

3つ目が維持。当たり前だけど診断・治療が適切に行われたからといって、病気はすぐには治らない。手術を行った後は、傷口がふさがるまできちんとした管理を行う必要があるし、交通事故とかで骨を折ってしまったら、その後適切にリハビリを行わなくてはいけない。後期高齢者になってボケてしまったら、介護の世話をうけなくてはいけない。

 

医療というのは上記3つで行われる。上の2つは医者の裁量が非常に大きいのに対して、最後の維持はコメディカルによる側面が非常に大きい。

そして適切な維持の為の指示を出すのは医者であり、何が必要かを判断するのはコメディカルの仕事ではない。もちろんコメディカルだって医者に意見は言えるけど。

だから冒頭の質問にはこう答えればいい。

「自分は、患者の病気を診断し、治療の判断をするという重大な責任を負う仕事に興味があるから医者を志願しました。その他の職種でも医療に携わる事はできると思いますが、診断・治療といった責任ある仕事をするのは、医者しかできない事なので」

 

 

色々書いたけど、繰り返すけど面接はあんまし重要ではない

まあ一応中の人として誠実に回答したけど、面接はそこまで重要な事ではない。

例えばとある医学部の試験会場で、筆者の隣にいた受験生は「なぜ医学部を目指したのか?」という質問に対して

「父親が医者で、その仕事っぷりに憧れたから」

と回答していた。それで試験管は全然納得していた(なおこの受験生はその後に筆者と同級生となった)医学部入学後にも複数人の教員に話を聞いたが「身内に医療関係者がいる人は医者の仕事がどういうものかわかっているから、就労後もやりやすい」というような事をいっていた。まあつまり、志望理由なんてどうとでもなるのだ。

 

ただまあ実際問題、医者の仕事にも色々ある。

患者と向き合う職業もあれば、向き合わなくてもいい職業もある。一番大切なのは、医学に興味があるというただ1点だろう。医学が面白そうだと思ったら、そこまで難しいことを考えずに医学部をぜひ志願して欲しい。

仕事としてやりがいがあるのは間違いない。それだけは断言しよう。

 

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著者名:高須賀

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