先日読んでいた本の中で非常に興味深い記述をみつけた。
見波利幸さんによる「心が折れる職場」によると、うつ病の原因として最も多いのは長時間労働やパワハラよりも、
人前で自分の能力の無さが露呈する事にあるという。
鬱になる原因のほとんどは長時間労働ではなく、人前で自分の能力の無さが露呈する事にあるっていう指摘は興味深い。確かに、仕事と自分の能力が見合ってなく、かつ短期間でどうこうできないのが心底理解出来たとき、物凄くストレスを感じる。逆に言えばどうにかなるレベルのものは大体耐えられる
— 高須賀(゚Д゚ υ) (@takasuka_toki) 2017年6月24日
本に書かれている事例はこのようなものだった。
とある企業のサラリーマンが、プロジェクト・チームのサブリーダーとなった。
彼はその仕事を一生懸命頑張っていたそうなのだけど、チームのプランを役員の前でプレゼンする直前にうつ病を発症してしまい、見波氏の診察をうけることとなった。
上司や同僚は「仕事が忙しすぎて鬱になってしまったのだろう」と言う風に思っていたようだけど、メンタルヘルスの専門家である見波氏いわく、彼の鬱の本当の理由は
「役員の前でプレゼンして自分の能力不足が暴かれる事の逃避行為」なのだという。
人の目の前で自分の能力不足を堂々とプレゼンするという強烈な”恥”をさらすという事が、人の心に強烈なストレスを与えるというのは個人的にも非常に納得がいくものがある。
これを読んで自分の部下への対応をまた一から見直そうと認識を改にしたと同時に、これは悪用すると非常に強力な選別装置として働くなと思ったので、今日はブラック企業がなぜブラック足り得るかについて書いていこうかと思う。
ブラック企業のやってる事は選別試験である
ハンター✕ハンターという漫画がある。
この漫画のキメラアント編において、キメラアントが国民を強制的に”選別”する儀式の場面があった。
知らない人向けに簡単に説明すると、国民全員を強烈にぶん殴って死んだやつは失格。生き残ったものは強いから戦士として合格、みたいな野蛮な行いである。
これは物語だからまだ笑ってみていられるけど、現実社会でやればかなり問題がある。
しかしそれをやっている場所がある。ブラック企業だ。これを行うことでブラック企業に務めるものは、8割はメンタルが死に、ごくわずかの人間はメンタルに多少の問題を抱えながらも企業戦士になれる。
全くなにも問題なくいられるのは、全体の0.0001%ぐらいの人間だろう。
人には能力というものがある。私達のほとんどが労働市場に売りに出されるのだけど、学歴というのはこれを受験戦争というマイルドな形でゆっくりと行う選別行為だ。
学歴フィルターなんて単語があるけれど、ペーパーテストで点が取れるのは事実ある種の事務能力に優れているという事の証明にはなる。
就活生を毎年毎年何百人、何千人と選別しなくてはならない側の立場からなれば、学歴である程度フィルターをかけてしまうというのは作業の効率化に他ならない。これはまあ、仕方がない事である。
こうして上の企業から順に”誰でも欲しがる人材”が引き抜かれていく。
まあ人に人をみる目なんてないので、就活というこの選別試験はある種の茶番なのだけど。現実問題としていわゆる上場企業の正規職員という身分を手に入れる為には、この方法をくぐり抜けないといけない。熾烈な世の中である。
こうして生きのいい就活生が一通り抜けた後から、中小企業が優秀な人材を再びフィルタリングにかけるのにどうすればいいか。
経営者として、優秀な社員は喉から手が出るほど欲しいが、かといってそれがわからないからみんなして採用で困っているのである。
その解決方法のうちの1つとして、とりあえず取れるだけたくさん学生をとって、とった後に強烈なまでの負荷を新卒に与えるという方法がある。
企業研修と称して、入社直後にわけの分からない事をさせたり、長時間労働を与えたり、能力以上の仕事を与えたりという事をひたすら続けるというのがそれだ。
情けない事に私は・・・・研修中に倒れてしまったのです。そして私はそのまま病院に担ぎ込まれました。
その日の研修の内容は「向かい合ってお互いの悪い部分を言い合う」というモノでした。
全国から集まった30名近くの研修生がローテーションしながら10分程お互いの悪口を言い合うのです・・・が
あまりに口汚い罵り合いに、私は疲れ果ててしまいついに・・・・・倒れてしまったのです。
当たり前だけど、こんな事をすれば普通の人は潰れる。この方法が恐ろしいのは潰れるのが前提でこれをやっている事である。生き残った強い戦士だけが欲しいのだから、当然だ。
小さい頃からの受験戦争によりフィルタリングされた数千人の中から1人を抽出するという、ゆっくりとした選別が就職活動だとすれば、ブラック企業の選別はまさに、ハンター✕ハンターのキメラアント編における
「全員殴ってって、生き残った奴が優秀な奴」
という非常にスピーディだが野蛮な方式である。なんてえげつない行いだろうか。
アットホームや成長という単語に含まれる禍々しさ
やりがいの1つに成長を掲げるタイプの会社がある。
成長というと非常にポジティブな単語にみえるけど、これは噛み砕いて言えば”できなかった事ができるようになる状態”といっても過言ではないだろう。
しかし考えてもみてほしい。できないことというのは、冒頭にも書いたけれど強烈な恥にも直結しやすいものなのである。
もし仮に仕事を投げられて、それができないで”成長”できなかったとしたら、冒頭に書かれた社員のようにうつ病になってしまう人も結構いるだろう。
だから、個人的には”アットホームな職場です”とか”成長できる職場です”といった単語を掲げているタイプの企業には恐怖しか感じない。
アットホームというのは生き残った社員は仲が良いという事だから、逆に言えば企業文化に染まれなかった人間は全員討ち死にしているというふうにも読み解けるし、成長できるというのは生き残った人は結果的に成長できたという事であり、成長できなかったら死ぬという風に読み解けてしまう。
もちろん世の中のほとんどの会社は良心的だと思う。こういうヤバイところは、悪目立ちしているだけでそんなに多くはないのが現状だろう。
とはいえ参考としてあげたブログのような実例もあるわけだから、出来る限りそういうものとはかかわらないように生きていきたいものである。
人を選ぶって、なんにしろ本当にエグい行いである。AIが登場して、これがいかようになるのかは非常に興味深い事だけど、今よりもっと残酷な社会が到達したら、嫌だなぁ。
(2024/1/22更新)
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