あるコンサルティング会社がある。
勢いがよく、たった数年で既に数十人の規模に成長したとのこと。一人あたりの年間売上は大手コンサルティング会社を凌ぎ、クライアントの信頼も厚い。
テクノロジー分野に特化したコンサルティング会社なので、時流に乗って成長中で、コンサルタントたちの意欲も非常に高く、情報系の博士号保持者や、巨大ECサイトをチューニングしていた元エンジニアなどが集結している。
人材の獲得競争も激しいと思うが、経営者は
「採用は順調」と、余裕である。
どうやら知り合いの紹介会社を通じて採用を行っているらしいのだが、かなりの応募がきているとのこと。
このくらいの人材だと、他社からのオファーも少なくないはずだ。
「どうやって質の高いコンサルタントを揃えているのですか」と経営者に聴くと、次の答えが返ってきた。
「そうですね、まずは給料を他社よりかなり高めに設定することですね。」
「お金が重要なんですか」
「もちろん彼らは他でも良いオファーはもらっています。ですが、給与の額は「我々が人をどれだけ大事に考えているか」のバロメーターとして見られますし、社会的な地位と収入は密接な関わりがあります。だから我々はお金を惜しみません」
「なるほど」
とはいえ、なんとなく分かる話ではあるし、他社でも聴く話ではある。
だから、私はもう一度聞いた。
「それだけで、これほどのチームになるのですか?」
「もちろんちがいます。我々が重視しているのは、なによりも「仕事の質」です。」
「仕事の質?」
「そうです。」
「仕事の質とは、具体的に何を指すのか、教えていただいていいですか?」
「単純ですよ、上位5%の人材がやりたい仕事は、究極的には「世の中へのインパクトが大きいこと」と「優秀な人と仕事ができること」の2つを満たすことが重要なのです。ですから、我々は請ける仕事を注意深く選定します。」
「選定というと?」
「文字通り、仕事を選ぶんです。大手企業からの依頼であっても、ものすごくつまらない仕事がたくさんあるんですよ。部署間の調整だけをやらされたり、下請け的な依頼であったり。そんな仕事は社員のモチベーションを下げるので、出来得る限り、引き受けません。」
「ああ、そういうことですか」
「そうです、あと特に重要なのはお客さんの責任者がどれだけ優秀か、って言う視点ですね。」
「なぜですか?」
「先程申し上げたとおり、お客さんが優秀でないと、仕事していてもつまらないからです。干された人材のお守りや、時代遅れの官僚の相手なんて御免です。」
「そんな会社あるんですか。」
「「コンサルタントは社員のかわりになる」と思っている会社が結構あるんです。実際にはそんなうまくいかないですよ。」
聴くと、彼らは一度、大量の人材流出を経験しているらしい。
「一度、大量の離職がありまして。」
「なぜですか?」
「私が悪いんですが……要するに「売上のたくさん上がりそうな仕事」ばかりを受けてしまったわけです。」
「それがダメなんですか?」
「売上を中心に考えると、稼働に対して実入りが大きな仕事をどうしても優先します。ただ、それだと退屈な仕事も増える。うちの社員たちには物足りないんです。
それで一度皆で話しまして、志の高いお客さんの仕事だけを引き受けよう、自分たちが「やる価値がある」と思う仕事だけを受けよう、規模を追求するのはやめよう、という結論になったんです。」
なかなか茨の道だ。
「業績はどうなりました?」
「直後はけっこう落ちました。でも1年半くらい我慢すると、徐々に「恐ろしく成果の出る案件」が出てきましてね。ああ「案件の質」は重要なんだと、認識したわけです。」
「なるほどー、忍耐ですね。」
「そうです、「世の中へのインパクトが大きい試み」と「優秀な人と働くこと」が満たされれば、優秀な人はメチャメチャ働きます。それこそ寝食を忘れて、ライザップじゃありませんが、成果にコミットするんです。
すると、次の引き合いもそう言った仕事ばかりになる、いつの間にか、会社の売上は回復して、おまけにプロジェクトの内容だけで人材を惹きつけられるっていうことです。」
—————-
コンサルティング業界は現在、成長分野だ。
コンサルティング業界の世界ランキング:売上トップはマッキンゼーでもBCGでもない
冒頭にも述べたように、世界のコンサルティング産業は、経済の発達した先進国、とりわけ、米国の市場に依存してきた。しかし、ITがグローバルに行き渡るのに伴って、裾野は広がっている。世界各国の政府や大企業が大型の情報システムを導入する機会が増え、大手ファームのビジネスチャンスも拡大しているわけだ。
今後、コンサルティング産業の成長が期待されている市場の一つが日本。実際、IDC Japanの調査によれば、2014年 国内ビジネスコンサルティング市場は3,090億円で、前年比7.1%の大幅増となった。市場全体は縮小傾向にはあるものの、市場規模が巨大であり、コンサルティングの普及率がきわめて低いのが理由である。欧米の大手ファームも日本市場を依然、重視している。日本の企業では、ビジネススタイルのグローバル化もあいまって、コンサルティング産業は大きく伸びるだろう。(ビジネス+IT)
今後ますます、こういった「知識労働者」の活躍する分野は増えるに違いない。そして、その高度な知的労働をこなす、トップ5%の人材を引きつけるための条件は、
・世の中へのインパクトが大きいこと
・優秀な人と仕事ができること
である。
ピーター・ドラッカーは次のように述べた。
仕事がすべてではないが、仕事がまず第一である。たしかに働くことの他の側面が不満足であれば、もっとも働きがいのある仕事さえ台なしになる。ソースがまずければ、最高の肉も台なしになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならない。*1
件の経営者は最後に言った。
「オフィスがキレイだったり、昼食が出たりなんてことは、まあ、関係ないです。要は、経営者の仕事って、「どれだけ仕事を面白くできるか」じゃないですかね。」
確かに、そのとおりなのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
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