もしも未来を見通せる機械があったとしたら。もしもその未来が必ずしも望ましいものではなかったとしたら。人間は、それに耐えることができるのだろうか。
SFではありがちなテーマであるが、このテーマに対して「安部公房」という作家が取り組んでいる。
安部公房は芥川賞など、数々の表彰を受けている、日本を代表する作家の一人であり、その代表作は「砂の女」である。彼の作品は非常に高い評価を受けており、早逝しなければノーベル賞を受けていたとも言われる人物である。
”大江健三郎は、安部公房をカフカやフォークナーと並ぶ世界最大の作家と位置づけている。自身がノーベル文学賞を受賞したおりには、大岡昇平、井伏鱒二の名前と共に安部公房の名前をあげ、もっと長生きしていれば、自分ではなくて彼らがノーベル文学賞を受賞したであろうという事を述べている。実際に、ノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーのノーベル委員会のペール・ベストベリー委員長は、2012年3月21日、読売新聞の取材に応えて、「(安部公房は)急死しなければ、ノーベル文学賞を受けていたでしょう。非常に、非常に近かった」と語っている。”(Wikipedia)
さて、今回紹介したいのは代表作ではない。佳作として位置づけられている、「第四間氷期」である。Wikipediaにはネタバレが載っているので見ないことをおすすめする。テーマは一般的だが、安部公房の独特の世界観が反映された、変わった作品である。
物語は、日本人の科学者が「未来を見通せる機械」を他国に対抗して制作することから始まる。政治的な思惑から、「政治の未来」を見通すことを禁じられた彼らは、「国家」ではなく、「個人」の未来を予測することで、この発明を世に役立たせようとする。
そのために、とりあえずは偶然目についたある男の将来を予測すべく尾行を開始するのだが、驚くことにその男はすぐに殺されてしまう。尾行が警察にばれれば、自分たちが容疑者となってしまう。恐れた科学者は、殺された男を予言機械につなぎ、真相を解明しようとする。
ところがその捜査を妨害しようとする謎の人物からの電話があり、ついには科学者の妻にも危害が及ぶ。裏に何かしらの意図を感じた科学者は、調べを進めるうちに、ある意外な事実と、人類に課せられた過酷な運命を知る。
過酷な運命を知った科学者は、こう言う。
「化け物の中で一番おそろしいのは、よく見知った人間が、 わずかばかり変形した奴なのだ。」
SF仕立てであるが、極めて日常的な風景から突如として「現実とは思えない未来」を突きつけられる人の「恐怖」や「価値観の変異」への反応がとてもよく描写されている。
企業においても「変化」に抵抗する人は多いが、もしかしたら彼らには同じような世界が見えているのかもしれない。
オススメの一冊である。
(2026/6/2更新)
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