若者はいつの時代も、上の世代から「これだから最近の若者は」と言われるのが常だ。

最近だと、「若者は我慢が足りない」「最近の子はすぐに仕事を辞める」などと言われることが多い。

 

実際、厚生労働省の統計によると、2014年の新卒就職者のうち12.3%が1年以内に離職、2013年卒の31.9%が3年以内に離職している。

学生と企業が多大な時間とカネと労力を使って就職、採用活動をしたにも関わらず、なんでこんな結果になるのだろう。また、早期離職を防ぐためには、どうすればいいのだろうか。

 

ミスマッチによる早期離職はデメリットばかり

2017年3月に大学を卒業する学生の「就職観」について調査した『マイナビ大学生就職意識調査』では、「楽しく働きたい」と答えた学生が29.9%で最多だった。

一方、労働政策研究・研修機構の『若年者の離職理由と職場定着に関する調査』における「若年者の前職の離職理由」では、「仕事上のストレスが大きい」が31.7%で第1位となっている。

多くの学生が「楽しく働きたい」と言っているのに対し、転職者の離職理由のトップが「仕事上のストレス」となるとは、なんとも皮肉なことだ。

 

この2つの調査結果を踏まえると、就職する側の仕事内容や労働環境への認識と企業が用意している現実との間に、明らかなギャップがあることがわかる。

早期離職は、求職者にとっては就職活動が二度手間になったり無収入期間ができるなどのデメリットがある。企業にとっても、採用や新人研修のために行った投資を回収できないという問題がある。

離職自体が悪いことではないが、「本来防げたであろう採用者と求職者のミスマッチを減らすこと」は、企業にとって大きな課題と言えるだろう。

 

ドイツには「試し働き」というデートがある

採用者と求職者のミスマッチを防ぐ方法として、ドイツ流の「試し働き制度」を提案したい。

ドイツでは、雇用契約を結ぶ前に「試し働き」をする傾向がある。面接のあと実際に職場で働いてみて、その後採用か不採用かの返事をもらうのだ。

経験や専門知識が必要ないサービス業で行われることが多かったが、最近は様々な業種でこの「試し働き」が導入されている。

 

試し働きは、労働契約を結んでいることが前提とした試用期間とも、就業体験のための社会勉強であるインターンシップともちがう。

試し働きは、互いがより理解し合うために、求職者が実際の職務に従事し、その働き振りを見て採用の可否を決める採用活動の一部だ。

 

実際、わたしが経験した試し働きについて紹介よう。

わたしは以前ホテル業に興味を持っていて、フランクフルトの高級ホテルに面接に行った。そして3日間試し働きをオファーされた。その後互いが働きたい、採用したいという意思があれば、採用となる。

 

憧れの仕事ということで気合いが入っていたのだが、ホテルでは現場主任はわたしが来ることを知らずに放置され、世話をしてくれる先輩はサボってばかりだった。さらに人種差別的な雰囲気を感じ、わたしは完全にそのホテルが嫌いになってしまった。

結果、試し働き2日目の夜、人事担当者に辞退を伝えた。もし試し働きをせずに働き始めてしまっていたら、私はすぐに離職していただろう。

よく「就活はお見合いだ」と言われるが、就活がお見合いなら、試し働きはデートと言えるかもしれない。

 

就職説明会でお見合い相手を探し、エントリーシートという釣書きを提出する。その後、面接という顔合わせをセッティングし、相性が良ければ「就職」という結婚が待っている。だが日本の採用過程には、そこに時間と経験を共有する「デート」という要素が欠けている場合が多い。

お見合い相手が好印象だったとしても、デートをしてみたら金遣いが荒かった、時間にルーズだった、といった面を知ってがっかりすることもあるだろう。

 

これは就職でも同じで、「実際働いてみたら思っていたのと違った」ということは誰にでも起こりうる。双方の意識のすり合わせのために、企業と就職者が互いに理解し合う「デート」という段階は、必要だ。

 

双方にメリットがある「試し働き」の検討を

「デート」のひとつのかたちとして、たとえば、最終面接に進んだ求職者にいくつかの部署で1日試し働きをしてもらうのはどうだろう。

企業は求職者の働きぶりを見て合否を決められるし、求職者も実際の職場の労働環境を見てから内定を受け入れるかどうかを決められる。

 

試し働きの状況次第では、内定を出す時に配属予定部署を通達することもできるだろう。そうすれば、働き始めてから希望しない部署に配属されたことを理由として離職する就職者は減る。

また、試し働きを導入すれば、企業が労働環境の改善を意識するようになるだろう。劣悪な環境ならばすぐに口コミが広がり、優秀な人は来なくなるのだから。

 

企業は求職者の人柄だけでなく能力も把握した上で採用するので、早期離職を防ぐことが出来る。求職者は具体的な仕事内容や労働環境を知った上で、企業が自分に合っているかを見極められる。Win-Winだ。

 

試し働きが無賃金であること、労働契約書なしに働かせることなどについて法的な懸念要素もあるが、ミスマッチを防ぐという意味では、試し働きの導入は検討の価値がある。

 

試し働きは企業の負担が大きいように思えるが、何度も企業説明会を開き、何度も面接を行って選んだ人材が離職することを考えれば、大きすぎる負担ではないだろう。

働き方改革が注目されるなかで、採用システムの見直しも叫ばれている。ミスマッチによる企業と求職者側の損失を踏まえ、ドイツのような試し働きを導入してみるのはどうだろうか。多少なりとも、ミスマッチは減るだろう。

 

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【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

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(Photo:mcflygoes88mph